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誰にも言えない【2】


 ◆


 晴れ渡る青い空から燦々と降り注ぐ太陽。

 クルドはやる気ない顔で面倒くさそうに、以前ぶち抜いた屋根の修理をやっていた。

 そんな時。

 虚空から道化が姿を現し、クルドの前に舞い降りる。

 道化がニヤリと笑う。

「職務放棄かい? 裁判者」

 クルドは顔も向けずに作業を続けながら答える。

「アホ言え。昼間は極端に力が弱まって裁判にならねぇ。お前もそうだろうが。わざと言ってんのか?」

 ちょこんとその場に腰を下ろして道化は頷く。

「うん、わざと言ってる。僕も昼間は極端に力が弱くて暇なんだ。せっかくだから話し相手になってよ」

「断る。俺は昼間も忙しい」

「つれないなぁ。せっかく地獄から蘇ってきたのにそれじゃつまらないよ。君の弟子は昼間でも馬鹿真面目に僕を追いかけてきて構ってくれたよ?」

「そのお陰で俺は二人分の労働をさせられていた」

 道化は何を思ってかその場から立ち上がり、クルドが作業する真ん前へと移動するとそこに堂々と座りなおした。

 すれすれなまでの近距離で顔を合わせる道化とクルド。

 作業ができずクルドはやむなく手を止めた。

「そこに座るな。仕事の邪魔だ」

 道化がごろんと寝転がりバタバタと手足を動かして駄々を言う。

「ひまぁ~。暇過ぎるよ、裁判者。暇過ぎてどうにかなりそうだ」

「俺は忙しい。帰れ」

 急に道化はむくりと起き上がる。気楽にポンと手を打ち、

「あ、そうだ。今から新作の手品を見せてあげようか?」

「帰れ」

「ちぇ。なんだよつまんないな。せっかく暇潰しに見せてあげようと思ったのに」

「暇はお前だけだ。帰れ」

 しかし道化は全く帰る気を見せず、いきなりクルドの持っていたトンカチを奪うと、それを一瞬で花へと変えた。

 ため息を吐いてクルド。道化に手の平を見せて催促する。

「返せ。それは裁判用の武器じゃない。大事な昼間の仕事道具だ」

 道化は花を差し出して、おとぼけな顔でことんと首を横に倒す。

「ふと思ったんだけど、裁判者」

「なんだ」

「少し会わない間に腕が鈍ったかい?」

「手抜き修理だ」

「そっちじゃないよ。裁判の方だよ」

 鼻で笑ってクルド。

「お前にしては間抜けなミスだったな」

「何のことだい?」

 本気で惚けてくる道化に、クルドはその被っていた長耳帽子を奪った。その中からトンカチを取り戻し、道化に帽子を押し付けるようにして返す。

「手品が中途半端だっつってんだよ」

 帽子を被りなおして道化は答える。

「まさか。僕の手品はいつも完璧さ」

「そうだな。お前の手品はいつも完璧。精巧な舞台を作りたがる。だからこそ昨夜は油断した」

 道化の顔がスッと真顔になる。

 鼻で笑ってクルド。

「図星か?」

 道化はすぐに表情を笑顔に変える。にへらと笑って、

「まさか。罠かもしれないよ?」

「罠だったらもちっと気合い入れた手品を用意すべきだったな」

「必要ないよ」

「仕掛ける時間もなかったんだろう? 最初の裁判を邪魔した時からお前はすでに修正しようもないハプニングに焦っていた。こうやって昼間にちょくちょく俺の前に顔を出すのも、俺が何かに勘付いてやしないか不安で気になってしょうがないからだ。違うか?」

「違うよ。それは君の勘違い。僕は君のことが大好きで会いたくて仕方が無いだけなんだ」

「俺はお前が大嫌いだ。勘違いならついでに言っておくが、お前がとり憑くその遺体の怨念があまりにも強すぎて、お前は今も上手く舞台をコントロールできずにいる」

 道化の顔からスッと笑みが消えた。

「そういう実力の出し惜しみは良くないよ。まるでこっちが道化にされている気分だ」


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