まことりお。だっこ編
いつもであれば、買い物から帰ると真琴は買ってきたお菓子を漁りにさっさとリビングに行く。
だが、今日は里桜がいるせいでそうはならなかった。
「まこやるー」
床に下ろされた里桜の背中を支えるように真琴が座り込んだ。その姿から察するに、出掛け仕様の里桜の服を自分が脱がすんだという意味らしい。
「まこちゃん出来んのー?」
自分がやろうと屈みかけてた翔が俺に視線を寄越す。
すぐさま頭を振った。真琴は自分の着替えだって儘ならないのに出来ないだろうと。
「できぅっ」
だが、俺の思いとは裏腹に、里桜の顔を覗く為に丸まっていた真琴の身体がぴんと伸びた。
翔を見上げて任せろと言わんばかりだ。
「まー引っ張るだけで脱げる服だしね。まこちゃんお願いねー」
「はぁあい!」
手をあげて張り切って返事をする真琴と、きょとんと目を丸くしている里桜。ちゃっかりその姿を写メった翔はリビングへ行ってしまった。あれは後で転送させる。
「まこ」
「できるよーっ。れえちゃもあっちいってっ」
真琴に頬を膨らませてまで出来ると言われれば、その言葉に従ってやりたくもなる。今しがた真琴の靴を脱がせてやった俺としてはかなり不安だったが。
*
「帽子と手袋と靴下だけだから平気でしょー。まこちゃん行きがけ超見てたからね、ままごと感覚じゃない?」
「ままごと……」
相手は里桜っつう生身の人間だしそもそも真琴はアレでも一応男だ。ままごとじゃねえだろ。里桜のことが心配じゃないのか。仮に、真琴と里桜が逆の年だったならばーーー里桜に赤ん坊の真琴を任せることなど俺には出来なかっただろう。
「あーこれ可愛い。ちょーだい」
「ん? ああ、」
とは言っても真琴の機嫌は損ねたくない。大人しく翔と携帯を交換してデータフォルダをチェックし合う。
翔が指したのは寝てる里桜の頬へかじりつく真琴の写メ。「りおちゃーほっぺぷくぷくー」っつってそこにキスする真琴の頬も十分ぷくぷくだった。とんでもなく可愛いんだコレが。
「可愛いだろ真琴」
「うん可愛いよね里桜ちゃんが」
このやり取りは何度したかわからない。
「はぁ……ふ、はぁ……」
結論の出ない言い合いが始まるかと思えば背中から聞こえた息遣い。
振り向くと真琴が里桜を抱えてよたよたと歩いてた。
「…………」
「…………」
「はぁっ……はっ……」
小さな真琴がもっと小さな里桜を。
真琴の抱き方は里桜にとって居心地の良いものではないだろう。真琴によって里桜の服はぐしゃぐしゃに握られ、抱き上げられているにも関わらず里桜の足は今にも床に着いてしまいそうだった。
しかし真琴が一生懸命なのがわかるのか、里桜は大人しくしている。
俺と翔は手助けなんて無粋な真似をするためじゃなく、この愛くるしい姿を写真に収めるべく立ち上がった。
俺は連写。ひたすらに連写。翔は動画を撮っているらしい。あれも後でもらおう。
「ふは、ど、てぇ……」
真琴に退けと言われて慌てて床に散らばるおもちゃを隅にやれば、カーペットの上に優しくゆっくりと里桜を下ろした。
「りいちゃ、おもいぃ」
「はあーあ!」
こてんと横になってはあはあと息をする真琴の腹を里桜がぽんぽん叩く。そのまま里桜は真琴の上にのし掛かっていき嬉しそうに笑った。
「うーわ、仲良しー」
「だなー…」
額に汗を滲ませてまで頑張った真琴をあとで褒めてやろう。一生懸命頑張ったご褒美は何にしようか。
≫―――end.