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目に見えるモノ【12】


 ◆


 人けのない大通りに、街灯ランタンの明かりが皓々と点る。

 薄い霧の漂う静かな街中。

 数軒の酒場を残して、店はほぼ入り口を閉めてしまっている。

 そんな街中を二人の酔っ払いの異国人が千鳥足で暢気に歩いていた。

「どこもかしこも閉まってら。なんとも活気のねぇ街だなー」

「もちっと店開けろってんだ。俺たちは大帝国フローレシアから来た観光者だぞ」

 気の大きいことを怒鳴り散らしながら、二人は歩く。


 ふと。


「ん?」

「ろーした?」

 一人が何かに気付き、足を止める。

「見ろよ、あれ」

「あー?」

 前方にあった街灯が一つだけ、激しく点いたり消えたりを繰り返している。

 その真下には八本の短剣でジャグリングを披露する道化の姿があった。

 道化は歌う。

「楽しいな~。楽しいな~。ふんふんふーん♪」

 男は目を凝らして見つめる。

「何を見ろってぇ?」

「あ、あれ?」

 もう一人の男は何度も目を擦った後、不思議そうに首を傾げて呟く。

「おかしいなぁ。確かにさっき、あの街灯の下に道化みたいな奴が居た気がしたんだが……」

 何度目を擦って凝らして見たところで何もない。

 人けのない静かな大通り。

 街灯も何事なく全て点っている。

「飲み過ぎで幻でも見えたかぁ?」

「幻だったのかな?」

「お。向こうに見えるアレは酒場じゃねぇか。あれ行こうぜ」

 二人は千鳥足で再び街を歩き始める。


 ジャグリングをしている道化の傍を何事無く通り。

 そして二人は過ぎ去っていく。


 道化はジャグリングを止めると、二人の姿をにこやかに手を振って見送った。

 その真上にある街灯は相変わらず激しく点滅を繰り返したまま。

 再び、道化は上機嫌に歌いながらジャグリングを始めた。

「楽しいな~。楽しいな~。ふんふんふーん♪」

 しばらくしてジャグリングを止める。

 片手に一本、もう片手に七本と、短剣を手にして道化は急に笑みを消した。

「何が楽しいかって?」

 道化は誰にでもなく言葉を続ける。

「目に見えるモノに囚われているからだよ」

 片手に持った一本の刃先を見つめながら、

「そろそろ盛り上がりといこうじゃないか、裁判者」

 そして高く、道化は見つめていた短剣を真上に放り投げた。

 街灯が砕け散り、その破片がキラキラと道化に降り注ぐ。


「さぁ。ショータイムだ」


 

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