愛しき乙女の断罪~結末をあなたに~
令嬢の婚約破棄もの。初めて書きましたが難しいですね。
「エルリール・ヴィスパー。お前との婚約は無かったことになる。今までご苦労だった」
いきなりだった。いきなりそんなことを言われた。そんなことを言われても私はどうすればいいのか分からなかった。
一体、何が悪かったと言うのだろうか。私の態度だったのだろうか。わからない。幸せな生活だったと思う。たとえ、政略結婚であろうとも私は彼を愛していた。今となっては彼はどうか分からないが。
「ま、待ってください!り、理由を……理由をお聞かせ願いませんか!」
訳も分からぬまま捨てられるのなんて嫌だった。そんなの耐えられなかった。
「ふんっ。エルリール、お前が婚約を求めて来たとき私はいい練習台になると思った。だから私はお前との婚約を了承したのだ。だが、もう不要だ。私の婚約者の為にありがとう」
婚約者と言って一人の女性の肩を抱いた。その方はとてもお綺麗な方で私には足元にも及ばなそうな人だった。でも今嬉しそうに微笑んでいる彼女の顔がとても醜く見えた。いや、彼女だけではない、メルヴィス様の笑顔も醜く見えた。
そうしてもう用は無いとばかりに控えていた騎士たちに命じ、私は外へ放り出された。
「くぅ……ぅ……ま、待って!待ってください!――」
お腹のこの子は?そう言おうとしたが言葉が出て来なかった。暫くその場で何も出来ないままでいたがゆるりと立ち上がって自分の家へ帰って言った。
――あれから十年が経ちました。まだお腹の中にいたこの子も今ではすっかり大きくなりました。ちょっとお転婆だけど可愛らしい元気な女の子に。
この十年間、大変でした。家からは子供を堕せと言われましたが私は嫌だと断り家をそのまま飛び出してしまいました。でも私よりも優秀な妹もいるので大丈夫だと思いました。
何も知らない小娘がお金を稼ぐのは苦労の連続でした。就いていた職も子を生んで辞めざるをえませんでしたし。そこからは時に娼婦として身体を売ってお金を稼いだりしました。幸い、先輩方が避妊具と称するものを作っていたため妊娠はしませんでした。娼婦として働いていたときのことなどは今でも時折夢で見てしまうことがあります。
そして冒険者として死と隣り合わせでお金を稼いだりしました。先輩の冒険者さんも親切にしてくれました。何でも女の冒険者は珍しく長く続けて欲しいからだとか。それで私は比較的に安全にお金を稼ぐことができたのです。
今、私の隣には愛する子供と愛する夫がいます。夫は冒険者時代にとても親身にしてくれたパーティーのひとりです。私と結婚してほしいと彼から告げられました。
彼がとても真面目で優しい人だと言うことはパーティーを組んでいて分かっていました。それでも二つ返事で了承する私って……。知らない内に彼に惚れていたのでしょうか。まぁ確かに嬉しくてその場で泣いてしまったけども。その後彼が慰めてくれてさらに泣けてきちゃって……。
とまぁ、そんなこんなで結婚することになり、娘も受け入れてくれました。夫も私と同じくらい深い愛情を娘に注いでくれてます。
幸せで大切な者が前よりもひとり増えた。そして、もうひとり増える予定だ。お腹の中にもうひとり。これはまだ娘にしか言っておらず、打ち明けた時にどのような反応をするのかと娘と二人で楽しみにしているんです。
あ、そうそう私の元婚約者が私を探しているようです。何でも国が大変だとか。知りませんね。私はただのエルリールで冒険者のエルリールです。娘のお母さんでもあり、夫の妻でもあります。そんな私が何をしろと?
「ただいまー」
夫が帰って来ました。私は直ぐさま娘と一緒に出迎えます。
「お帰りなさい、あなた」
「おかえりなさーい!」
そう言ってすぐ、突進するかのように向かって来る娘を夫は嬉しそうに抱きしめる。
「ねぇ、あなた。あのね――」
優しい瞳がこちらを向く。あぁ、私は幸せです。