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其の参拾捌:人間達との共同生活



 雷馳の身の回りを一通り買い揃えた後、とりあえず公園遊びから人間界に馴染ませていこうと、四人は近くの公園へとやって来た。

 本来平日なので学童の姿が見当たらなかったが、幼児を連れた親子の姿はチラホラと見受けられる。

 まずは遊具で遊ぼうと、鈴丸(すずまる)雷馳(らいち)の相手をしている中、爛菊(らんぎく)千晶(ちあき)は缶ジュース片手にベンチに座ってその様子を見守っていた。

 だがものの五分もしないうちに、雷馳は遊具に飽きてしまった。

 それもそうだ。

 そもそも人間より運動能力の高い(あやかし)にとってはどれも苦もなく、軽々と制覇してしまえたからだ。

 ちなみに雷馳は、新しく買ってもらった服に着替えて大はしゃぎしたものだが。

「人間の子供はこんな退屈な物で喜ぶのかのぅ。何か他にないのか鈴丸」

 滑り台などで新しい服が汚れるのを一人前に気にしながら、雷馳はぼやく。

「じゃあバスケしようか。丁度ここにはゴールリングもあることだし」

「ばすけ、じゃと? 何じゃいそれは?」

「ま、遊びながら教えてあげるよ。車のトランクにボールを積んであるから持ってくる」

 こうして雷馳は鈴丸と一緒に1オン1でバスケットボールをすることになった。

挿絵(By みてみん)

 ある程度ルールを仕込んだ雷馳と、早速プレイする鈴丸。

 だが時が経つごとに、それは熾烈を極め始める。

 なぜならば二人は人間の運動能力を超えた妖同士だからだ。

 お互い精神的にもまだ幼いせいもあるのか、一歩も譲らず寧ろむきになり始めついには、人間離れをした動きをするようになった。

 周囲の親子連れの人々の目が集中していくのを案じて、ついには千晶からの警告が入った。

「おいコラ二人共! もう少し周囲を意識して冷静になれ!」

 すると(すか)さず雷馳が異議を唱える。

「何を言うか! わしは鈴丸と飴玉十個を賭けておるのだぞ! この条件がどれだけ貴重かお主には分かるまい!!」

 雷獣族の国にいた時は貧困な生活を送ってきたせいか、雷馳にとって一気に十個もの飴玉を入手できるのは、一種の贅沢なのである。

「それにあの“みるくきゃんでー”なる物は今までに食べたことのない美味……」

 雷馳は生まれて初めて味わった新たな味を思い出し、束の間今朝口にした瞬間に思いをふける。

「ライちゃん、よだれよだれ」

 爛菊に指摘されてハタと我に返ると、雷馳は慌てて袖で口端を拭う。

 どうやら雷獣族の国にはべっこう飴くらいしか種類がないようだ。

「あ、ちなみにもし僕に勝ったら今度はチョコレートキャンディーにしてやってもいいよ」

「“ちょこれえときゃんでー”とな? 今朝食べたみるくきゃんでーよりも美味しいのかの?」

「うん、おいしいよ。チョコレートは人間のスイーツ歴史上革命的な美味しさだと思う」

 鈴丸は人差し指の先でバスケットボールを回転させながら言った。

「なぬ!? だったら余計に主に負けるわけにはいかん!!」

 鈴丸の言葉に俄然(がぜん)意気込む雷馳に、千晶が呆れながらベンチから声をかける。

「コラコラ。鈴丸、煽るな煽るな」

 二人のバスケの手が止まったのと丁度お昼時間になったのもあり、親子連れは次々と公園を去って行き、爛菊達四人だけとなったところで更に加熱した雷馳と鈴丸のバスケが再開された。

 だがその凄まじさに、ついにはゴールリングが支柱ごと壊れてしまった。

「お前ら……鉄材をへし折るところを人間に見られずに済んで良かったな……」

「寧ろあれだけの動きにボールが耐え抜いたことの方が奇跡」

 千晶と爛菊は呆然とするしかなかった。

「へっ! この勝負、僕の圧勝だね雷馳」

「ぐぬぬぬ……だいたい自分よりも子供相手に本気になるとは大人げないわ鈴丸のアホオォーッ!!」

 ビリビリビリーッ!!

「いったぁっ! 痺れるっ! 負け惜しみに放電するなバカ雷馳!! もう絶対キャンディーあげないっ!!」

 鈴丸は怒りを露わにすると手にしていたバスケットボールを雷馳へと投げつけた。

 だがしっかりボールを受け止めて、雷馳は更に応酬する。

「何じゃと!? どうせ貰えんのならいっそうのこと――」

「また放電するならこっちも相応にやり返すよ!」

 鈴丸は言いながら、手の中に通称“猫又の火”である火球を出現させる。

 すると爛菊の鋭い声が飛ぶ。

「そこまでよ二人共。ライちゃん、そうやたらと力を使用するのは良くない。特にこの人間界では。キャンディーは私があげるから、きちんとスズちゃんに謝りなさい」

 これに雷馳は怯みながらも抗議する。

「うっ……、だっ、誰が謝るものかい! だいたいわしを負かして喜ぶような奴じゃぞ!?」

「でもねライちゃん。それとこれとは話は別――負けは負けよ」

 一瞬、無表情で静かに言い放った爛菊の最後の言葉に、この上ない圧力がこもっていた。

「は、はい……ほ、放電してすまんかった、鈴丸……」

 爛菊の物静かながらでの迫力にすっかり雷馳は怯むと、口ごもるように鈴丸へと謝罪した。

「う、うん。今度から気をつけてもらえば……」

 鈴丸にもそれが伝わり、思わず雷馳同様怯みながらその謝罪を受け入れる。

「ラン殿……今一瞬怖かった……」

「うん……僕もそれ感じた……」

 雷馳と鈴丸の二人は互いに歩み寄ると、ボソボソと小声で言い合うのだった。




 その後四人はファミレスで昼食を取ることにした。

 爛菊はパスタを、千晶は相変わらずステーキを、鈴丸はシーフード系を選んだ。

「うぅ~む、こんなにもたくさんの、しかも見たことも食ったこともない料理を一つに選びきれんのぉ」

「またいつでも来てあげる。迷うのであればこれなんかはどう? ミックスグリル。三つの料理が味わえる」

 メニュー表を眺めながらなかなか決めかねている雷馳に、爛菊は一緒に料理を選ぶ。

 彼女からの勧めに、雷馳は首肯する。

「ふむ。じゃあこれにしよう」

 店員を呼んでから注文を終えると、雷馳は改めて落ち着きなくソワソワと周囲を見回す。

「どうしたのライちゃん?」

 爛菊に尋ねられ、雷馳は戸惑いながら答える。

「いや、あっちもこっちもどこを見ても人間だらけじゃ。人間とは集団で飯を食う種族なのかの?」

「まぁ、世界視野で見ればそういう種族もいるけれど、ここはレストランと言って食事を提供するお店。だから人が集まって食事をするけれど、基本的にはみんな他人」

 爛菊に答えてから今度は逆に尋ねてきた雷馳に、彼女は答えた。

「刹那、祭りでもあるのかと思うたが、違うのじゃな」

「そうだね。人間界の祭りがある時に、連れてってあげるよ雷馳」

 今度は鈴丸が口にすると、雷馳はパッと目を輝かせた。

「ホントかの!? ヤッタァ! それは楽しみじゃな! 雷獣族でも祭りはあるが、基本大人達の酒盛りが主で子供は参加できんかったからのぅ」

「人間界での祭りは、子供達の為にするのがほとんどなんだよ」

 そうこうしている内に、料理が運ばれてきた。

 目の前にした料理に雷馳は喜びを露わにしたのも束の間、箸を手にしてふと難しい表情に変わる。

「むぅ……この料理、箸では食べにくいのぅ」

 ハンバーグとチキンステーキに苦戦している雷馳に気付いて、爛菊がナイフとフォークを手に取る。

「本来、この道具を使って食べるのだけど、ライちゃんはまだ扱えないだろうから、爛が今回は切り分けてあげる。今後は人間界に身を置くのであれば、こうした現代のマナーやルール、礼儀も学んでいこう」

「雷馳も今後のことを考慮して、小学校に通わせる」

 それまで無言だった千晶が、突然ふと口を開く。

「そうね。うちの学校は小中高一貫制だから、身近にいれば安心」

 爛菊も賛成する。

「ショーガッコー? 楽しいのかの?」

「それは雷馳次第だけど、僕にとっては楽しいよ」

 鈴丸の言葉に、小首を傾げながらもひとまず納得する雷馳。

「はい、切り分けた。お食べライちゃん」

「うむ!」

 早速手にしていた箸で料理に手を付けようとして、賺さず爛菊からの注意が入った。

「その前に挨拶するのがマナーよライちゃん。こうして両手を合わせて、“いただきます”と言うの」

「ほぅ、そうか。では、いただきます」

「はい、どうぞ」

 このやり取りを見ていた千晶が、愉快そうに笑う。

「クックック……これは(しつけ)に厳しい保護者になりそうだな。爛菊は」

「千晶様、あなたも“仮”であれ教師なのだから、協力してほしい」

「ああ。分かってるさ」

 爛菊の言葉に、千晶は理解ある答えを口にする。

 するとふと思い出したように、突然鈴丸が話題を変えてきた。

「ねぇねぇ、そう言えばランちゃんは海に行ったことある?」

「テレビでは観たことはあるけれど、実際に行ったことはない」

「雷馳は?」

「うみ? 知らんな」

「じゃあこの後、海に行こう!」

 こうして昼食後、鈴丸の提案により海に行くことへ決定した。





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