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誰にも言えない【9】


「──つまり、だ。お前にはそういう特別な力があるということなんだな?」

「うん」

 食事を終わらせ、その全てが片付けられた後。

 クルドとエミリアは続きを語り始めた。

 エミリアがベッドにゆったりと腰を下ろしながら、

「物心ついた頃から何となく使っていたの」

「家族はそれを知っているのか?」

 エミリアは静かに首を横に振る。

「ううん。知っているのは父方のお祖母様だけ」

「お祖母さんの名は?」

「ル・セーラ・ラスティーユよ。あたしのお祖母様も昔、こういう力を使って魔物退治みたいなことをしていたらしいの。嘘か本当かは未だにわかんないんだけどね」

「なるほどな」

 クルドはそれを聞いて項垂れた。顔に手を当てて呟き落とす。

「あのアーチャがお前たち二人を狩りに来た理由がこれでわかった気がする」

「え?」

 小首を傾げるエミリア。

 クルドは「なんでもない。ただの独り言だ」と手を振って話を戻した。

「それで? あんな怖い目に遭っておきながらもまだ魔女に関わりたいっていうのか?」

 エミリアが目を輝かせて身を乗り出してくる。

「やっぱり魔女って本当にいるのね!」

 クルドは迫ってきた彼女の顔を押し戻して、

「例えばだ。童話の話でもいいから聞かせろって言うから話しているだけだ」

 ぷぅと頬を膨らませて不機嫌にエミリア。

「つまんないの」

「だったらこの話は終わりだ」

「えー、やだ。それもつまんない」

「……」

 一拍のため息を置いて、クルドは話を変えることにした。

「なぁエミリア。今すごくやりたいことはあるか?」

「今すごくやりたいこと?」

「そうだ」

 エミリアは顎に人差し指を当てると、虚空を見上げて考え始めた。

「うーんとね……」

 すぐにその人差し指をぴっと立てて答えてくる。

「泥遊び」

 予想だにしない答えを返され、クルドの頬が引きつった。

「泥って……」

 いったい彼女は普段何をしているのだろう。

 ため息を吐いてクルドは話を続ける。

「まぁそれでもいい。それを全力でやっていろ。そうしたら自然と忘れていく。身に付いた力も、魔女のことも」

「ねぇおじさん」

 エミリアが真っ直ぐに純粋な瞳で問いかけてくる。

「どうして忘れないといけないの? あたしが忘れたらその分誰かがやってくれるの?」

「俺がやる」

「おじさんが?」

「そうだ」

「あたしもやりたい」

「駄目だ」

「どうして?」

「脚光を浴びるヒーローになりたければ別のことでやれ。魔女に関われば二度と元の生活には戻れない。血にまみれた泥沼に沈んでいくだけだ。世間から嫌われ、誰からも必要とされない暗闇のダーク・ヒーローを望むのなら別だがな」

 エミリアは尚も食いついてくる。

「あたしが本格的なことをしてないから? してないからそんなことを言うのね。じゃぁわかったわ。あたし、明日から本格的なことしてみる。真夜中に変なゲテモノを収集してみたり、ゲテモノの胃や脳みそで魔法の薬作ったり、狼の乳を飲んだり」

「どうせやるなら他のことをやれ」

 クルドは半眼でツッコんだ。


 ──ふと。

 ピン、と張り詰めた空気に、クルドは窓に鋭く視線を向けた。


(嫌な気配を感じる。魔女でもなく道化でもない、もっと別の何か)

 エミリアも窓へと目を向けた。

「……ティム?」

「ティムだと?」

 クルドは怪訝に顔をしかめた。


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