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目に見えるモノ【7】


 ◆


 ラウルはいつも出歩く裏通りから表通りへと姿を見せ、ぶらぶらと歩いていた。

 しばらく歩いて、とある一軒の酒場へと入っていく。

 ランプの明かりがぽつぽつと配置された店内には、国外から来たであろう異国の服装をした旅行者たちが静かに酒を飲み、談話していた。

 そのせいか、ラウルの不思議な身なりにもそれほどの注目を集めることはなかった。

 ラウルは黙って真っ直ぐとカウンターにいる亭主へと歩み寄る。

 亭主がラウルに気付き、客の相手をサブマスターに任せてラウルの元へとやってくる。

 互いにカウンター越しで自然と顔を寄せ、声量を落として言葉を交わす。


「アイツは?」

「向こうの窓際席に座っているよ」


 と、亭主は顎で奥の薄暗い個室の席を示した。

 その席に一人、修道士のような外套に身を包んだ怪しげな人物がいる。フードを目深に被って顔を隠し、だたじっと座ったまま何もせずに誰かを待っている様子だった。

 ラウルはフッと鼻で笑う。視線をその人物に固定したまま声だけで亭主と会話する。


「よく抜け出せたもんだな」

「会うのはこれで最後にしておけ。ここにも役人の調べが来ている」

「お早いことで。親鳥もそろそろご立腹寸前か?」

「親鳥だけで済む問題とは思えんな」

「世間からも大事大事な雛ちゃんってか」


「五歳で爵位だ。それで得た信頼と権力は今や誰にも取り崩せん。フェヌーバル王はそれを恐れて国を切り離さずを得なかったんだからな。国として独立すれば彼の地位は不動だ。交易、外交、財産、そして巨万の兵と軍艦を持つ大帝国フローレシアの後ろ盾。ヴァンキュリアの分家は今出世に目の眩んだ古参と新参の貴族でごった返している最中だ。特に古参分家は自分の椅子を守るのに必死でな、こんな時期に彼と多く接触している奴を見つけると──」

 亭主が親指を立てて自分の首を切る真似をし、言葉を続ける。

「黙っていないってことだ」


 ラウルは気楽に手で払って言う。

「承知済み」

「変なことを吹き込むなよ」

「へいへい」

 さりげない仕草で亭主に紙幣を渡し、ラウルは怪しげな人物が座る席へと向けて歩いていった。


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