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正義の見方【3】


 ◆


 二人の怪しげな人物が五番街にある廃墟の屋敷の門前に現れる。

 一人は白の上下スーツに、頭に熊の剥製の被り物した男。

 そしてもう一人は身なりの良いダーク・スーツに一枚の絵を抱いて、挙動不審に辺りを見回しながら不安そうな表情を浮かべた──

「ラウル」

「おぅよ」

「本当にオレが必要なのか? 内緒でラーグ卿の屋敷を抜け出してきたから騒ぎになっていないか気になるんだ」

「うるせぇガキだな。貴族の屋敷に忍び込むには貴族の許可が必要だろうが」

「許可くらいだすよ、紙面で。わざわざオレがここに来る必要なんてないはずだ」

「紙切れが信用なるかよ。役人に見つかったらお前を盾にすりゃ効果覿面てきめんだ」

 クレイシスの顔が引きつる。

「それ本気でやめてくれ。たしかにオレがラウルを庇うって言ったけど、それはラーグ卿の屋敷の中を前提にして言ったんだ。オレがこんなとこに居ることが両親にバレたらまた異常者扱いだ。もう一生部屋から出してもらえなくなる」

「冗談だ、馬鹿。そもそも誰も住んでねぇのに役人が来るわけねぇだろ。考えてわかんねぇのか?」

「だったらオレ帰る」

 くるりと踵を返すクレイシスの腕を、ラウルはがしりと掴んで引き止めた。

「帰るな。本当に役人が来たら俺様どうすんだ?」

「……」

 ため息を吐いて、クレイシスは鬱陶うっとうしくラウルの手を払うと向き直った。

「わかった。極力見つからないようやってくれるのであれば協力する」

「盗賊めてんのか? クソガキ」

「だったら余計オレは必要ないはずだろ? いったい何の保障でオレを連れ回すんだ?」

「どんなに木登りが得意な猫でもたまには木から落ちる時もある」

「それで今まで生きてこられたのが不思議でならないよ」

「生まれつき運が良いんだよ、俺様は」

 言い捨ててラウルは門前から廃墟の屋敷へと目をやった。顔を濁して呟く。

「いつ見ても不気味な屋敷だなぁ。いつ幽霊が出てきてもおかしくな──」

「やっぱオレ帰る」

 くるりと踵を返すクレイシスの腕をラウルは再び掴まえる。

「お前が帰りたい理由はそこか」

 鬱陶しく払ってクレイシス。

「だったら何だ?」

 ラウルはスッと片手の平をクレイシスに差し向ける。

「その絵画を俺様に置いてけ」

「断る。ラウルのことだから絶対この事件解決後に闇ルートに流すだろう?」

「高いのか?」

 当然とばかりにクレイシス。

「モーディ・リアンの絵だ。もちろん高いよ。オレが部屋に飾っていたせいもあってオークションで何十億の値で取引されている」

「お前が部屋に飾ってりゃぁたしかに出世できそうな気がしてくるな。いい買値がつきそうだ。よし、半々で手を打とう。今回の依頼料ってことでどうだ?」

「断る」

「ケチるな。お前の家にはたくさんあるんだろうが」

「一枚しかない。姉さんが死んでからほとんど処分されてしまったんだ」

「冗談だ」

 吐き捨ててラウルは差し出していた手を一旦下ろし、そして閉ざされた門の格子へと手をかけた。

 がちゃがちゃと揺らす。

 慌ててクレイシスがラウルの行動を止める。

「やめろ、音を立てるな。役人が来るだろう?」

「こんくらいで来るか。何のために夜に来たと思ってんだ。俺様の勘を信じろ。この屋敷で幽霊騒ぎがあって以来、呪われるだのなんだのと役人はここに近寄りもしない。まぁなんだ。近寄ってくるとすれば幽──」

「言うな。わかっている」

「お前が怯えているのはそっちか」

 ったく。とラウルは舌打ちして門を封じる鍵穴へと目をやった。

「簡単に開きそうならと思ったんだが無理か」

「それで簡単に開く門なら鍵をつけない方がマシだ」

「誰だ? こんな面倒なことをしてくれた奴は」

「オレだ」

「…………」

 隣からきっぱりと言い放ってくるクレイシスにラウルは冷たい視線を向けた。

 視線を投げ返すようにして睨みつけてクレイシス。

「元はオレが所有していた家だ」

 黙って、ラウルはクレイシスに手の平を差し出す。

 怪訝な表情でそれを見つめてクレイシスは尋ねる。

「何?」

「鍵。持ってんだろ?」

「人手に渡した家の鍵をオレが持っていると思うか?」

「じゃぁ誰が持っているってんだ?」

「ラーグ卿」

 …………。

 差し出した手を下ろしてラウル。

「お前、なんでそれもっと早く言わなかった?」

「オレも今このことを思い出したんだ」

 ラウルはため息を吐いて、門の格子の上を眺めた。

「だったら侵入方法は一つだな。この門をよじ登って越えるしかねぇってことか」

 そしてクレイシスへと視線を落として続ける。

「お坊ちゃまにそんな芸当はできねぇだろ? ──よし、お前はここで待ってろ。俺様が先によじ登って」

 言葉半ばで、クレイシスは無言でラウルに手持ちの絵画を押し付けた。

 突然のクレイシスの行動にラウルは頭上に疑問符を浮かべる。

 するとクレイシスは両の袖口を押し上げ、そのまま門の格子を掴むと、からくさ模様をかたどる格子に上手く足をかけていき、慣れた様子で門をよじ登り始めた。


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