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正義の見方【7】


 ◆


 屋敷の屋根の上に漆黒のドレスを着た女の子が一人、月夜を眺めて佇む。

 女の子──リルはそっと月夜に手を伸ばし、呟く。

「この広くきれいな夜の舞台。これが私の理想とする世界」

 虚空から銀盤の懐中時計がリルの前に出現する。

 懐中時計のチェーンがゆっくりとリルの指に絡まり、静かにその手中に納まった。

 月の光に輝く銀盤。

 刻まれたクヴェル家の家紋。

「理想郷はもうすぐです、アルブレド様」

 銀色の長い髪が夜風にふわりと揺れた。

 ふと、リルの背後に姿を現す道化。

 振り返りもせず、リルは道化に告げる。

「どこへ行っていたの?」

 道化は口をへの字に曲げると、お手上げして肩を竦めた。

「ちょっとね。裁判者がここに来たから遊んでいたのさ」

「私は裁判者ではなくフレスノール・エミリアを狩れと命じたはずよ」

 道化は言葉を払うように手を振った。

「わかっているよ、主」

 そして、

「──お?」

 道化の視線が階下へと向く。

 敷地内に入ってくる二人の侵入者。

 それを見て、道化は「おやおや」と呆れたようにお手上げした。

「もう終幕だというのにまたまたハプニング発生だね、主。招待していない客が二人も舞台に踏み込んできた。どうする? あの二人にも配役を与えるのかい?」

 リルがぽつりと呟き漏らす。

「どうしてお義兄様がここに……?」

 首を傾けて道化。リルの顔正面へと回り込み、尋ねる。

「知り合いかい? 主」

「彼を配役ターゲットから除外して」

「どっちだい?」

 リルはすっと静かに指で示す。

「あの黒髪の方。良い身なりをした」

 道化がふむふむと顎に手を当てて頷く。

「だろうね。もう一人は貴族にしては格好がおかしい」

「お義兄様をターゲットから外して。すぐに舞台から消すのよ」

 困ったようにため息を落として道化。

「残念だけど主、どうやら彼に配役を与えなければならないようだ」

 ぱちん、と。

 道化は指を鳴らした。

 すると下からラウルを呼ぶ声が聞こえてくる。

 リルは鋭く道化を睨みつけた。

「私はお義兄様を除外してと命じたはずよ。舞台に生かしてどうするの?」

 道化が慌てて両手を振る。

「違う違う。これは僕のせいじゃない、僕の中のモーディ・リアンが願ったことだ。彼に恨みでもあったんじゃないかな? 僕の中の怨念がすごく暴れまわっている。たしかにモーディ・リアンの怨念は裁判者の目を逸らすのに充分な怨念だ。でも主は僕を呼び出す前にこの遺体のことをもっとよく調べるべきだった」

 目を逸らすようにしてリル。反省の顔色なく、

「……面倒なことは嫌いなの、私」

 道化は呆れるようにお手上げして肩を竦める。

「もう主にできる選択は二つに一つしかない。このまま舞台を中止するかい? それとも──」

「中止はダメ」

 鋭く、リルは癇癪起こすように道化の言葉を両断した。

「舞台を中止になんてもうできない。チャンスは今夜まで。今夜中にフレスノール・エミリアを狩らなければ北の裁判者がこの地に到着する」

 苦渋を浮かべて道化。困ったように顎に手をやる。

「それはマズいね」

 そのまましばらく考え込んでいた道化だったが、やがてひらめきを覚えてピッと人差し指を立てる。

「それじゃこうしよう、主。ラストでターゲットの内一人が魂を狩られて死ぬ。それが台本上のルールのはずだ」

「そうね」

「そこで僕は主にも配役を与えようと思う。それでオーケー?」

 意図を察して、リルはくすりと笑う。

「さすが私のドール。それでいいわ」

 虚空から扇を出現させ、リルはそれを一振りして広げ、口元を覆い隠す。

「その遺体より先に私がフレスノール・エミリアを狩れば舞台は無事にハッピーエンド。ついでに裁判者も死んでくれれば拍手喝采よ」

 扇の内側で微笑みを浮かべて道化に命じる。

「さぁフィナーレの続きを始めなさい」



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