嵐の予兆
「弟のようなリフが...」
「抱きしめて!」
mission faild!
リフが死んじまった!
リフが死んだ...。
もうダメだ...。俺はどうしたら...。
鑑賞授業が終わり、帰りの廊下で皆が思い思いの感想を述べる。
「トニーも結局死んじゃったんだねー」
「リーダーばっか死ぬって新しいよね!斬新!」
新しくねぇよ!
ウエストサイドストーリーは1961年公開だぞ!
トニーはベルナルドを殺した時点でハッピーエンドはないんだよ。
人殺しは幸せになんかなれないんだ。
罪を背負って、償って生きるか死ぬかしかないんだ。
1人で感傷的な気分でいると、後ろからまた感想が聞こえてきた。
「リフが仲間のためにベルナルドを殴った時は男を感じたねー」
「リフの仇は取ってもトニーは結局人殺しだからね。トニーだけ逃げることなんて出来ないんだ。」
!?
俺と同じ霊圧...?
思わず振り返る。
と、そこには久留島と九条 榛名。
冷ややかな印象の久留島が月なら、九条は太陽。
九条は人当たりが良く、無邪気な笑顔で男子からの人気も高い。
ちなみに久留島はクール系として人気が高い。
そこの君。俺の人気の話はやめなさい。
「おー!里見!」
「おっす」
教室から出てきた村上に呼ばれ返事をする。
「里見くんだ!やっはろー」
「や、やっはろぉ...」
なんで俺ガイル挨拶してんだよ...。
可愛かったら吉田じゃなくて戸塚に変更してから、俺と同性にしてもらうとこだよ。
「ハッ!今通ったのはダブルkじゃないか!?」
「なんだよそれ」
「久留島&九条だよ!まぶしーっ!」
いつになくテンション高い村上。
だがイケメソ。
「なぁ...」
「ん?」
「村上はどっち派?」
「俺は...」
村上のタイプがどちらなのか。
場合によっては対立することにもなろう。
俺がこれからすることに大きく関係することだ。
「九条信者だ」
「僕は里見くんかな...」
「吉田、お前には聞いてないし、俺ってどういうことだ!?」
やばい、これから警戒しないと。
*をしっかり引き締めて。
「で、話を戻すけど...、お前が九条派でよかった」
「なんで?少数派?マイノリティ?」
「実はな...」
####
「里見が告る!?」
口に焼売を入れたまま驚く村上。
「やだ!!里見くんはみんなのだよ!!」
「里見、女子と話せるのか!?」
「里見くん行かないで!」
吉田ェ...
「結構好きかもしれない、だから伝えてみたい」
「お前、久留島と話した所見たことないぞ!?」
「それなりに話したことはある」
事実だ。
実を言うとそこらの男子より話してる。
中三の学校祭、群れの中に居るのがだるくて体育館の壁際に寄りかかって座ってた時。
ステージではバンドが演奏してて賑やかだった。
あいつもだるそうに近くに座ってた。
突然、
「あんたはこういう行事、好き...?」
と聞いてきた。
「巻き込まれるのは嫌いだけど、外から見てるのは好きかもな」
「...意外」
「なんでだよ」
「私と同じこと思ってたから。あんたは全部否定すると思ってた」
「お、おぅ...」
あの時の久留島の顔を今でも覚えている。
いつもの気だるげな表情がステージからのライトで、毎秒違う色で照らされていた。
だるそうに見える瞳の中に、憧れとは違う明るい何かが映っていたように見えた。
...ーぃ
...ぉーぃ
「おーい、里見?聞こえてるかー?」
「反応がないね...ただの屍のようだね...」
「回想シーンはもう終わりだー。尺とりすぎー」
ハッ...。
甘酸っぱい思い出に浸っていたようだ。
って俺の餃子が無くなってる...
「行くなら行くで、作戦練らないとな!」
「いや、うーむ...そうか...?」
「いいよ優希。僕たちがどうこう言うのは良くないよ。」
おおそうか。
いや、正直言って、吉田がそんなこと言うなんて驚いた。
「やっぱり、自分で考えて自分の伝えたいこと伝えるべきだよ」
めっちゃ説得力というかなんというか、経験者っぽいな。
ん?吉田は同性が好...
「そうか。なら俺たちが関わる必要はないか。がんばれよ。里見」
「おう。ありがとう。」
予鈴が鳴り、村上と吉田は自分たちの教室へ帰る。
久留島は気だるげに教室へ帰ってきた。
####
久留島と俺は帰る方向が同じである。
違うとしたら距離。
久留島は隣の市から電車とバスで通学、俺は駅の近くに住んでいてバスで駅まで行く。
チャンスがあるとしたらバスから降りた時だな...。
なんだかんだ考えていたらもう帰りのショートが終わってしまった。
なんとなく落ち着かず、足早にバス停に向かった。
バスが来ても、久留島は来ない。
九条は来た。
九条が来た。
え?九条が来た?
九条って剣道部だし、こんな早く帰らないぞ!?
ま、まぁいいか。
でも家はどこだろう。
どこまで乗るんだろう。
とりあえず乗り込む。
九条も乗り込んでくる。
いやー、今日告ろうと思ってたけど対象が来ないってのはなー。
心の準備もしてたのに、実行不可ってのはかなり萎える。
いやー、なんだったんだ今日は。
いやー、今日の俺はなんだったんだ。
餃子無駄にとられただけだった。
「ねぇねぇ?」
「ん?」
誰だ?バスで話しかけてくるなんて。
飴くれるおばちゃん?
振り返るとそこには九条。
人懐っこい犬が構ってと言うような顔で俺の顔を覗き込んでいる。
ダメだ、可愛い、焦る、緊張する、吸い込まれるゥ!
こりゃ九条党に票を入れたくなりますね...。
選挙年齢引き下げと言う現実に焦りを覚えさせられるぜ...。
「里見くんだよね?」
「あ、うん」
「里見くんって、亜希のこと好きなんでしょ?」
...え?