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誰にも言えない【8】


 クルドはむせた紅茶で激しく咳き込む。

 不思議そうに小首を傾げてエミリア。

「あたし、何か変なこと言った?」

「な、何をいきなりそんなこと」

「さっきの会話の中で仕事って言葉を言って、ふと思い出したの。そういえばおじさんってずっと黒猫ちゃんと一緒に魔女退治していたんでしょ? 魔女裁判ってどんな仕事だったの? おじさんと黒猫ちゃんってどうやって出会ったの?

 ──あれ? そういえばあたし、前にも黒猫ちゃんに魔女裁判のこと聞いた気がする」

 クルドはあの時を思い出して黒猫が言っていたことと同じ言葉を返す。

「童話の話だ」

「その答え、すごくデジャヴー」

「気のせいだろう」

 エミリアはポットを静かに台の上に置くと、後ろ手を組んで好奇心旺盛な瞳でクルドを見つめる。

「じゃぁ童話の話でもいいから、魔女のこともっと詳しく聞かせて」

「ぐ……っ!」

 一瞬、動揺に言葉を詰まらせるクルドだったが、すぐに冷静になって言葉を切り返す。

「魔女なんて戯言だ。聞いてどうする?」

 ぴっと人差し指を立ててエミリア。

「ねぇおじさん。

 おじさんはさっきあたしにこう言ったわよね?


『もしお前の中で黒猫のことを深く考える余地があるならば、あの時黒猫が何を思ってお前を助けたのか。そのことをもう少し真剣に考えてほしい』


 もしかして黒猫ちゃん、あたしに魔女裁判を手伝ってほしかったんじゃないかしら?」


 クルドは鼻で笑った。

「見事なまでに大きく曲解してきたな。おじさんはその事にとてもびっくりだ」

 小首を傾げてエミリア。

「あれ? 違った?」

「違うな。黒猫があの時お前を助けたのは失った瞬間を取り戻そうとしていただけだ。目の前で大切な人を失ったあの瞬間をな」

「大切な人……?」

「そうだ。黒猫はお前に魔女裁判を手伝ってほしいなどと欠片も思っていない。むしろ二度と関わってくれない方が嬉しいくらいだ」

 エミリアは好奇心を消してシュンと肩を落とす。元気なく、

「そうなんだ……」

 呟いて、席へと戻っていく。

 椅子に腰掛けて、エミリアは言葉を続けた。

「あたしね、思ったの。きっとあの魔女の事件は何かの縁かもしれないって。生まれて初めてドキドキしたの。もしかしたらあたしの持っている力が誰かの為に必要になる時が来たんじゃないかって」

 クルドは眉をひそめる。

「持っている力だと?」

「うん」

 まさか昼間の精霊魔術は──。

 彼女はあの力を自覚し、独自にコントロール技術を身につけて行ったというのか? もしそうだとしたら、

 クルドはそのことについて聞かずにはいられなかった。

「エミリア」

「なぁに?」

 エミリアがクルドへと顔を向けて小首を傾げる。

「その力──」

 そこまで口にして、クルドは黙り込んだ。

 彼女に尋ねたいことはいくつかあった。

 しかし、

 クルドは口まで出掛かった言葉を呑みこむ。

 それならば余計に彼女を魔女と関わらせるわけにはいかない。身についてしまった力は使わなければいいだけだ。頻繁に使う機会がなければ力はそのまま自然と消えていく。

 脳裏を過ぎるマナのこと。


【クルドさん! 僕、使えるようになったんだ! クルドさんと同じ暗黒魔術が】


 そう。クルドを師として慕ってきたマナも、この道に引きずり込みさえしなければ今でも笑ってあの酒場で暮らしているはずだった。

 クルドは大きくため息をついて、エミリアの名を呼ぶ。

「なぁエミリア」

 次なる言葉を遮るように、エミリアが話を切り出してくる。何かに意気込むように、

「おじさん、あたし決めたわ」

「は? 何がだ」

 話の腰を折られてクルドは間の抜けた顔で問い返した。

「あたし、この力で黒猫ちゃんと一緒に魔女退治のボランティアしてみる」

 肩を滑らせてクルド。

「全然俺の話をまともに聞いてねぇだろ?」

 やはり彼女とはこのことについてじっくり話し合うべきだとクルドは思った。



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