正義の見方【11】
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この屋敷全体を異空間へ隔離する必要があった。
一階の、月明かりで薄暗い部屋の中で。
クルドはランタンを片手に暖炉の前に立つと、その暖炉の中に真二つに割れたマスケラを放り捨てた。
人差し指を口元に当て、唱える。
「封陣」
暖炉の上に飾られていた置時計が十二時でぴたりと針を止める。
同時に鳴り響く、耳を劈くような甲高い音。
音は遠く小さくなり、やがて消えていった。
暗い暖炉に火が灯る。
青白く、それでいて暖かさも感じない命なき炎。
放り込まれていたマスケラを喰らうようにして、青い炎はマスケラを灰へと変えた。
(これで舞台が一つ消えたか)
クルドは思い返す。
マスケラをつけたティムの姿を。
(ティムのマスケラは断った。残るはモーディ・リアンの仮面か)
だとすれば次に狙われるのはラーグ伯爵。
ならば道化が向こうのターゲットへ移る前にこの屋敷に閉じ込めてしまえばいい。
屋敷全体が異空間の中へと入った。
部屋や廊下のあちこちに明かりが灯っていく。
確認し、クルドは虚空から短剣を出現させた。
それを手に掴み、大鎌へと進化させる。
(道化の舞台では必ず一人が死ぬ)
だったらそのターゲットをこちらに向けさせれば済む話だ。
(問題は、あの道化がこちらの誘導に上手く乗ってくれるかどうかだが……)
罠を仕掛ければいとも簡単に引っかかる。それが道化だ。手の上で踊ってくれているように見えて、いつの間にかこっちが踊らされていたりする。魔女と違って仕掛けは作れない。作ればそれに自爆させられるだけだ。フィナーレの前ならば遊びで済んだことも、フィナーレとなれば道化は本気で命を取りに来る。
(隙を見せれば殺される、か)
その時だった。
どこかで争うような物音が聞こえてきて、クルドはハッとする。
(まさかエミリアが円陣の外に──)
反射的に、クルドは音のする方へと駆け出した。




