74 友人珪は反省中
夕食を食べ終わる頃に旦那が来た。なので、少し話をして洗濯物を持って帰ってもらった。
そういえば今日はキャンが来ていないと、今更ながら気がついた。昨日のあれが効いたのだろうか? それに昨日と今日はのりちゃんに会っていない。のりちゃんは休みなのかな?
そんなことを考えながらベッドを出た。洗面スペースで歯を磨いてベッドに戻ろうとしたら、部屋に入ってくる人がいた。
「舞」
「珪・・・来たんだ」
私のこの言葉に珪が頭をかいた。バツが悪そうな顔をしている。
「その・・・少しいいか」
「もちろんいいけど」
ベッドに戻って腰かけたら珪も椅子に座った。ので、向かいあう形になった。
「ベッドに入らなくて寒くないのか」
「病院内は一定温度じゃん。寒くも暑くもないよ」
まだ珪の視線は定まらない。というか、私と目を合わせるのを避けていた。意を決したように私を見たと思ったら、持っていた鞄を開けて封筒を取り出した。
「それって・・・」
「あいつらからのお見舞い」
「要らないって言ったのに」
「まあ、そう言うな。それに中身は浩輝さんに渡してあるから。これは皆から舞に宛てた手紙だよ」
そう言って差し出してきたから受け取った。封筒を開けてみると確かにお金は入っていなかった。お返しが面倒だなと思ったら珪がまた言った。
「お返しをしなくていいように金額を1000円ずつにしていたから」
「それって微妙な・・・」
「退院してから集まった時に何か渡せばいいだろう」
「しばらくは無理だよ」
「集まりは無しといったのは本気だったのか?」
「本気も何も、しばらくは出掛けられないってば。うちに集まるのも無しね」
「忙しいのか」
「忙しいには忙しいけど、気持ちが落ち着かないんだよー」
戸惑ったような顔をする珪。
「だからさ、高校の総会までが本部役員なわけでしょ。入れ替わりで中学のPTA会長になるじゃない。高校のほうは私がやることは少ないのよ。でも、最後まで気を抜けないし。中学は今まで関わってないから、どうなるのかわからなくてさ」
「そんなに違うのか」
「うん。小学校が一番やることがあったよ。だからさ、夏までは気持ち的に余裕がないの」
「そうか。わかった、皆に言っておくよ」
・・・ほお~、こんな台詞が出るってことは、あのあと皆と話したんだ。
私がそんなことを思って珪の顔を見つめていたら、気付いた珪がフイッと視線をそらした。
「その、昨日は悪かった。・・・舞がずっと怒っていたなんて知らなかったよ」
「別に、ずっと怒ってはいなかったけど」
「・・・あれだけ言っておいて?」
「腹立たしくは思っていたけど、怒ってはいないってば」
「あー、どう違うんだ」
「怒るのってパワーをすごく使うじゃない。そんなずっと怒り続けるなんて出来ないでしょ」
「だから腹立ち・・・」
「そうよ。イライラって体に悪いよね~」
「それをずっと・・・」
「だから、違うってば。そんなずっと考えていたら、疲れるし神経が休まらないじゃない。ここ何年かは皆と会う前後に思っていただけだから」
私の言葉に絶句した珪。表情をどうしていいか分からないという感じに、瞬きを繰り返していた。一度息を吸って吐きだすと、珪は口を開いた。
「でも、俺には怒っていたんだろ」
「そうね。忘れていようとしても、顔を合わせる機会が多いものね」
私の言葉にグッと言葉に詰まる珪。それでも何とか言葉を続けてきた。
「舞、本当に悪かった」
そう言って頭を下げる珪。私はその姿を見つめながら静かにいった。
「本当に解って言っているのよね」
「ああ。今までの繋がりを簡単に断とうとしたからだろ」
「それだけじゃないんだけど」
私の言葉がわからないのかまた目を瞬かせた。
「ほ~ら、やっぱりわかってない」
「えーと?」
「だからさ命も簡単に捨てようとすんなよ」
少し声のトーンを落として言ったら、珪は驚きの表情を浮かべた。しばらく口を開けたり閉めたりしていた。そして一度唾を飲み込むと口を開いた。
「ごめん。そんなつもりはなかった」
「口では何とでも言える。でも実際の行動がそう見えたんだからね」
「ああ」
「本当に分かっているんだか」
「・・・悪かった。本当に反省しているから・・・泣かないでくれ」
本当に泣きたくないのに、勝手に涙が溢れてくる。珪は困ったように私の顔をみていた。私は立ち上がって棚からタオルを取り出して目にあてた。
「バカ珪」
「ああ」
「そんなにいらなきゃ、残りの寿命を寄こせや」
「それが出来るならな」
「・・・おい、簡単に他人にやるなよ」
「他人にはやらないよ。舞だからやるんだよ」
「・・・だから人に渡すなっていってんだろ」
「はい、はい」
グチグチと言っていたら頭に珪の手が乗ってきた。そのままポンポンと軽く叩いてきた。
「叩くな珪」
「いや、撫でるのは違うと思って」
「じゃあ、触んな」
そう言ったら珪の手が離れていった。しばらく黙っていたら沈黙に耐えられなくなったのか、珪が訊いてきた。
「あー、舞。退院の時間は分かったのか」
「・・・そういえば今日は言われなかった。明日わかると思う」
「それなら、また明日来るよ」
立ち上がる気配とサイドテーブル?に何かが置かれる気配がして、タオルを目から離したら、水のペットボトルが置かれていた。目線で問うたら「昨日、舞が飲まなかったやつ」と言われた。
律儀なのか何なのか分からない行動に、笑みが浮かんだのでした。




