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其の弐拾玖:襲い来る毒顎



 雷獣が気絶したのに気付いて巨大百足は、顎をキチキチと鳴らしながら動かなくなった雷獣に喰らいつこうとした。

「大百足は稲光と共に飛来する、か」

 落ち着き払った口調でそう呟く千晶(ちあき)を他所に、爛菊(らんぎく)が声を大にする。

「あの子が危ないっ」

 すると鈴丸も平然と口にする。

「妖怪が妖怪を食べることって結構普通にあることだよ」

「もっとも、そうすると喰った(あやかし)は強力さを増すがな」

 千晶も同じく鈴丸の言葉に続く。

「そんなことより早くあの子を助けて!」

 普段余り感情を表にしない爛菊が珍しく半ば苛立ちげに、千晶と鈴丸の二人を雷獣(らいじゅう)に襲い来る巨大百足(きょだいむかで)の鋭い顎の前へと突き飛ばした。

「ぅわっ!」

「ちょい待ちっ!」

 千晶と鈴丸は慌てふためきながら、巨大百足の前に放り出される二人。

 巨大百足の余りの大きさに、咄嗟に千晶と鈴丸は二人がかりで百足の顎を左右それぞれに掴んで、グッと押し上げる。

 その間に爛菊が素早く駆け寄り、二人の背後で倒れている雷獣を抱き上げると、急いでその場を離れる。

 落雷のせいで時計台に続く出入口のドアは、ひしゃげて開かなくなっていた。

 気絶した雷獣のおかげで放電は治まったものの、まだ落雷の危険性は残っているだろうと普通の人間は、迂闊に近付けない。

 万が一の緊急時に備えてこの嵐の中、数名の教職員が校内にいたがみんな離れた校舎から、時計台の様子を窺っているのが分かった。

 しかし妖の姿は人の目で見ることは不可能だ。

 また、巨大百足が発している数百の青白い火の玉が、一見するとプラズマ現象として受け取られたのと、嵐による暴風雨で視界は悪くこちらを見ている教職員から爛菊の姿は確認できずにいた。

 彼女もまた、暴風雨から身を防ぐ為に時計台の陰に気絶した雷獣を抱きかかえて、身を潜めている。

「そもそも巨大百足がどうして雷獣を襲ってるわけ!?」

「巨大百足は蛇と龍の天敵でもあるからな。こいつは稲光に出現するとされている。一方、稲妻が起きると活動的になる雷獣だから、理由は分からんがそうした条件から偶然重なったのだろう」

「ごめんアキ。こいつの顎を抑えるのに必死で半分も聞いてなかった」

「だったら喋らせるなっ!」

 千晶は鈴丸に喚くと、百足の片方の顎を支えにして前方に向けて足を上げると、百足を下から蹴り上げた。

 彼の強烈な蹴りに百足は天を仰ぐ。

挿絵(By みてみん)

 この勢いにもう片方の顎を抑えていた鈴丸も一緒に天を振りかぶったが、顎から手を離してから宙を舞うと巨大百足の背中に向けて、鋭い爪を振り下ろした。だが。

「――硬っ!!」

 咄嗟に鈴丸は口にしてから、巨大百足の黒光りする背中に着地する。

 巨大百足の連結された胴体の部位はまるで甲冑(かっちゅう)のように硬く、そう簡単には傷付きにくくなっていた。

 また、雨のせいで百足の背は滑りやすくなっていた為、鈴丸は靴を脱ぎ捨てると足の爪でガッチリと表面を掴んで踏み留まる。

 攻撃を受けて、すっかり標的が千晶と鈴丸へと変更した巨大百足は怒り狂いながら、二人へと矛先を向け始めた。

「大体何が悲しくて僕がこんな雨の中ムカデ退治しなきゃならないの!」

「これも縁だ。爛菊の為だと思って頑張れ!」

 すると百足は目の前にいる千晶に向かって毒霧を吐きかけてきた。

「チッ! やっかいだな」

 千晶は飛び退くと、百足の背にいる鈴丸へと声をかける。

「鈴丸! こうなったら次の段階にいくぞ!」

「それって更なる変化ってこと!?」

「ああ、つまり獣化だ! 殺す気でいくぞ!」

「了~解!」

 鈴丸は嬉しそうな様子で答えると、獣化する為に集中し始めた。

「その前に」

 鈴丸の変化が始まったのを尻目に、千晶はズボンのポケットからある物を取り出すとそれを巨大百足の赤々と光る六つの目の間に叩きつけてから、不敵な笑みを浮かべて自らも変化を開始した。

「――ニャアァァァ~オ」

 暴風雨の中で一際響き渡った猫の鳴き声に、腕の中で気を失っている雷獣を抱きかかえている爛菊は、そちらへと顔を向けた。

 するとそこには、二本の尾を持つ巨大な三毛猫の姿があった。

 引き続き、低い唸り声が同じく轟き渡る。

「グルルル……ッ」

 よって今度はそっちを見ると、巨大な黄金色の毛並みをした狼が悠然と佇んでいる。

 狼と猫というと理由で互いの大きさには違いがあるにせよ、この三階建ての校舎くらいの大きさはある。

 だがしかし、巨大百足は更にもっと彼らよりも大きい。

 だてに蛇や龍の天敵と称されているわけではないようだ。

「ウーニャオゥッ!!」

 巨大三毛猫になった鈴丸は、鋭い爪を立てて連続猫パンチを百足の頭部めがけて放った。

「キチキチ……ッ!!」

 百足も負けじと顎を鳴らすが、鈴丸の動きの方がずっと早い。

「ガァウゥッ!!」

 次に巨大な狼となった千晶が、百足の胴体に噛み付く。

 人間サイズの時は歯が立ちそうになかった甲冑のように硬い胴体も、巨大化すれば比例して深々と牙が食い込む。

 巨大妖怪達のバトルに、爛菊は手も足も出ずに固唾を呑んで見守ることしかできなかった。

 黒い雲の間を自然の雷が駆け抜け、暴風雨の中で巨大妖怪達も荒々しく戦っている。

 鈴丸は爪で、千晶は牙で対抗している。

 思いがけない負傷に巨大百足はもがくように暴れ回っている。

 多足亜門の巨大百足の数多くの足は、一本一本がまるで丸太のように大きい。

 だが千晶は大きな口で足ごと胴体に噛み付いては、連結部分から順に引き千切っていく。

 百足はその度に緑色の体液を噴出している。

 鈴丸も自らが放つ爪で百足に大きな裂傷を作っていった。

 傷つく分だけ、百足の周辺にある青白い火の玉はポツポツと消えていく中で、百足は身を捩って毒顎で鈴丸の前足に噛み付いた。





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