正義の見方【9】
黒猫がドアのところでランタンを片手に呆然としている。
「エミリア……? お前がなぜこんなところに?」
「黒猫ちゃん」
エミリアはホッと安堵に胸を撫で下ろす。
良かった。役人じゃなかったんだ。
安心したエミリアは黒猫のもとへ向かおうと体を向けた。
その時――。
黒猫が急に表情を一変させ、焦るようにエミリアに向けて叫んでくる。
「エミリア、後ろ!」
え?
エミリアが振り返るより早く、衝撃がエミリアを襲う。
「お嬢様危ない!」
ティムの声とともに激しくその場から突き飛ばされ、エミリアはよろめくようにして床に倒れ込んだ。
「エミリア!」
次いで黒猫の声も聞こえてくる。
いったい何が起きたというのだろう。
エミリアはぶつけた痛みを感じながらも、床から上半身を起こしていく。
状況を理解しようと周囲に目を向けた時、エミリアのすぐそばに不気味に笑う道化の顔があった。
片手に短剣を振りかざして。
それを見たエミリアの顔から血の気が引く。
(殺される!)
そして消える明かりの全て。ランタンの明かりも何もかも。
道化の姿が闇夜に紛れる。
エミリアは覚悟を決めて身を竦めた。
瞬間、
その身を守り包み込むように、エミリアは背後から誰かに抱きしめられた。
あの時と同じ、安心を覚える温もり。
背に感じる、現実味を帯びた確かな鼓動と温もりを。
あの日のことはけして夢の出来事なんかじゃない。そう思える懐かしさを。
そして聞こえてくるあの音。
魔女に殺されかけたあの時も、同じように──
部屋の隅から隅へと駆け抜けるように、耳をつんざく甲高い音が鳴り響いてきた。
屋敷中のその全てに照明の明かりが灯る。
急に差し込んでくる眩しい光にエミリアは反射的に目を閉じた。
そして少しずつ明かりに目を慣らしていく。
徐々に。
目が明かりに慣れてきた頃、そこでようやくエミリアはその身を黒猫に守られていたことに気付いた。
もう道化の姿はそこにない。
安心を覚えるとともに、エミリアは包み込む彼の腕に恐る恐る手を触れる。
手が当たると同時、黒猫はすぐにエミリアから腕を退けて離れた。
振り返れば黒猫が無言でその場を立ち、去ろうとしている。
エミリアは慌てて立ち上がると、去ろうとする黒猫の背に抱きついて引き止めた。
黒猫が足を止める。
どこか不機嫌に声を引きつらせて、
「言っておくがオレがここに来たのは偶然だ。たまたまこの部屋に用事があって入っただけだ。そもそもなぜお前がこの家にいる?」
エミリアは離すまいと必死にしがみついたまま首を横に振る。
「わからない。わからないから怖いの。お願い黒猫ちゃん、そばに居て」
頭から離れない道化のあの顔。次に襲い掛かってくるのはいつだろう。だからこそ一人で居たくないし、誰かにそばに居てほしい。
そんな時だった。
「うっ……!」
エミリアの耳にティムの苦痛にうめく声が聞こえてきた。




