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貴族と庶民【6】


 ◆


 ラウルは飲みかけたビールを思いきり噴き出した。そして向かいで皿を磨くロンに声を投げる。

「──ヴァンキュリア・サーシャの傀儡をもらってきただと?」

 ロンは落ち着いた声音で答える。

「あぁ。東の大魔女に面倒を見ろと頼まれたらしい」

「受けるな、ンなもん」

「大魔女に貸しが作れる良い機会だ。ワシなら喜んで受けるがね」

「ヴァンキュリアのクソガキはこのこと知っているのか?」

「言うなよ」

「言わねぇーよ。言ってどうするっつーんだ?」

 満足そうに頷いてロン。

「そこがわかっていればいい。──ところで、今日は何しに来たんだい?」

 用件を思い出して、ラウルは再びビールを一口飲んだ。そして答える。

「クルドに仕事だ」

「また魔女の仕事かい?」

 片手を振ってラウル。

「いや、魔女とは別件だ」

 ロンは静かに胸を撫で下ろした。

「そうかい。最近どうも魔女の様子が気になっていてね。虫の知らせというか、なんだか気持ちが落ち着かなくてね」

 磨いていた皿をそっと置き、また別の皿を手に取って磨きながら、ロンは言葉を続ける。

「クルドから何か聞いていないかい?」

 お手上げしてラウル。

「なぁーんにも」

「そうかい」

 ラウルは飲んでいたビールの最後の一滴をあおると、そのまま項垂れてため息を吐いた。

「二年前ならマナが全部話してくれたんだがな。こんな魔女が出たとか、あの魔女はこうなったとか、この事件はどう解決したとか。

 マナが居なくなってからだ。クルドの行動がぷっつりとなーんもわからんくなった。何を考えてんのか、何をやりたいのか、こっちはさっぱり掴めん。一方的に魔女の情報を聞いて、そんで一人で背負い込んでこっちには知らん顔だ」

 ラウルの愚痴のような話に、ロンは静かに微笑んだ。

「きっと、お前を裁判に巻き込みたくないんだろう」

 ムッと不機嫌な表情でラウル。

「なんだそりゃ。今更も今更だな」

 ロンは皿を磨きながら言葉を続ける。

「弟子を失ってようやく大切なことに気付いたのだろう。魔女は不老不死、しかも魔法を使ってくる。人間はそれに対してあまりにも不利だということに」

「魔女が不老不死ってのは絶対卑怯だよな」

「魔女から言わせれば人間が魔術を使ってくること自体卑怯なのだよ。魔女には古の掟がある。それを従い裁判者を相手とすることがどんなに難しいことか。掟を破れば大魔女を敵に回してしまうからな」

「ふーん。まぁそこは上手く平等にされているってとこか」

「だが、魔女の中にはその掟を捻じ曲げて解釈する者もいる。まぁ実際、裁判者にとっては形なきルールに身を置くだけの危険な仕事に変わりはないだろう」

「だろ? だから魔女が不老不死ってのは絶対卑怯だ」

 ロンは笑う。

「たしかにな。そうかもしれん」

 ラウルは不満に口を尖らせていじける。

「別にこれ以上関わるなっつーんならそれはそれで俺様はいいんだぜ? 俺様には家庭と仕事がある」

「大事なモノがあるならそれを優先すれば良い。自ら魔女に関わり不幸を背負うことはない」

 ラウルはその言葉にケッと吐き捨てて口を歪めた。

「クルド一人に任せていたら街中が魔女の被害だらけになっちまう。そうなりゃ幸せもクソもあったもんじゃねぇーよ」

「そうかい。なら好きにすればいい」

「ロン爺はいったいどっちを願っているんだ? 俺様に手伝ってほしいのか、それとも関わってほしくないのか、どっちなんだ?」

「どっちも願っているよ」

「優柔不断か?」

「引退した身だからね。どうこう口を挟んだところで所詮はジジイの独り言だ」

「…………」

 ラウルはしばし考え込むように無言となり、手元の空になったビール瓶を見つめた。

 ロンがぽつりと話題を変えてくる。

「そんなことより、ラウル君」

「ん?」

「クルドに何か用だったんだろう?」

「まぁな」

「クルドは二階にいる。用があるなら自分で呼んできたらどうだい?」

「まだちっとだけここで時間を潰す。徹夜明けのアイツと話すと機嫌が悪いからな」

「言うなら早めに言っておいた方がいい。昼の仕事がどうとか言っていたからね」

「昼に仕事とは珍しいな。何時からだ?」

 ロンは皿を磨きながら答える。

「次の鐘が鳴る頃だ」

「あの鐘は壊れている」

「じゃぁそういうことにしておこう」

 肩を竦め、ロンは皿を黙々と磨く。

 しばらくして、ラウルはがたりと席を立った。

「ちと二階に行ってくる」

 ロンが止める。

「おっと。その前にこのビール代を払ってもらおうか」

 ラウルは片手を振って、

「今日は持ち合わせがない」

「ほぉ」

 ロンが怪しげに目を細める。

「ラウル君が持ち合わせてないとは珍しいね」

「手持ちもクソもあったもんか。どれもこれも全部ヴァンキュリア公家のせいだ。そーいやあのクソガキからまだ依頼の報酬を受け取ってなかったよな? 仕方ない。俺様が回収してきてやろう」

 ロンが口元で人差し指を振りながらチチチと舌打ちする。

「それで上手く口実を作ったつもりかい? 何度も言わせるな。彼にはもう二度と近づくな」

「顔見るだけだ」

「やめておけ。世の情勢がまだ不安定だ。お前が会えば確実に彼の足を引っ張ることになる」

 小言を払うようにしてラウル。

「あーはいはい。どーせ俺様のような汚物の存在は御貴族様にとっちゃ傷物ですよーだ」

「寂しいのかい?」

「ンなんじゃねぇ。困った時だけ一方的に依頼しといて用が済んだら支払い踏み倒して家に帰るクソ貴族に一言説教したかっただけだ」

 そう言い残してラウルはカウンターを離れ、二階に続く階段へと歩いていった。



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