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目に見えるモノ【11】


 クレイシスは鋭くラウルを睨みやる。

 ラウルが鼻で笑った。

「お。その面、なんか心当たりでもありそうだな」

「オレを呼び出した本当の目的はそれか?」

「まぁな」

「オレを疑っているのか?」

「いや、手がかりを探しているだけだ」

「誰から聞いた?」

「盗賊を嘗めてもらっちゃぁ困るな。伊達に金目のものばっか盗んでいるわけじゃねぇんだぜ?」

 クレイシスは観念するようにため息を吐いて椅子に背凭れた。ラウルから顔を逸らし、

「だからそんなに裏の引き出しが多いわけか」

「今更だな、オイ。一年も俺様と顔をつき合わせておいて」

 降参するように手で払ってクレイシス。

「字が読めないなんて嘘なんだろう?」

 ラウルは肩をすくめて答える。

「字は読めん。だが耳で聞くことはできる」

「耳で聞いて理解できる話じゃない」

「これが不思議と人伝いに聞けば理解できない話も理解できるってわけだ」

 舌打ちしてクレイシス。

 ラウルは更に身を乗り出してクレイシスを問い詰める。

「あの幽霊屋敷で何があった? お前は何か知っているんじゃないのか?」

 クレイシスは冷たくラウルをあしらう。

「貴族の事情だ。話すことは何もない」

「ラーグ伯爵が魔女に狙われているんだぞ。お前の姉さんと同じ被害に遭うかもしれん。それでもお前は話さないつもりか?」

「無理だよ。これは言えない」

 頑なに話そうとしないクレイシス。

 ラウルはこれ以上問い詰めても無駄だと察し、あっさりと身を引いた。

「……聞きたいことはそれだけだ。呼び出して悪かったな」

 それだけ告げて、ラウルは席を立った。

「待ってくれ、ラウル」

 クレイシスに引き止められ、ラウルは顔を向ける。

「なんだ? まだ用でもあんのか?」

「……」

 クレイシスは少し躊躇いの表情を見せた後、やがて仕方ないと諦めるように話し出した。

「誤解するな。庶民が貴族のこういうプライベートを探るのは危険だからだ」

 ラウルは無言で椅子に腰を据えた。

 クレイシスも落ち着いたように椅子に座りなおす。そして話を続けた。

「物を盗むのとはわけが違う。ラーグ卿に勘付かれればすぐにでも役人を動かしてラウルを捕らえ、裁判にかけるだろう。さっきも言ったが庶民が裁判にかけられたら何かと不利だ。特にスラム街の者には人権が適用されないから裁判の通りが早くて中止の書面が届く前に処刑が執行されてしまう。それだけはどうしても避けたい」

「お前……」

「明日の夜、ラーグ卿の部屋で待つ。それまで絶対にラーグ卿のこういうプライベートを詮索しないと約束してくれ。詮索する時はオレも一緒にする。もし何か問題が起きてもオレが一緒ならラウルを逃がしてやれる」

「おいおい、気でも狂ったか? お前は貴族──」

 真っ直ぐに。そして真剣なクレイシスの眼にラウルは思わず言葉を呑んだ。

 クレイシスはぐっと拳を握り締めて言ってくる。

「ラウルやクルドが処刑されるのを見るくらいなら家名なんて捨てる覚悟だ」

「……」

 しばし呆気にとられていたラウルだったが、やがてクレイシスの被っていたフードをさらに目深に被せた。

 鼻頭を指でこすってラウル。

「お前が来るまで一応待ってやる。一応な」

 その言葉を残し、ラウルは静かに席を立った。



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