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其の佰弐拾:雷獣vs鵺

【登場人物】


雅狼朝霧爛菊がろうあさぎりらんぎく(18歳)……前世が人狼皇后だった人間の少女。二百年間、犬神の皇に魂を捕われて記憶と人狼の能力を奪われ、ただの人の子として現世に転生させられた。神鹿から妖力吸収の力を授かり、再び人狼に戻る為に数多くの妖怪と出会う。


雅狼如月千晶(がろうきさらぎちあき)(327歳)……あらゆる妖怪のトップ大神乃帝である人狼の王で、爛菊の夫。二百年前に妻を失ってからずっと転生を信じて探し続けて、ついに爛菊を見つける。彼女を元の立場に戻すべく、人間界で爛菊の手伝いをする。


猫俣景虎鈴丸ねこまたかげとらすずまる(118歳)……妖怪猫又の族長の息子で、千晶の同居人。家事全般が大得意で、女好き。とても人懐っこい。人間界での暮らしの方が長く、誰よりも人間社会に詳しい。本来の姿は金と青のオッドアイをしたオスの三毛猫。


雷馳(らいち)(70歳)……妖怪、雷獣の子供。物心ついた時には最早両親がいなかった孤児で、ある嵐の日に大百足と戦って傷ついているところを爛菊に拾われ、名を与えられる。千晶の家の居候で、自分も妖怪のくせに世間知らずからくる極度の妖怪恐怖症。


朱夏(しゅか)(推定200歳以上)……妖怪、姑獲鳥。元は人間だった。土蜘蛛から縄張りの一部を与えられて数々の人間を騙してきたが、ある雨の日に雷馳と出会ってからその悲愴感さにいたたまれなくなり、種族も血筋も違うが雷馳の母親になる決意をする。千晶の家で住み込みの家政婦をしている。


藤原霞(ふじわらかすみ)(22歳)……妖怪人狼族を大神(狼)として崇拝している女陰陽師。しかし帝の座は千晶ではなく、彼の弟である司を推奨している。風水並びに式鬼を操る。


(つづり)(24歳)……霞を純粋に仕える巫女。寡黙な性格だが、霞を同じ女でありながらも恋愛対象としている。普段は霞の身の周りのお世話をしているが、彼女から与えられた式鬼を操ることができる。



「ガハ……ッ!!」

 雷馳(らいち)から水中の外へと出してもらった白銀狼姿の爛菊(らんぎく)は、飲んだ水を吐き出しながら必死に酸素を取り込もうと喘ぐ。

 そんな彼女をそっと優しく地面に下ろすと、雷馳は(ぬえ)へと向き直る。

 狼姿の爛菊よりも二回り程大きくなっている雷獣姿の雷馳は、鵺とも大きさはほぼ互角だった。

 爛菊を飲み込んでいた水の塊は、解けて地面へと零れ落ちる。

 雷馳の足元では、朱夏(しゅか)が片手を携えて立っていた。

「どういうことだ……! 雷獣の仔が突然成長するなどと……!!」

 (つづり)の表情が強張る。

「俗に言う、使役よ。この子は私が与える口づけで、一時期だけ進化するの」

「し、しかし貴様はただの姑獲鳥(うぶめ)のはず……姑獲鳥が雷獣を使役できるなどと……!!」

「私とこの子は、種族も違うし当然血の繋がりもないけど、誰にも負けない親子の絆があるの」

「妖怪が妖怪を使役するなど聞いたこともない!!」

「フン。何でもいいわ。さぁ雷馳。この鵺を始末してしまいなさい」

 自分の知ろうとしない目の前の現実に、愕然としている綴を無視すると朱夏は、雷馳の足をポンポンと軽く叩いた。

「グアアアァァァーオォゥッ!!」

 雷馳は咆哮を上げると、鵺へと突進する。

 正面から突っ込んでくる雷獣に、鵺は咄嗟に口から火炎を吐き出した。

 しかし雷馳は、真上へと大きくジャンプした。

 鵺の火炎は雷馳の下を通過する。

 雷馳はそれぞれの足にある皮膜で羽ばたくと、鵺の頭上を旋回した。

 鵺は火炎を吐くのをやめて、上を見上げると大きく叫んだ。

「ヒイイィィーッ!!」

 すると再び風が揺らめき、鋭い刃となって雷馳を襲う。

 だが、雷馳は爛菊(らんぎく)から施された白梅の防御により、傷一つ負うことなく跳ね返した――と言うよりも、雷馳は意図的にその風の刃の跳ね返しを鵺へと飛んで行くように仕向けたのだ。

 鵺がそれに気付いた時には、風の刃が鵺の表皮を切り刻んでいた。

「ヒイイィーッ!!」

 鵺は悲鳴を上げる。

 気付くと、鵺の尻尾である蛇が風の刃で切断されていた。

 蛇は地面の上でのたうち回っていたが、しばらくすると全身を引き攣らせて動かなくなった。

「まぁ。てっきり本体から分断されても個体として、蛇は死なないかと思ったけど……思いのほか呆気なく死んだわね」

 朱夏は平然と口にする。

「チッ……!」

 綴は不快げに舌打ちしたが、なぜか口角が上がっている。

 しかしそこまで朱夏は、見抜けなかった。

 雷馳は大きく口を開けると、まるで弾丸のように紅い雷砲を数回、連続で空から鵺へと撃ち放った。

 咄嗟に鵺は火と水と風と地の能力全てを同時に発生させたが間に合わず、雷馳の放った雷弾を全て受けてしまった。

「ヒギャアアァァーッ!!」

 鵺の断末魔が響き渡る。

「ク……ッ!」

 綴も歯噛みする。

 鵺は倒れそうになるその巨体をよろめかせながらも、何とか足に力を入れて踏ん張る。

 それを確認するや雷馳は、二又の大きな尾の先端を頭上に届くほどに大きく反り上げた。

 二又の尾の先から、それぞれ一点の小さな紅い光が灯ったかと思うと、それは放電しながら見る見る大きくなる。

 この様子を見て鵺は、ついに恐怖心を覚えたのかその場から残る力を振り絞って走り出した。

 これに綴が慌てる。

「待て鵺よ! 逃げるのか!!」

 しかし最早、綴の声は鵺には届かなかった。

 真紫色一点になっている雷馳の双眸は、しっかり逃走を図る鵺を捉えてその二又の尾の先で膨れ上がった、まるでプラズマ砲のエネルギーを放った。

 二つのエネルギー弾は互いに左右へ交差を繰り返しながら波のようにうねり、ついには鵺の両脇から突っ込んだ。

 あまりの威力に鵺は空高く吹き飛ぶ。

 声を出す間もなく一瞬宙で止まったかと思うと、鵺は地面に落下した。

 黒い煙を上げながら白目を剥いた鵺は、もうピクリとも動かなかった。

 狼姿の爛菊の額に、紫色の一文字が浮かび上がる。

 これに爛菊はゆっくりと、大きく吸気すると鵺から青白い靄が溢れ出し、爛菊の口内に吸い込まれていった。

 爛菊の、鵺の妖力吸収が完了した。

 鵺は黒い塵となって霧散する。

「鵺が……私の鵺が!!」

 綴は地面に両手を突いてへたり込む。

 雷獣化していた雷馳も、空で人の姿に戻ると地上へ着地したが、片足の膝を折り立ち崩れた。

「雷馳! 大丈夫!? ごめんね無理をさせたでしょう……!」

 朱夏が慌てて雷馳へと駆け寄った。

「大……丈夫じゃ……お母さん……今回は何とか……まだ意識はあるしの……」

 雷馳は弱々しくはあったが笑顔を見せる。

「く……っ! おのれ……おのれえぇぇー! この似非皇后が!!」

 綴が叫んだかと思うと突然ふと、何かの影が雷馳と朱夏の視界を横切った。

 鵺の本体から切り離された、尻尾だった蛇だ。

「しまった! てっきり死んだかと……!!」

 朱夏が爛菊へと振り返る。

「いざと言う時の為に保険を残しておいて良かった」

 綴は勝ち誇った笑みを浮かべる。

 蛇はまだ狼姿を解除していない爛菊へと躍りかかる。

 しかし。

 呆気なく蛇は頭から爛菊に食いつかれてしまった。

「――甘い」

 狼姿の彼女が蛇を咥えたまま言うと、その顎に力を込めた。

 ミシミシと鈍い音とともに、蛇の胴体が爛菊の首に絡まったが、グシャリと言う音の直後蛇の胴体は、ダラリと垂れ落ちた。

 そのまま爛菊は、蛇の胴体を前足で踏みつけると、縦真っ二つに蛇を引き裂いてしまった。

「そ……そんな……!!」

 今度こそ綴は脱力する。

「ヘッ! 妖怪には妖怪、じゃと? 所詮人間に使役される程度の(あやかし)なぞ、わしらの敵ではないわ!」

 外見がズタボロになっていながらも雷馳が、勝利の捨てゼリフを吐いた。




 餓者髑髏(がしゃどくろ)の死霊に憑依されている鈴丸(すずまる)は、巨猫の姿で顎を引き頭部を千晶へと向けた。

 すると無数の火の玉が連射される。

 これを最初は普通に避けていた千晶だったが、ついには追いつかずに数発当たってしまった。

 千晶は煙を上げながら地上へと落下する。

 餓者髑髏の胸骨にいる(かすみ)は愉快がる。

「オホホホ! いいわ、いいわよ猫又! その調子よ!」

挿絵(By みてみん)

 千晶は地面すれすれで踏ん張り、直接的な落下を避けると尾を大きく一振りした。

 すると風が渦を巻きながら巨狼姿の千晶の四肢に絡まる。

 鈴丸はとどめを刺さんとばかりに、更に火の玉を千晶へと乱射してきた。

 だが、突然千晶は目にも留まらぬ速さでそれら全てを避けた。

 風を操る能力にて、千晶は風に乗っているのだがそれを鈴丸も霞も、目視できずにいた。

「鈴丸!!」

 千晶は彼の名を呼ぶ。

 だが鈴丸の心には千晶の声は届かぬまま、鈴丸は遠吠えを始めた。

 猫又の遠吠え――金縛りだ。

 千晶は逃れる為にその場から離れようとしたが、手遅れだった。

 千晶の動きが停止する。

「ク……ッ!」

 引き続き、鈴丸は唸り声を始める。

 猫又の威嚇――呪いだ。

 千晶は障気に包まれる。

「鈴……丸……っ!」

 千晶は唸ると、唯一動かせる眼球を上下させた。直後。

「ギャン!!」

 鈴丸が悲鳴を上げる。

 鈴丸が奇妙な形にひしゃげていた。

 千晶が真空圧縮を使用したのだ。

 千晶の動きが自由になると同時に、鈴丸が喀血する。

「すまん鈴丸……っ!」

 死霊は鈴丸が死しても尚、動ける内は操作してくるだろう。

 なので鈴丸自身を動けなくする必要があった。

「千晶様!」

 神社の境内で鵺を倒して今度はこちらへと、人の姿に戻った爛菊が駆けつけて来た。

 ほぼ同時に、鈴丸が地上へと落下する。

 鈴丸の体を動かせないと気付いてか、死霊が鈴丸の体から抜け出て餓者髑髏へと戻っていく。

 突如、千晶達と餓者髑髏の狭間に黄金の巨大な光球が出現した。

 その光球の黄金の輝きを浴びて、餓者髑髏がダメージを受ける。

 千晶達もその眩しさに目を堪えて見ていると、その光球が弾けて中から翼に包まれた何者かが現れた。

「……!?」

 怪訝な表情を浮かべる千晶と爛菊。

 するとその何者かが全身を包んでいた翼を、大きく広げた。

「現場はここで合ってるか」

 それは丹鶴の妖怪、飛鳥壱織(あすかいおり)だった。

「おお飛鳥。今日ほどお前が天使に見えたことはないぞ」

 金色の巨狼姿の千晶が声をかける。

「その声は、雅狼(がろう)か?」

「ああ。しかしどうしてお前がここに?」

「ああ。此花(このはな)がお前達のピンチの力になれって……俺をいきなりここまで妖力で飛ばしやがった」

「じゃあ、今の光の攻撃はあなたの力?」

 訊ねてきた爛菊に、壱織が頭を横に振る。

「ん、あれ……今のは残念ながら此花の能力であって俺じゃねぇんだ。ただ単に俺をここに飛ばした時に発生しただけ。あいつは神格妖怪だからな。此花の能力に邪悪な者が触れるとダメージを受けるみてぇだが……って、あれ? そこでひっくり返ってるデッケェの、まさか餓者髑髏か?」

「そう……」

 爛菊が少しだけ落胆する。

「丁度いい。鈴丸を治癒してくれないか」

「そこに転がっている三毛猫がそうか?」

 千晶に頼まれて壱織が指差した先には、二又尾の普通サイズの猫になった鈴丸が倒れていた。


飛鳥壱織(あすかいおり)(529歳)……元々はツンデレで一人を好んでいた妖怪、丹鶴。祖母は若い頃に人間に恩返しをした鶴。爛菊の通う高校の保健医をしていて、極度の潔癖症。高慢な性格で趣味は編み物。最近、神格妖怪である座敷童子、此花に惚れられて以来一緒にいることが多いようだ。

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