至高の一杯が食べたくて
...え?
「ねぇねぇねぇ?好きなんでしょ?亜希のこと、アッキーナのこと好きなんでしょー?」
な、何だこいつ!?
初対面だし、可愛いし、何なんだこいつ!?
「えっ...ぃいやー...」
やばいキョドる、今の俺どうなってんだろろろろろ!?
キモいかな?
いやキモいよね!?
というよりキモいよね!?
[次は〜駅前〜、駅前〜。お降りの方はボタンを〜]
すぐさまボタンを押しにかかる。
その時、世界が動いた。
「ちょっと待ったー!」
パシッと、九条が俺の手を掴む。
俺はボタンを押せない。
簡単に振り払ってボタンを押せるのに、振り払えない。
女の子に手を触られてるんですよ!?
しかも大人気九条さんに!!
心臓に血が流れ込み、顳顬から汗が流れ落ちる。
同時に心臓から血が出て行く感覚が物凄く気持ち悪い。
同時に襲う熱と冷気で、俺は1ミリたりとも動けない。
固まった世界のガラスを打ち破ったのは九条の言葉だった。
「事情聴取させてもらいまーす!」
####
[次は〜中央公園〜中央公園〜]
ピンポーン
九条がボタンを押した。
バス内では無言だった。
それをつまらない顔ではなく、少し口角を上げて外を見ていた九条に見惚れていた。
まるでデートとやらをしているのかという錯覚。
でも窓から顔出してる犬みたいで、どちらかというとほっこりしてた。
表情がアホっぽいんだよなこの人。
「さぁさぁ降りるよ〜」
ぐいっと俺の手を引っ張る。
痛い。
投入した整理券がドナドナされている内に財布を取り出そうとすると、横から2人分の乗車賃ともう1つ整理券が投入された。
「はい、降りる降りる〜」
バスを降りて、少し歩かされ、小学生が遊ぶ遊具の近くのベンチに座らされる。
幼女はいない。
小学生4年生くらいのおば様しかいない。
「さてさて、やっとゆっくり話を聞けるわけですが〜、いつから亜希のこと好きなのかね〜?」
最初、好きなんでしょ?だったのに始まりを聞いて来たよ!
好きだって確定されてるよ!
まぁ告白するつもりだったけど!
「えっ...いや〜、いつからなんだろうなー...」
何で認めたかのように返しちゃってんの俺!
というか、目みろ目!
美容院で「どうしますか」って聞かれた時の鏡に写ってた顔見たくなってんぞ!
「告るの?告る予定はあるの!?」
眩しい!目線が眩しい!
今日告ろうとしてたなんて言えない!
「そのうち...いつか...」
「あーそれ絶対実行しないヤツ〜」
いや、やろうとしてましたよ?
「この榛名さんが、はるるんが手伝おうじゃないですか!」
「え!?」
流石に声に出てしまった。
「手伝うって、なんでそんな事するんだ...?」
「いやー、亜希さ、アッキー誰かと付き合ったりとかってないからさ〜......。経験させてみたくて...」
この瞬間だけ、九条の表情が曇った。
俺は違和感を感じる。
しかし...話を続けよう...。
「...いや、それって俺じゃなくていいよな?別のヤツ手伝った方が良いんじゃないか」
「違うんだよー。亜希が、アッキが里見くんの事話したんだよー。男子の事なんて亜希から話したことなんて、めったにないのにさ」
ま、まじか。
やっべ、心臓がbeat刻んでる。
「よしっ。それじゃあ作戦会議も兼ねて、お腹も減ったし満たしに行こー!」
「えっ、いやっちょ待て...うぎゃぁぁぁぁぁ」
腕を引っ張られ、夕日の中へ引きずられて行く俺であった。
####
時刻は午後6時。
親に夕飯は食べてくると連絡を入れ、携帯をしまう。
俺が連れてこられた場所はラーメン屋だった。
初めて来たラーメン屋で、テーブル席に向かい合って座っている。
お見合い、お見合いなんでしょうか!?
目の前に居られるとめちゃくちゃ緊張するっ!
可愛ければなおさらっ!
「ご注文はお決まりですか?」
うさぎ一羽...じゃなくて...。
あ...この店員は...!
「お前...赤Dだろ!」
「え?あっ...!里見かよ!なんでお前ここに居るんだよ!しかも女と!」
説明しよう!
「赤D」こと赤館 愛都は同い年である!
机にアルコール吹きかけてライターで火をつけたり、先生の服を虫眼鏡で燃やし、課題提出というストレスから不登校になった男である!(2話参照)
「えっ何、里見くん知り合いなの?」
「お、おう」
「で、注文はなんだ?早くしないと店長に怒られっから」
「おっ、そうだな。ネギ塩と餃子、九条..さんは?」
「じゃあ、ネギ豚骨!」
がっつりしたもの食うんだな...
「以上で」
「はいはい...。おぅ、じゃな!」
相変わらず...という感じかな。
赤Dは決してコミュ症じゃないし、勉強が不得意というわけでもない。
何が楽しみで生きてるのか、とか
なんのために生きてるのか、とか
今してる事は意味があるのか、とか
女子の定年退職は13歳だ、とか
って事を1日に3回以上考えているらしく、クリエイティブでアクティブでロリータコンプレックスなのだ。
「なんか、真面目な人だったね」
「まぁ、実際真面目だからな」
そう、真面目だ。
学校来なくなってからバイトを3つはやってる。
スケジュール管理もしてて自立してると言ってもいい。
しかしロリコン。
小学生最高、って奴だ。
「てか!さっき苗字で呼んだよね!あれはどういうことでしょうか!」
いや、誰のことでも苗字で呼んでるから。中立だから。
「俺はみんなの事、苗字で呼ぶから...」
「それだから新しいクラスで一ヶ月たってもぼっちなんだぞっ!」
やめて!気にしてるんだから!
「とにかく、下の名前じゃないと親近感湧かないんだぞ〜。だから、まずウチのことを『はるな』って呼びなさい!あだ名つけてもいいよ!」
「いや、いいです。」
のっけからハードル高すぎィ!!
「亜希と同じ苗字になっても『くるしま』って呼ぶの?違うでしょ?」
そ、それもそうだな。
いかん!同性なった時の事なんか考えるな!口角上がってるぞ!
「じゃ、じゃあ...はるなって呼ぶよ?」
「うんうん!よくできました〜」
変に手を叩くなよ...可愛いから...。
ちなみにうざい奴がやると、猿のシンバル叩くオモチャみたいに見える。
九条に関しては?
可愛いからおk。
可愛いは正義。
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たくさん話した。たくさん。
久留島の好きな曲、アーティスト。
以外と洋楽とかボカロ上がりの人好きなのね..。
好きな食べ物。ホワイトチョコ。
俺のホワイト(ry
とか色々。
「家はどこだ?送りますど」
「おっ早速優しいね〜。駅の近くだよ〜」
「えっ、俺も駅の近くなんだけど...。てかなんで中央公園まで来ちゃったの?」
「まぁ、あそこのラーメン屋で久々に食べたかったからかな〜」
「それだけかよ...。てか駅の近くっても、何処に住んでるんだ?アパート?」
「うん。『清風荘』ってアパート」
「え!?俺の家の裏じゃん!?」
「あ、そうなの?丁度いいね〜」
衝撃の事実を知り、俺と九条は終電に九条と乗り込む。
九条ルートを一気に進んでいるんじゃないかという事と公園での会話で感じた違和感について、心地よい振動の中、俺は九条の眠そうな横顔をみて考えていた。