33 見舞客は、まだ襲来
この日は見舞客が多すぎ!
彩未さんと友利さんは手に持った袋を見せながら言ったのね。
「要らないって言てったけど、受け取ってね」
渡されたものを見て絶句した。
「来てくれてありがとう。・・・なんだけど、なんでこれなの?」
「え~、この間補充しないとって言っていたでしょ。安心して、池上さん。私達8人、500円ずつしか出してないからね」
彩未さんがそう言って、握った手を私の方に出してきた。なので私は手の平を広げて彼女の手が開いて落ちてきたものを受け取った。
「飴?なんで」
「さっきから、なんでばっかりね。それを買った残りのお金がちょうどこの飴玉の金額なのよ」
えーと、それはどう取ればいいのかな?
「それよりも検査入院だって言っていたのに、入院前より顔色が悪くない?」
「そうよ~。なんか白いわよね」
ウッ。2人にも言われてしまった。だから丁度いい言い訳を言うのさ。
「あー、それがね、夕べ眠れなくてさぁ~。なんか夢見が悪くてね、1時間おきに目が覚めたのよ」
「それじゃあ、長居しない方がいいみたいね。次の役員会は退院していても無理に来なくていいから。その後の新旧のほうには来てほしいけどと、会長の伝言よ」
「そうそう。それで体調が良ければそれを使って作ってきてくれると嬉しいかな」
結局、私が作るお菓子狙いですか。渡されたものはシフォンケーキとパウンドケーキとカップケーキの紙の型。これに生地を流し込めば、そのまま持っていけるよね。
「マドレーヌの型も欲しかったな」
「そこまでは買えないわよ」
まあ、そうよね。
「ちなみに食べたいものは?」
「私はフォンダンショコラがいいけど、無理しないでね」
「私はこの前作ってくれた、オレンジのパウンドケーキがいいかな」
「それと光代さんがタルトタタンだって」
「りょーか~い・・・ん?」
あれ?そいえば光代さんがいないよね。
「ねえ、光代さんは?彼女が来ると思ったのに」
「それがね、月曜から歩美ちゃんがインフルエンザにかかっちゃって。だから私達が頼まれたの」
あー、それでか。光代さんは役員の中で一番仲がいいの。来ないのはおかしいと、思ったのよ。
ウンウンと頷いていたら、2人が顔を見合わせてアイコンタクトをしていた。
「じゃあ、もう帰るわね。とにかく養生してね」
「お大事にね」
「ありがとう。気をつけて帰ってね」
そうして2人は帰って行ったのでした。
2人が帰ると私は冷蔵庫からミネラルウォーターを出してコップにいれた。それを飲んでから、フムっと考えた。
なんかさぁ~、お見舞い品が被らないのはいいけどさぁ~。そりゃあね、お菓子を作るのは好きだし、ほぼプロ級の腕はあると思っているけどさぁ~。なんで、お見舞い品があれなわけ?誰かが連絡を取っているとか?・・・イヤ、流石にないでしょう。うん。
「何を考えこんでいるの舞子ちゃん」
不意に声を掛けられて顔を上げると、見知った顔がまた2人。
「由希子お姉ちゃん?依子お姉ちゃん?えっ?ええっ~?」
2人は私のいとこで、姉妹だ。今回の入院のことは親戚に話していなかったから、何故2人がここにいるのか分からずに、素で驚いた。
「水臭いわよ。親戚に知らせたくないのは分かるけど、私達くらいには教えときなさいよ」
由希子お姉ちゃんが軽く睨むようにを私を見てきた。けど、目は笑っていた。依子お姉ちゃんも笑うように見ている。
「でもね、検査入院なのよ」
「ええ、聞いたわよ。香緒里さんに。だから来たのよ」
香緒里さんか~。香緒里さんは未就園児のための幼児教室で仲良くなったママ友。残念ながら同い年の子供同士ではないけど、家も割合近くてよく顔を合わせている。香緒里さんの上の子と依子お姉ちゃんの下の子が幼稚園で一緒で、卒園してからも未だに仲がいい。
・・・チッ。本当に余計なところで繋がるんだから。
「舞子ちゃん、なんか悪い顔をしているわよ」
「えー・・・いえいえ、何も不穏なことは考えてませんから!」
「舞子ちゃん、口が滑ってるから」
「あっ!」
その後はなんで入院することになったのかを話して、他の親戚には話さないと約束してお姉ちゃんたちは帰って行ったのでした。
ホッと息を吐き出したら。
「あんたもいろいろ大変ね」
と言ってキャンが顔を出してきた。
「キャン?いつからいたのか訊いても?」
「うん?さっきよ、さっき。あの従姉さん達のすぐ後に来たんだけど、一緒はまずいかな~って、待ってたの」
そんな気を使わなくていいのに。まあ、でも、キャンとは他の人を交えずに話をしたいかな。
「ねえ、夕べは休めたの。昨日より顔色悪いんだけど。もしかして尚人君が寄こしたメールって本当のことなの」
・・・やっぱりやりおったか、あやつは。変に拡散して収集がつかないことにならないでしょうね。
「そこはまだ大丈夫よ」
「あれ~、また口にだしてた?」
「舞子、そんなボケはいいから。で私に言いたいことって何?」
「んじゃあ、真面目に。尚人の拡散を止めて」
「無理でしょ、それ」
「無理でもお願い」
「心配しなくても大丈夫だよ、母さん」
キャンとの会話の人物、尚人がひょっこりと顔を出したのだった。




