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目に見えるモノ【10】


 黙って、クレイシスは懐から一通の封書を取り出すとテーブルに置いた。そのままスッと、その封書を流すようにラウルの前へと置く。言葉を添えて、

「もしまたクルドが役人に捕まるようなことがあれば、これを使ってほしい」

 ラウルの片眉がぴくりと吊り上る。

「権力にモノを言わせるつもりか?」

「庶民が裁判にかけられたら何かと不利になる」

「お前が裏で事をもみ消す気か?」

「他に方法がない」

 ラウルは置かれた封書をクレイシスに押し戻した。

「悪いがこれは受け取れねぇな」

「どうして?」

「クルドもお前に貸しを作る為にアーチャを狩ったわけじゃねぇんだ」

「そんなことくらいわかっている。だけど」

「役人に捕まろうが裁判にかけられようがクルドは自分で何とかする。庶民はみんなそうやって生きてんだ。わかったな?」

「……」

 視線を落とし、やがてクレイシスは諦めるように封書を手に取った。呟く。

「わかった。なら仕方ない」

 封書を懐に戻しながら、

「残念だよ。この封書の中にはあの時依頼を受けてくれた謝礼も入れてあると言おうとしたんだが──」

 ラウルの態度が一変する。すぐにテーブルから身を乗り出して、クレイシスの懐に入れられようとしている封書を寸前のところでワシ掴みして引き止めた。

 真顔で先ほどの言葉を訂正する。

「今までは今までだ。アーチャの件はお前に貸しを作る為にやった。これは喜んで俺様がいただいておこう」

 頬を引きつらせてクレイシス。奪われそうになる封書をきつく握り締める。

「いつも通りのラウルで安心した」

「ンだと、このクソガキ」

 クレイシスは封書からパッと手を離した。

 封書を奪い取ったラウル。すぐさま封書を懐へと入れる。そして念を押すようにクレイシスに指を突きつけ、

「言っておくが俺様がもらうのは金だけだ。他はいらん。クルドには一応お前の手紙を渡しておくが期待はするなよ」

「わかっている。その書面・・を渡してくれればそれでいいよ。受け取らなければその時はその時だ」

 クレイシスは静かに席を立った。

「オレ、そろそろ帰るよ。他にまだ話したいことは?」

 尋ねるクレイシスにラウルはお手上げして首を横に振った。

「いや、特にない」

「わかった」

 言って、席を離れようとしたその時。

 ラウルがわざとらしく「あ」と何かを思い出してクレイシスを引き止める。

「そういや、お前に一つ聞きたいことがあったんだった」

 クレイシスは席に戻ると、また静かに椅子に腰を下ろした。

「いいよ。何?」

「魔女のことで今ラーグ伯爵んとこを調べているんだが、庶民が貴族の情報を調べるには色々と限界があってな。お前から情報をもらえると助かるんだが」

「ラーグ卿とはオレが伯爵だった時に何度か交流したことがある。何が知りたい? 家の間取りか? 警備の数か?」

「誰かに恨みを持たれている話は聞かないか?」

 顔をしかめてクレイシス。

「恨み?」

「あぁそうだ。例えば、そうだな──」

 ラウルは意味深に微笑すると、テーブルに少し身を乗り出してクレイシスに迫った。声を落として続ける。

「ラーグ伯爵が五番街にある幽霊屋敷をお前から強制的に買い取った理由、とかな」

「……」

 一瞬で、クレイシスの顔つきが変わった。


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