正義の見方【2】
◆
夜空に皓々と月が輝く。
クルドは亭主に「行ってくる」と声を掛け、酒場を出た。
裁判者用の黒服に身を包んだクルドは今誰の目からも見えていない。
裏通りから表通りへ。
道を抜けようとしたその途中。
クルドは娼婦の格好をした妖艶な美女とすれ違う。
去り際に、女はクルドに声をかける。
「裁判者クルド」
クルドは足を止めた。
振り向きはしない。聞き覚えのない声であるにしろ、それが何者であるは分かっていた。
女は振り向きもしないクルドの態度を鼻で嘲笑い、言葉を続ける。
「大魔女様からの伝言よ、裁判者クルド。
フレスノール・エミリアを守りなさい。彼女は今、五番街の廃墟の屋敷に居るわ」
「どういうつもりだ?」
「私に聞いても仕方が無いことよ。あなたが直接大魔女様へ聞いてみるといいわ。私達は大魔女様の言葉にただ従うのみ。
大魔女様は『裁判者クルドに味方せよ』と皆に命じられた。どんなことがあろうと絶対にね。
霧の魔女は私がこの手で直々に始末しておいたわ。後のことはあなたのし・ご・と。
道化を狩りなさい、裁判者クルド。道化の目的はフレスノール・エミリアの魂狩り。彼女の魂が道化の手に渡れば、この世は永遠の闇に閉ざされることになるわよ」
クルドはハッと振り向いた。
「どういうことだ、それは──!?」
振り向いたが、そこにはもう女の姿はなかった。
声だけが暗闇の向こうから聞こえてくる。
「伝言、たしかに伝えたわよ」




