39 私の好みの人?
私の好みがバレる?
それでも何か納得できないのか、のりちゃんは顔をしかめて言ってきた。
「でも、やっぱり私には舞ちゃんと珪くんの関係は不自然に見えるの。さっき珪くんが言った「タイミングが悪くて結婚できなかった」は本音じゃないの?」
のりちゃんのこの言葉に私は珪のことを、改めて睨みつけた。
「ほら~、紛らわしいことを言うから誤解されてるじゃん」
「だけど、本当のことだから仕方がないだろう」
のりちゃんはそう言った珪のことをジッと見つめた。
「それじゃあ、あの言葉は舞ちゃんとのことじゃなくて、他の人とのことなの?」
「ああ」
「人生いろいろあるのよ」
私がうんうんと頷きながら言ったら、のりちゃんが何かを分かったような目で私を見てきた。
「ねえ、珪くん。もしかしてその相手とのことで、舞ちゃんにお世話になってない?」
「よくわかったな、のり。そうなんだよ。俺、舞に借りがいっぱいあって、頭があがんねえの」
「なんか、私が知らない間も舞ちゃんは舞ちゃんだったのね」
「そうそう。基本お人好しでお節介で、人のこと見捨てられないやつなの。おかげで娘と会うことが出来るようになったんだ」
「珪くん、娘さんがいるの?」
「いる」
「えっ、でも結婚してないって」
私は珪の言葉に少し焦った。このことって秘密じゃなかったっけ?
「ちょっと珪。いいの?話して」
「あいつらには嫌だけど、のりなら大丈夫かと。俺達は、俺の大学と舞の就職先が近くて、大学時代にたまに会っていたんだよ。俺の彼女とも一緒に飲んだことがあってさ。というか、俺を抜きでたまに会っていたらしいんだ。それで彼女に去られた時に慰めてもらったし、彼女がなんで何も言わずにいなくなったのか、舞がわざわざ会いに行って訊きだしてくれたりな」
・・・のりちゃん、そんな目で見ないでよ。私も珪にはその前にお世話になっていたからだもん。私の中での大失恋の時に慰めてもらったんだもん。本当に好きで彼が私を受け入れてくれたのなら、家を捨ててでもついて行こうって思った人だったんだもん。
「舞~。それ、また口に出しているからな」
「ワザとだもん」
のりちゃんを見たら目があっちこっちに泳いでいる。訊きだし過ぎたと思っているようだ。
「のりちゃん、珪と私はこんな感じなのよ」
「えーと、なんかごめん。立ち入り過ぎたね」
「別に~」
「そうだぞ、のり。隠すようなことじゃないからな。さっき舞が言ったように、人生いろいろなだけだからな」
「でも、珪くんは結婚しなかったのよね」
「それなぁ~。社長の甥って言う立場狙いの女しか寄って来なかったんだよ。他にも見合いを勧められたけど、いかにも繋ぎが欲しいって感じで嫌気が差したし。それなら結婚しなくてもいいかなって」
「え~?でも珪くん長男でしょ。おじさんは何も言わなかったの」
「親とは一時期疎遠になったよ。望まない見合いを押し付けてきたから。まあ、最終的には伯父が味方になってくれたから、丸く収まったけど」
ニヤリと笑う珪にのりちゃんは珪と父親の関係を思い出したのだろう。保守的な考えの父親を嫌っていた珪。理由は他にもあったことを知った時には驚いたけど、だから珪は珪なんだと納得もしたっけ。
「でも・・・しつこいようだけど、もう一度言わせて。珪くんと舞ちゃんはお似合いだと思うの。今の話でも、特別な感情が見えるというか」
「気のせいよ、のりちゃん」
「そうなんだよ。俺はこんなにも好きなのに舞は分かってくれないんだ」
私が否定したのに、珪がまた誤解させるようなことを言った。
「しつこいんだけど、珪。私口説かれた覚えも、告白された記憶もないんだけど」
「おっま、ひでぇ~な~。忘れてるのかよ」
珪の返事に首を捻る。
「え~?珪くん、本当に舞ちゃんに告白したの」
「ああ。一足遅かったけど、婚約前だったから奪ってやろうと思って」
ん~~~?
「あれって、本気だったの?」
「本気も本気!浩輝さんと会ったあとだから、奪えると思ったのに、全然靡かなかったの、こいつ」
おい!その言い方だと、私が悪いみたいじゃないか!
「だからね、舞ちゃん。珪くんの方がイケメンでしょ。舞ちゃんの旦那さんは優しそうな人だけど、絶対珪くんの方がにあっているの!」
・・・今更力説されても・・・。
「だけど、のり。俺じゃあ無理だって」
「どうして?」
「舞の好みじゃないんだと」
「なんで~?こんなイケメンよ~」
のりちゃん・・・一応あなたは看護師さんよ。この病棟の!あまり大きな声を出さない方がいいんでないの。
「じゃあ、どんな人が好みなの。・・・って、旦那さんがそうか~」
「いや、旦那の容姿は好みじゃない」
つい、本音がポロリ。
「えっ?それなら珪くんで良くない?」
「良くない!こんな奴と結婚したら心の平穏が保てないもの」
「ひっで~。俺、立ち直れない」
珪がいつものようにお道化て言った。それに私はニヤリと笑いながらウインクをする。
「仕方ないじゃん。現実世界には理想の人はいないんだから~」
のりちゃんはこれでもか、というくらいに大きく口を開けて私の方を見ていたのでした。




