報告、進展、相談。
「いやー、家が裏だったなんてね〜」
「そう...だな...。」
九条は俺の家の裏にある、アパート「清風荘」に住んでいる。
「それじゃ!また学校でねー!」
「じゃ」
ふぅ...。
嵐みたいな奴だった。But cute!
「ただいまー」
「おかえりー。珍しいね、夕飯食べてくるなんてー。また1人?」
1人じゃないんだな〜。
でも女子と食ってきたなんて言ったらうるさいだろうな。
てか"また"ってなんだよ、"また"って。
「うっせ」
完璧。
この素っ気なさと、たった3文字で肯定する態度、完璧。
「風呂は入れといたから、はよ入って」
「へい」
####
高2で自分だけ部屋がないコトに不満があるか、いやない。
弟と同じ部屋というのも悪くない。
最初は確かにウザかったりした。
小3のころとか自意識あるの?って感じでピーピーキャーキャーうるさかったけど、小5くらいから俺に似てきたのか話が合うようになってきた。
「真兄?夏アニメなにやるか把握してるー?」
「真弟よ。それくらい自分で把握しろ。モブライブ ムーンシャインくらいしか俺も把握しとらん」
「あっそ、姉さえいればいい。の4巻貸して」
「ほい」
俺の名前が真一であるがゆえに"真兄"と呼ぶ。
弟の名前が真二であるがゆえに”真弟"と呼ぶ。
義理の兄弟だったら”嘘弟"と呼んでいたかも。
ちなみに姉は真子。
普通に"姉さん"って呼んでる。
「いやー、この作者が姉に夢を持つのは分かるけどさー」
「現実は甘くないよなー」
「甘い甘い家庭ライフを送りたい人生だった...」
弟がそんなコトを言ったと同時に、ドゴォン!!とドアが壊れそうな音がドアから発せられた。
そしてドアの向こうから優しい優しい姉さんの声が。
「おやすみー♡」
ドンドンドンと廊下を歩く音が過ぎていく。
「あ、兄貴となんか話してられるか!俺はもう寝るぞ!」
「おっ、そうだな...」
####
朝のバスは混む。
ゆえに俺は登校時間より30分早く学校に着くバスに乗る。
同じ高校の奴らや電車通の輩は一本遅いバスで来るから、俺は優雅な一人登校ができる。
一本遅いバスなら久留島と同じバスなんだが、他の連中が嫌だから我慢。
そう!快楽に負けない男こそ真の男!ってばっちゃが言ってた。
そして、通信制限など気にせずバスの中でアニメを消化するべき、ともばっちゃが言ってた。いや、言ってないな。
今日の朝4時頃最新話のアニメでも見ようかと考えながら、バス停でバスを待っていると。
「あ!真くんだ!やっぱり一本目で登校してたんだ〜」
九条!?なぜお前がこの時間に!図ったな!
「え、なんでくじょ...じゃなくて、榛名がこの時間に...?てか真くんて...」
「家近いのに一回も同じバスで登校したコトないからさー。もしかして一本目かなーって!」
鮮やかに当たってますねその予測...。
勘のいい子は嫌いだよ...。
てか真くんについては無視か。
「これからは一緒に登校していいかな?」
「い...いいともー...。」
完全に乗せられた!?
「おっいいね、そのノリー。初めての反応だねー!」
どこまでもこいつは...。
「あっバスきたよー」
何が"これからは一緒に登校していいかな?"だよ。
頬赤くして言われたら、オチてたよ。
俺...久留島より...もしかして...?
ふと、ハッキリとした妄想にしてはリアルすぎる妄想が里見の脳裏をよぎる。
久留島「ね、ねぇ。これからは一緒に登校...しよ?」
ただいま、全俺。
ただいま世界。久留島はやはり女神だ。
やはり、久留島しかいないみたいだ。
浮気、ダメ。ゼッタイ。
####
「で!で?久留島とはどうなった!?」
「僕は信じてるよ...」
昨日のコトを説明した。
「はぁ!?お前!?久留島から九条に移籍か!?あまりにも贅沢すぎて移籍金で破綻すっぞ!?」
「となると次は九条さんを警戒...」
吉田ェ...。
「というわけだ。告るのはもう少し後になりそうだ。心の準備だけで結構疲れる。」
「そ、そうか...。ちょっと告ったお前に相談したいコトあったんだがな...」
「ん?なんかあんのか?」
「いや、いいよ!」
中々深刻そうな悩みを精一杯隠そうとする村上の爽やかな笑顔が、ここじゃ言えないと言っている気がして、深追いするのはやめた。
しかし、少しでも早くその悩みを聞いて楽にしてやりたい。
そんなコトを、いつの間に思えるようになったのか。
いつの間にコイツらの役に立ちたいと思ったのか。
案外、俺は簡単に人を好きになるのかもしれない。
####
「どう?何か面白いことはあったかな?」
でたハルナ=クジョウ=サン。
昼休みにラノベ読んでる時に突っ込んでくるとか危ないぞ。
にやけてる時に話しかけると顔戻せないから。
「面白いこと?」
「亜希の好きなモノとか知ったワケじゃん?なんか攻略法とかは?」
まぁ、そうだな。
好きな色が水色だから、小物のデザインで差し色として水色が入ってるってコトとか。大部分が黒い物ばっかだから黒が好きなのだと...。
あと、休み時間には大好きなホワイトチョコをひとかけらずつ食べてるとか。
見えてなかった、見逃してたものが見えてきて意外と面白かった。
はいはいそこの君、ストーカー臭いとか言わない。
まだ予備軍だからね?いや予備軍なのかよ。
「まだイマイチ思いつかないけど、お前のお陰でどういう物が好きなのか分かってきて面白いよ。」
「そう。ならよかった!」
「ハルー。コミュ英のプリント貸してーって、里見だ。何話してんの。」
わぁお。久留島だ。名前覚えられてる。わぁお。
「えーっと。いっつも本読んでるから何読んでのかなーって」
そんなの話しかける理由になんねーよ!
そんなので話しかけてたら図書館が合コンスポットになるよ!
「それ話しかける理由にならないっての」
え?久留島さん毎度毎度、俺の心読んでます?
「ま、いいや。何読んでんの」
ひょいっと、近くに来てタイトルページまでめくられる。
やばい!手が近い!いい匂いする!ちょっと屈んだ姿がまた可愛い!
「あ、これ。アニメ化決まったやつでしょ。私も読んでみたかったやつだ。」
まじか、こいつもアニメ見るのな。
これはアニメ化決まったから予習しようと思って買ったんだけどな。
「へー!亜希と真くん趣味合うんだー!今度その本貸してもらいなよ!」
くっ、わざとらしい発言だが、この展開と九条の性格なら当たり前の発言だ。
「うん。あとで貸して。」
「お、おう」
「ハル。早くコミュ英のプリント。」
「あ、はいはーい。じゃ、またね!真くん!」
「ばいばい」
ばいばい...。
可愛いな...。
ほんの少しだけど、久留島と関係を持てたのは九条のお陰と言って間違いない。
意外としっかり手伝われた。
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バス停で携帯を弄りながらバスを待っていると、昨日と同じように久留島ではなく九条が来た。
なんでお前なんだ?お前部活あるだろーに。
帰宅部の久留島が来ない方がおかしい。
「やーやーやー!偶然ですな〜真くん?」
「偶然て。てかお前、部活は?みんな練習してんだろ」
「実はウチ...今怪我してるんだー。練習したくても出来ないんだよね〜。大会近いのに〜。」
九条は県内でトップクラスの実力を持つ選手だ。
去年は1年生ながら国体にも出ている。
そんな選手が、練習できなくてウズウズしているだろうに。
えへへーと笑う九条の眉がハの字に曲がるのを俺は気づいた。
なんとなく申し訳ないと思う。
「そ、そうか...。昨日みたいに出歩かないで、ゆっくり休んで、早く治せよ。」
「え...あ、う、うん!ありがと!」
やけに嬉しそうな、顔。
悪いこと聞いたのはこっちなのに。
そんな時、携帯がメッセージの受信を知らせる。
俺はほんの一瞬、画面を見ると
【村上 : 朝言いかけた相談なんだけど、聞いてくれないか。5時にガフトに来てくれ。】
村上にしては珍しい文面。
いつもは
【村上 : 画像が送信されました。】
【村上 : 九条と久留島、他上位娘のプリゲットォォォ!】
という感じなのに。
何かあったのは違いない。
大事なことが。
あの明るい村上の文面を変えるような何かが。
「俺ちょっと用事が出来た。この前のバス賃、あとで返す」
「え、いいのに。じゃ、じゃーねー」