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誰にも言えない【12】


「とりあえずラウルが来るまでの間、この屋敷内の怪しいところは全て探してみた」

 ラウルは指を突きつける。

「怪しいのはお前だろう。なんで他人よそ様の家でそんなに自由人なんだ? 下はお前の歓迎パーティじゃないのか?」

 肩を竦め、知らないとばかりにお手上げしてクレイシス。

「まさか。あれはラーグ卿と彼に縁深い下流貴族との交流パーティだ。オレみたいな上流貴族が顔を出すのはマナー違反になる。パーティの主役はラーグ卿だ。その顔を潰すわけにはいかない」

「それでも面の皮厚すぎだろ。普通そこまでして図々しくこの屋敷に居座るか?」

「約束が重なることは貴族社会でよくあることだ。大事な話をする時は大抵こうやって頑なに居座って交渉しなければ次の約束に取り付けるまでが話にならない。まぁそれに、ラーグ家はヴァンキュリアの分家だ。ラーグ卿も『今日はパーティがあるから帰ってください』とはオレに言えないだろう」

 ラウルは半眼になって言い返す。

「ラーグ伯爵の部屋を勝手に探し回ることもマナーの内か?」

 フッと鼻で笑ってクレイシス。

「要はラーグ卿にバレないよう秘密裏にやればいい。事は思いのほか順調だ」

 ラウルは口をへの字に曲げてお手上げした。

「図々しい上に腹黒いときたもんだ」

 クレイシスがムッとする。

「これはラーグ卿の為でもある」

「ンで、どうだったんだ? 何か見つかったのか?」

「怪しい儀式の痕跡とかは無かったよ。ただ、一つ気になることがある」

「言ってみろ」

「あの絵がラーグ卿の部屋からなくなっている」

 ラウルの片眉がぴくりと跳ねる。

「あの絵ってなんだ?」

 突っ込まれ、ようやくそこでクレイシスは自分の失言を呪うように気まずく口を閉ざし、顔を伏せた。

 ラウルは尚もわざとらしい口調で言葉を続ける。

「まぁたしかに怪しいとすればモーディ・リアンの絵だろうな」

 ハッと顔を上げてクレイシス。

 ラウルはスッと目を細めてほくそえむ。

「やっぱりな。五番街の幽霊屋敷といい絵画といいその反応、モーディ・リアンの件に関してはお前もどこかで絡んでやがるな。もうそこまで言いかけたんなら全部吐け。クルドの話だとモーディ・リアンの絵が今回の魔女と関係してやがる」

 クレイシスは静かに首を横に振った。

「絵じゃない、きっとそれはモーディ・リアンの怨霊だ。あれだけ人を恨んで死んでいれば生前に描いた絵に魂が乗り移って出てきたとしても不思議じゃない」

「モーディ・リアンがラーグ伯爵の金を盗んだって話は嘘か? それとも本当か?」

「たぶん嘘だ。オレもあの時のことはそこまで詳しく知らされていない。けど、あのモーディ・リアンがそんなことをする人間とはとても思えないんだ」

「まぁ嘘だからこそ、こうやって出てきたりするんだろうがな」

 言ってラウルは歩き出し、すれ違い様にクレイシスの肩を軽く二度叩いた。

「俺様はこれで帰る。それだけの情報が分かれば充分だ。後はクルドが何とかするだろう」

 クレイシスが沈んだ表情のまま言ってくる。 

「聞かないのか? オレがモーディ・リアンの件に関わっている理由」

「モーディ・リアンの気持ちを代弁するわけじゃねぇが、お前みたいな上流階級の貴族に無実を信じてもらえるってことはスラム街の人間にはけっこう救われることなんだぜ? それが助かる助からないにせよだ」

「それは綺麗事だよ、ラウル。もしモーディ・リアンがこの世に現れているんだとしたら、オレは尚更あの時モーディ・リアンを助けてやるべきだったのかもしれない」


 ――そんな時だった。

 カチリと。時計の針と秒針とが重なる音がやけに部屋に響いて聞こえてきた。


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