表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/63

誰にも言えない【1】


「あれ? ここだったかしら……?」

 大通りに馬車を停めてもらって、エミリアは歩道に降り立った。

 後ろから侍女が下りてきて声を掛ける。

「お止めくださいませお嬢様。このようなところからではなく、フレスノール家御用達のデ・ジャロ宝石店が──」

 エミリアは振り返って腰に手を当てると、頬を膨らませて立腹した。

「嫌よ。ティムが教えてくれた宝石店で買うって、あたしもう決めたんだから」

「お嬢様。ティムは庶民でございますよ? そのような者が紹介した宝石店など贋物がんぶつに決まっております」

「もういいわ。あたし一人で買いに行ってくるから貴方は先に帰ってて」

 言って、エミリアはくるりと踵を返して街中を歩き始めた。

「お待ちくださいませお嬢様」

 侍女が追いかけてくる。

「ついてこないで」

「お願いでございますお嬢様。このようなことを黙認しては私が奥様に叱られてしまいます」

 エミリアはため息を吐いて足を止めた。

 侍女も足を止める。

 再度、エミリアは侍女に振り返ると──

「あれ?」

 言おうとしていた言葉を止めて。

 エミリアはある場所の異変に気付いた。

 一つだけ壊れた街灯。本来なら早朝の時点で業者が交換しているはずの物である。

 小首を傾げて指を向け、侍女に問う。

「ねぇ。あそこの街灯、一つ壊れているよね?」

 侍女は振り返り、

「……どこの街灯が壊れているのですか?」

「ほら、あれよ。ここから一、二、二つ目の街灯よ」

 困惑に侍女は首を傾げる。

「……何も壊れてなど」

「え、でも」

 エミリアの目には確かに街灯は壊れて見えた。しかし侍女にはそれがわからないらしい。いや、侍女だけではない。他の誰もその街灯が壊れていることに気付いていないようだ。

(昼間だからなのかな?)

 エミリアはふいと視線を外し、それ以上を諦める。そしてそのまま再び歩き出した。

「お待ちくださいませお嬢様」

 慌てて追いかけてくる侍女。

 すると──。

 ゾクリと、エミリアの背筋に悪寒が走った。

(なにこの感じ……)


『こっちに来て! 早く!』


(え?)

 頭に直接響いてくる自分の声に思わず目を瞬かせる。

 よくわからなかったものの。エミリアは直感に導かれるようにして、ある方向へと駆け出した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ