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正義の見方【5】


 ◆


 ぺちぺち、と。

 エミリアは頬に軽く叩かれたかのような痛みを覚えて、ゆっくりと目を開いていった。

 暗闇の部屋を照らす頼りないランプの明かり。

 その明かりを見つめ、横に倒れた視界にようやく床の上で寝ていたことに気付いた。

 全ては夢だったのだろうか。

 そんな思いに駆られながらもまぶたをこすり、エミリアは身を起こしていく。

 聞こえてくる安堵のため息。

「良かった。どうやら間に合ったようだな」

 ふと、見知った声が聞こえてきて、エミリアは視線を向けた。

 ランプに照らされ、見覚えのあるおじさんが心配そうにこちらを見つめている。

 エミリアは小首を傾げて尋ねた。

「おじさん? どうしてここに?」

「それは俺が聞きたい。いったい何があった?」

「えっとね、ティムに……」

 言いかけて、エミリアは狐につままれた思いで不思議に周囲を見回した。

 まるで何年と時を越えてしまったかのように。

 家具は全て白い布を被り沈黙している。

 ところどころに張られた蜘蛛の巣が、長いこと住人がこの屋敷に帰っていないことを知らせていた。

 エミリアは恐る恐るティムの名を呼ぶ。

「……ティム? どこなの? 居るなら返事して」

「そうか。やはりさっきの黒い化け物の正体はティムだったか」

「え?」

「いや、なんでもない」

 おじさん──クルドは、そう言って何かを誤魔化すようにエミリアの頭をくしゃりと撫でた。

 そのクルドの手を掴んで、エミリアは尋ねる。

「ティムは? ティムはどこなの? あたし、ティムと一緒にここまで来たの。でもティムが途中で変になって、おかしなことを言い出して」

 思い出す、ティムの言葉。そして最後に見せた、あの静かなる微笑みを。


【――僕は必ず君を迎えに行く】


 エミリアの体が小刻みに震え出す。あの時の事を思い出しただけでも怖く、生きた心地がしなくて、

「ティムがあたしのことをサーシャ様だって言ったの。あれはティムなんかじゃない。ティムの中に何かがいるの。あたしを死後の世界に連れて行こうとして」

 パニックを引き起こしかけたエミリアを、クルドが優しく抱きしめる。

 ぽんぽんと軽く後頭部に手を当てられ、そして落ち着いた声音でエミリアの耳元で囁く。

「わかっている。もう大丈夫だ。俺が来たから安心しろ」

 一人ではない安堵感に、エミリアの体の震えもしだいに治まっていく。

 エミリアの目から言い知れず涙がこぼれた。

「お願いおじさん、ティムを助けて。ティムが何かに取り憑かれているの」

「あぁ必ず助け出してやる。だから安心してお前はここにいろ」

 そう言い聞かせ、クルドはエミリアから引き離れる。

「待って」

 エミリアはすぐにクルドの腕にしがみついた。不安を顔に出して言う。

「あたし一人でここに居ないとダメ? あたしもおじさんと一緒に行きたい」

 そんなエミリアの手をそっと退けて、

「守りながらの戦いは危険すぎる。お前はここに居ろ。ここなら絶対に安全だ。この円陣の中ならな」

 床を指で示され、エミリアは視線を下へと向けた。

 囲むようにして薄くほんのりと浮かぶ白い光の円陣。

 エミリアは不思議に小首を傾げる。

「これ、何?」

「忌々しき魔物から身を守る結界だ。俺が再びここに戻るまで絶対にこの円陣から出るんじゃないぞ。たとえ──」

 念を押すように言ってくる。

「たとえ、どんなにティムに呼ばれてもだ」



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