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誰にも言えない【4】


 路地裏に、フルフェイス型のマスケラで顔を覆い隠した庶民の少年が居た。

 体には何発か打ち込まれた銃弾の痕があるも、血もなく平然と立っている。

 少年は再び刃を振りかざすと、地面を這い逃げる貴族男性に襲い掛かった。


 クルドは咄嗟に懐から裁判用の短剣を取り出し、貴族男性を庇うように少年と刃を交える。

(なんて力だ……!)

 ギチギチと噛み合う刃。成人以上──いや、とても人間とは思えないほどの力だった。

 クルドは相手に上手い具合力押しをさせたまま、目でその少年の特徴を探した。

 察したのか、少年がすぐに後ろに跳躍して一旦退き、クルドと距離をとって短剣を構え直す。

 クルドの後ろから貴族男性が背中にしがみつき、怯え隠れるようにして少年を指差し、声を震わせる。

「ど、どうにかしたまえ、早く!」

「うるせぇ! 退いてろ!」

 突き飛ばして、クルドは少年に視線を戻した。

 その隙を突いて少年が短剣を振りかざして襲い掛かってくる。

 ある程度の距離まで引きつけてクルドはギリギリで攻撃を交わし、そして体勢低く少年の懐に入り込むと、手に持っていた短剣の柄を少年の胸部分に押し当てた。

(──イチかバチか!)

 力弱る昼間に魔術が使えるかは賭けだったが、それでもクルドは唱えようとした。


 しかし、


 唱えるより先に、少年がまるでクルドの右足の怪我を知っているかのように狙って攻撃を仕掛けてきたのである。

 たまらずクルドは声を上げ、右足を抱えて蹲った。

 少年がクルドに向けて刃を振りかざした。

(くそっ! やられた!)

 死を覚悟したその時、

「やめて!」

 聞き覚えのある少女の声が路地裏に響き渡る。

 その声にハッとする少年。

 動きが止まる。


 次の瞬間、


 見えない風圧に吹き飛ばされるようにして。

 少年が路地裏の向こうに倒れた。

 そのまま少年は逃げるようにして走り去っていく。


 クルドは目の前で起こった出来事が信じられなかった。

(精霊魔術だと!? いったい誰が?)


 声主をたどって視線を向ければ、そこには見知った少女の姿があった。

 クルドは驚愕な顔でその少女を指差し、声を上げる。

「なッ、お前ピーチク娘!」

 少女──エミリアはクルドの前を通り過ぎ、真っ直ぐ貴族男性へと駆け寄る。

「パパ!」

「ぱ、パパだと!?」

 クルドは驚きに大きく目を見開いてその貴族男性を二度見した。

 エミリアが倒れている貴族男性に優しく手を貸して抱き起こす。

「大丈夫? パパ」

 貴族男性は身を起こしてエミリアに安堵の笑みを見せた。

「あぁ大丈夫だ。あの人が助けてくれたからね」

 と、クルドのことを視線で示す。

 二人の視線を受けて、クルドは反射的に顔を逸らした。ついでに逃げ出そうとも考えたが、痛む右足に立ち上がることもできず、とりあえず身バレしないよう口元だけでも手で覆い隠す。

「……」

 急に貴族男性の笑みが止まる。

 クルドと貴族男性の間に何とも言えない空気が流れた。

 何かを思い出したように貴族男性。

「たしか、君とはどこかで一度会ったことがあるのような気が──」

「人違いです」

 クルドはハッキリと即座に言い返した。



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