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正義の見方【15】


 ◆


「クルド!」

 駆け寄り、壁際に座るクルドを心配するクレイシス。

 クルドは痛む右足に治癒魔術を施しながら奥歯を噛み締め呻く。

「あの道化野郎……やっぱり俺の右足を狙ってやがったか!」

「足に怪我しているのか? クルド」

「聞くな。色々あったんだ」

「戦えるのか?」

「あと一回だ。次を外せばこの右足は使いモンにならんだろう。次の一撃で確実に奴を仕留めなければ──」

「隙ならオレが作る」

 クルドは顔をしかめてクレイシスを見やった。

「なに?」

「さっきの攻撃でわかったんだ。モーディ・リアンは攻撃を避ける時、必ずある場所に逃げ込む。自身が描いた絵だ。そこを狙えば」

 言葉半ばでポンとクルドはクレイシスの肩を叩いた。

「お前はもう充分やってくれた。あとは俺一人で片付ける」

「クルド」

「お前をこれ以上巻き込むわけにはいかない」

 大鎌を支えに立ち上がり、クルドは痛みに耐えながら背を伸ばした。

 腕をクレイシスが掴んで引き止めてくる。

「弟子を失ったからか?」

 その言葉にクルドはハッとした。

 クレイシスは続ける。

「オレはこんなところで死ぬ気はない。ここで死んだら家名の恥だ。プライドを持って全力で奴と戦い、そして生き残る」

「クレイシス……」

「それに、モーディ・リアンには一つ言っておきたいことがある。だからここはオレに任せてくれないか?」

 その言葉を残し、クレイシスはその場から一人歩き出した。

 道化を誘い出すように。



 すると、どこからかモーディ・リアンの声が響き渡る。

「裁判者の言うことにはきちんと耳を貸すべきだ、クレイシス伯爵」

 虚空から姿を現し、道化はクレイシスの前に降り立った。

「まぁ耳を貸したところで死ぬことに変わりはないのだけれど」

 くすくすと笑う。



 クレイシスは苛立ちを拳に変えると、それを激しく手短にあったモーディ・リアンの絵画に叩き付けた。

「いいかげんにしろ、モーディ・リアン!」

 道化の笑いがぴたりと止まる。鋭い目をクレイシスに向けて、

「何をそんなに怒っているんだい?」

「この際全部話してやるよ。お前が知らなかった真実の全てを。あの日何が起こったのかを。

 あの日・・・全てを台無しにしたのはお前自身だ、モーディ・リアン!」

 道化は腹を抱えて高らかと笑った。心外だと言わんばかりに、

「僕のせいだって? 僕は何もしていない。こんなことになったのは全て君のせいだ。僕を死に追いやったのは君だ。全部君のせいなんだ」

 クレイシスは再び絵画に拳を叩き込んで道化を黙らせた。

「なぜあの日、姉さんの肖像画をラーグ卿に手渡した?」

「何を言い出すんだい? 僕はルーメルだ。絵を頼まれればそれを提供するのが僕の仕事だ。当然だろう? サーシャに頼まれていたんだ。肖像画を。それが仕上がったからラーグ伯爵様を通じてサーシャに渡すよう頼んでいただけだ。それのどこが──」

 そこまで言ってから、道化の顔から一瞬にして笑みが消える。青ざめたような顔で小刻みに震え出し、頭部を鷲掴むようにしながら首を横に振る。

「まさかそんな……嘘だよ、そんなの……僕は信じない」

「なぜ気付いてくれなかった? どうして? 何の為にオレがこの家を用意したのか考えてくれなかったのか? なぜオレのことは秘密にしろと姉さんに言っていたのか、なぜ二人きりで会えていたのか、考えてくれてなかったのか?

 本当はもう二度と会ってはいけなかったんだ。それでも二人を会わせる為にはこれしか方法がなかった」

「嘘だ、そんなの。展覧会で僕の絵が認められれば──」

「何をしても覆せないことだってあるんだよ!」

 クレイシスは激しく手を払って言い放った。

「ラーグ卿がお前を裁判にかけたのは本心だ。二人の気持ちを知ったラーグ卿はその火の粉が降りかかるのを恐れ、お前とは赤の他人であることを裁判で証明してみせたんだ!」

「嘘だ、そんなの! 全部嘘に決まっている!」

 道化は手中に短剣を出現させるとクレイシスに襲い掛かった。


 ――瞬間、

 クレイシスの背後から白刃がひらめく。


 反射的にクレイシスは身を屈めて床に腰を落とした。

 そこでようやく道化は気付く。

 クレイシスの背後で大鎌をスイングさせるクルドの存在に。

 慌てて自身の描いた絵画に入り込もうとするも、

「──!」

 逃げられはしなかった。傍にあった絵画はすでにクレイシスが拳を叩き込んで割れた状態になっていたからだ。

 逃げ場を失いその場に留まる道化の体に大鎌の刃が貫いた。

 勢いのまま刃とともに壁にその身をぶつける。

 道化は物言わずかくんと事切れたように首を落とした。

「くっ」

 同時に、クルドは片足に手を当てて床に蹲った。

 クレイシスが心配に傍に寄る。

「大丈夫か?」

 クルドは冷や汗を浮かべた顔で気丈に答えた。

「心配するな。こんくらいどうってことはない。それより先に道化のマスケラを──」

 首を落としたままの道化の顔がニヤリと笑う。モーディ・リアンとは別の声で、

「そうだよ、裁判者。舞台はまだ終わっていない。誰かが死ぬまではね!」

 道化の姿が霧となってそこから消える。

 消えたことにより大鎌は元の短剣へと姿を戻し、床に落ちた。

 ふと同時に、

 ──カランと。

 どこから降ってきたのか、クレイシスの傍に一つのマスケラが落ちてくる。

 クルドはすぐに察してクレイシスを庇うようにそこから突き飛ばした。

 刹那にクルドの体が見えない力で大きく吹っ飛ぶ。

「クルド!」



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