誰にも言えない【14】
◆
――翌朝。
ロンの酒場を訪れたラウルは亭主と軽く挨拶を交わして、二階の宿へと階段を上っていった。
二階のとある部屋の中へとノックなしに入り、窓際のベッドで具合悪そうに寝ているクルドを見つける。
ラウルは声をかけようとしたが、視線が自然と包帯の巻かれた足へと向く。
「どうしたんだ? その足」
「見ての通りだ。何も言うな」
鼻で笑ってラウルは言う。
「その怪我、大層高価な治療を受けてるじゃねぇか。昼間は仕事だと俺様に嘘付いて、実は貴婦人と愛人関係になっていたってオチか?」
半眼でクルド。
「何のオチだ、それは。昨日は昼間に道化が現れた。何のトリックか知らんが、奴は昼間も暗黒魔法が使える」
「暗黒魔法は夜だけのはずだろう?」
クルドはお手上げして答える。
「簡単なトリックだ。――ロンに相談したらそう返された。どうやら俺は完全に目に見えるモノに囚われてしまっている」
「道化に遊ばれているってことか?」
「そのようだ」
クルドは静かに二つの指を立て、そしてそれを指折りながらラウルに説明する。
「道化は舞台を二つ用意していた。一つは本物の舞台、そしてもう一つが裁判者をターゲットから遠ざける為のダミー舞台だ。
たしかに道化は遺体の怨念を操りきれていない。だが道化はあえてそれをこちらに曝け出しているかのようにも見える」
「じゃぁ俺様たちが阻止しようとしているラーグ伯家の事件はダミーってことか?」
クルドは投げやりに片手で払って、
「おそらくな」
「もう充分だろう、クルド。道化の正体はわかっているんだ。もう道化を狩れ」
「狩るのは簡単だ。だが今道化を狩ったところで主を狩らない限りは同じことの繰り返しになる。
舞台の演出は道化にとっての美徳だ。ならばそれを逆手にとって主を舞台上に引きずり出してまとめて狩ればいい。この舞台のたった一人の観客者──主は必ずどこかで見ているはずだ。その主が見ている舞台こそが本物。それを見極め、元を断てば終了だ」
ラウルが再度クルドの足の怪我を指差して尋ねる。
「それでその怪我か?」
「聞くな」
「そう言われると余計気になるな」
「裁判にかまけて日常を油断したんだ」
一旦ばっさりと会話を打ち切ってから、クルドはため息まじりに言葉を続けた。
「ティムといったか、お前がここに連れて来たあの──」
思い出してラウル。
「おー。そういやあのピーチク娘の件はどうなった?」




