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貴族と庶民【7】


 二階に上がって、ラウルはクルドの宿泊する部屋の前で足を止めた。

 一息吸って呼びかける。

「おい、クル──」

 バン! と、言葉途中で開いたドアにラウルは豪快なキスをした。

 部屋から不機嫌な顔をしたクルドが無言で出てくる。

 ラウルは打った顔面に手を当ててよろけた。言い換える。

「まさか毎回これをクレイシスに見舞っていたわけじゃねぇだろうな?」

「毎回じゃないさ。こっちがやられた時だってある」

「そんな問題か?」

「防犯用のドアだからな。カギが掛けられない分、押し引きが自由になっている。足音が聞こえてきた時点で先手必勝もしくは腹の探り合いだ」

「二階は相変わらず客がいねぇのか?」

 クルドは肩を竦めてお手上げする。

「まぁな。いつもこんな調子だ」

「呪われているんじゃないのか?」

「一階でお前等が派手に宴会を開くからだろうが。──で、何の用だ? 新たな魔女の情報か?」

 ラウルは顔から手を退けると、先ほど言いかけていた話を思い出した。

「いや、お前に客だ」

「客?」

「とりあえず一階で待ってろ。連れて来てやっから」



 ◆



「美女の依頼とでも思ったか?」

「うるせぇ」

 少し身奇麗にしていたクルドはカウンターの下でラウルの足に思いきり蹴りを見舞った。

 痛みに蹲るラウル。

 無視してクルドはやる気のない顔でカウンターに頬杖をついて、左隣に座るスス汚れた少年を一瞥いちべつした。

 歳は十四、五といったところだろうか。手入れのないボサボサの朱髪。服はあちこちと継ぎはぎがされてあり、見るからに貧乏であることは明らかだった。いや、この少年だけではなく、この地帯がそういう貧しい身分の者達が生活している地区なのだから何の不自然でもなかった。浮きもしない、よく見慣れた格好である。

 その少年はクルドに向かって深々と頭を下げた。

「──だからお願いです。どうかお嬢様がここに来ても相手にせず、追い払ってください」

 面倒くさそうに片手をあおいでクルド。

「あのピーチク娘を相手にした覚えは一切ないんだがな」

「全部おいらが悪いんです。三ヶ月前のあの時、お嬢様にここの場所を教えてなければ」

「三ヶ月前ねぇ……」

 クルドはうんざりとため息を吐いた。魔女アーチャの裁判後、彼女は何の味をしめたのか何度もこの酒場に顔を見せるようになった。それが周りにどれだけ迷惑をかけているかもしらずに、だ。

 カウンターでロンがコップを磨きながら口を挟んでくる。

「クルド。元はお前が撒いた種だろう? 後片付けぐらいしたらどうだ?」

 顔をしかめてクルド。

「ちょっと待てよロン。なんで俺の責任になってんだ? あれはクレ──」

 と、言いかけて慌てて言い換える。

「アイツがアレに誘拐されたから、ピーチク娘はここまで来たんだろう?」

 ロンはため息を吐いて肩を落とすと「やれやれ」と首を横に振った。

「だったらすぐに彼をここに呼び出して後片付けをさせるんだな」

「どうやって?」

「なら、お前がやるしかないだろう?」

「……」

 言い返す言葉もなく、クルドはがっくりと項垂れた。

「なんで俺が他人の尻拭いやらなきゃならんのだ」

「あの」

 少年が不思議そうな顔でクルドに尋ねてくる。

「結局、お嬢様が捜されていた黒猫は見つかったのでしょうか?」

「あー……」

 クルドは言葉を詰まらせて助言を求めるようにそのままロンへと視線を流す。

 ロンは磨き終えたコップを置くと、淡々と少年へ答えを返した。

「見つかったよ。ここは何でもわかる『何でも屋』だからね」

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