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正義の見方【8】


 ◆


 くすん、と。

 エミリアは暗闇の部屋で一人、寂しく膝を抱えてうずくまる。

 真下で仄かに光る円陣の明かり。その明かりを頼りに部屋の中を見回してみたが、ここが誰の家でどこの部屋なのか見当もつかなかった。

 おじさんからここに居ろと言われたが、いったいいつまでここにいればいいのだろう。

「やっぱりおじさんと一緒に行けばよかった」

 エミリアは抱えた膝の中に顔を埋めた。その脳裏に浮かぶあの時のこと。

 魔女に襲われたあの時もたしかに怖かった。

 怖かったけど、でもあの時はこんなにも震えることはなかった。

 だって、

「あの時は黒猫ちゃんがそばに居てくれたら……」

 クレイシス殿下の姿になってそばでずっと守ってくれていたから。

 思い出す、あの時の黒猫ちゃんの言葉。


『たしかにオレはヴァンキュリア・E・クレイシスだ。この格好をするはめになったのも』


 現実に引き戻るように、エミリアは自分の頬をぺしぺしと叩いた。

(違うもん。あたしが会ったのは黒猫ちゃんで、本物のクレイシス殿下に会ったわけ──)


『君はクレイシス殿下がそんな非情な人間じゃないと言ったね? 会ったこともないはずなのにどうしてそう思ったんだい?』


 お姉ちゃんの嫁ぎ先での社交パーティに参加した時、偶然耳に入った二人の伯爵様の会話。

 てっきりクレイシス殿下の悪口を言っているんだと思っていた。


『今度二人きりで話をしよう。お互いの利益の為に』


 耳元で囁いた伯爵様のあの言葉がずっと頭から離れない。

 姉を通じて本当に二人で話す日取りも決めようとしているみたいだし、もしかしてこのまま何かの権力抗争に巻き込まれてしまうのでは。


(なんてとんでもないことを言ってしまったんだろう、あたし……)


 あの時自分が会ったのはクレイシス殿下ではなく黒猫ちゃんだったというのに。


 ――そんな時だった。


「お嬢様」

 ティムの声が部屋のどこかで聞こえてくる。


 エミリアはハッと顔を上げて慌てて周囲を見回した。

「ティム? ティムなのね?」


「こっちだよ、お嬢様。早く来て」


「どこにいるの? 暗くてよく見えないわ」


「早くこっちに来て。そんなところに居たら役人に見つかってしまうよ。さぁ早く、今の内に」


 エミリアは焦った。

「え? 役人が」

 床を踏む足音が聞こえてくる。

 その足音は確実にこの部屋へと向かっていた。

 ゆっくりと一歩一歩、何かを確かめていくかのように。

(きっと役人だわ)

 変な輩が住み着いていないか抜き打ちで調べに来ているのかもしれない。

 たとえいくらエミリアが貴族であろうと、ここは他人の家。無断で侵入すれば他家との裁判は免れない。

 エミリアに迷いはなかった。

 すぐにその場から動き出す。

 それと同時に部屋のノブが回り、ゆっくりとドアが開いていく。

 その隙間から漏れ出るランタンの明かり。

 エミリアはすぐに円陣の外へと飛び出し、最初に目についた場所──近くにあったソファーの後ろへと隠れ込んだ。

 入れ替わるようにドアの向こうから懐かしい黒猫ちゃんの声が聞こえてくる。


「エミリア……?」


 え?

 エミリアは時を止めた。

 空耳だろうか?

 しばらくしてもう一度、黒猫ちゃんの声が耳に届く。


「……気のせい、か」

「黒猫ちゃん?」


 エミリアは恐る恐るソファーの後ろから立ち上がった。


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