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誰にも言えない【15】


 そこでクルドは事の成り行きをラウルに話した。


 一通りの話を聞いて。

 ラウルは鼻で笑いながら、くわえ煙草に火をつける。

「──で? 若い二人の恋仲を邪魔したってわけか。ガラにもなく父親気分か? クルド。大人げねぇな」

 口端を引きつらせてクルド。

「誰が父親気分だ、誰が」

 ラウルは手持ちの火を振り消しながら、

「二人だけの秘密の場所と言えばだいたいやることは決まってんだろうが。あの鼻垂れてたティムもとうとう大人の仲間入りか。なんだか自分の歳を改めて思い知らされるなぁおい。まだ結婚しないのか? クルド」

「うるせぇ。余計なお世話だ。言っておくが、あの二人の考えることはまだまだガキだ」

 ラウルは顔を上げて首を傾ける。

「あぁ?」

「エミリアが言っていた。二人だけの秘密の場所とは身分を気にせず遊べる場所のことだそうだ。ティムは庶民でエミリアは貴族。成長とともに互いの環境を知り始め、取り残された心だけが戸惑っているんだろう。切り替えができずに子供心の延長を求めている」

「社会からの隔絶。それが二人だけの秘密の場所ってことか」

「あの夜は俺がエミリアの傍に居たからか、ティムはエミリアを呼び出しただけで姿を見せなかった」

「ほれ見ろ。やっぱり邪魔したんじゃねぇか」

 クルドは無視するように言葉を続ける。

「おかしいと思わないか?」

「何がだ?」

「ティムだ」

「そりゃお前、二人の密会におっさんが隣に突っ立ってたら──」

「貴族令嬢を夜に連れ出すことがどれだけ危険か、ティムは知っているはずだ。それなのにエミリアの身の安全を考えず、なぜわざわざ夜に誘い出す?」

「夜じゃねぇと雰囲気ってもんが」

 クルドはラウルの言葉をさらりと聞き流した。

「エミリアが言っていた。最近ティムの様子が変だと。煙突掃除も急に来なくなり、口調も別人のように変わったそうだ。そして極めつけは夜に秘密の場所へと連れ出し、そこでエミリアの肖像画を描いているんだそうだ」

 ラウルの片眉がぴくりと跳ねる。顔をしかめて、

「肖像画だと? あのティムがか?」

 クルドは頷いて、

「あぁ。それに絵師の道具もちゃんと一式そろえているって話だ」

 動揺を見せるラウル。身を乗り出して、

「おいおい、絵師の道具っていやぁルーメルにならなきゃ手に入らん高価な道具だろうが。ティムに限ってまさかそれ、貴族の家から盗んだものじゃねぇだろうな?」

 肩を竦めてクルドはお手上げする。

「さぁな。だがもし窃盗せっとうなら、ティムは役人に捕まり次第そのまま処刑台送りだ」

「秘密の場所を言え。ティムは俺様が保護する」

「保護する前にティムを道化から救ってやるのが先だ」

「道化からだと?」

「あぁそうだ」

「まさかティムが道化にやられてるって言い出すんじゃねぇだろうな?」

「直感だ。あの夜ティムが現れた時に尋常じゃないほどの嫌な予感を覚えた。安易に結びつけたくはないが、道化はもう一つの舞台を用意していると言っていた。もしその舞台がティムとエミリアだったとしたら」

「それは確実なのか?」

 クルドは首を横に振る。

「断言はできない。全ては経験と勘だ。それを信じて動いていくしかない」

 煙草の煙をため息とともに吐き捨ててラウル。

「じゃぁラーグ伯爵の件はダミーってことで放置してて大丈夫なんだな?」

「…………」

 クルドは言葉を止めると静かに自分の前髪を掻き掴んだ。首を横に振りながら重く言葉を落とす。

「いや、もっと慎重になろう。相手は道化だ。もしティムが俺の注意を引きつけるダミーだったとしたら、俺はラーグ伯爵を見殺すことになる」

「なぁクルド。一つ確認しておきたいことがあるんだが、いいか?」

「なんだ?」

「最初の舞台で狙われたターゲットはラーグ伯爵ただ一人。それで間違いないよな?」

 クルドは怪訝に顔をしかめた。

「……何の確認だ?」

 肩を竦めてお手上げするようにラウル。

「なんでもない。ただの確認だ」

 訝りながらも、クルドは答える。

「ラーグ伯爵がターゲットであることに間違いはない」

「そうか。なら問題ない」

「問題ないって何のことだ?」

 ラウルは両手の平を見せるようにして「なんでもない」とばかりに答える。

「いや別に。何も」

 普段の態度ではないことを疑ったクルドは身を乗り出すようにしてラウルを問い詰める。

「何を隠している?」

 ラウルはお手上げして言い返す。

「隠すだと? 俺様がいったい何隠してるっつーんだ?」

「言いたいことがあるんだったら言え」

「本当になんでもない。ただの確認だ」

 多少納得のいかない様子のクルドだったが、そこで会話を一旦切り、それ以上の問い詰めを諦めた。

 クルドはベッドに楽な体勢で寝転がると、天井を見つめつつ真剣に会話を切り出す。

「お前の言う通りかもしれん、ラウル。今夜あの道化を狩る。主を舞台に引っ張り出して根本を狩ろうと思っていたが、それは危険な賭けだったのかもしれない。これ以上道化を泳がせるのは危険だ。早めに狩らなければ取り返しのつかない事態になる」

「俺様がやることは?」

 クルドはハッキリと答える。

「もう充分だ。後のことは俺一人で片付ける。お前は裁判者じゃないんだ。余計なことはするなよ」

 ため息とともに煙草の煙を吐き出してラウル。

「勝手にしろ」

 苛立つようにそう言い残し、部屋を出て行った。



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