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目に見えるモノ【6】


 ◆


 ラーグ伯家の、本人が寝ている部屋のバルコニーにクルドは降り立ち、一歩踏み出した。

「ぐっ……!」

 右足にうずく痛みに思わず顔を歪める。

「やっぱ完治とまではいかないみたいだな」

 気休め程度というべきか。クルドは右足を庇いながら窓に忍び寄った。

ルーズ

 唱えると、窓の内鍵が触れることなく外れ、窓がかちゃりと音を立てて開く。

 クルドは足音を殺して開いた窓をゆっくりと押し開け、部屋の中へと入っていった。

 薄暗い部屋の中ではラーグ伯爵がいびきをかいてベッドで眠っている。

 彼の無事を確認し、クルドは安堵するのように胸を撫で下ろした。

 そして、そのまま警戒を込めて周囲を見回す。

 物音一つしない静かな夜。

 執事の見回りもまだ当分なさそうだ。

 なによりも、さきほどから霧の魔女の気配が寸分もしないというのは少々おかしい。

(あの時と同じだ)

 まるで一度目に油断したあの時の瞬間を繰り返しているかのように。柱時計の音が聞こえてきて、道化が短剣を投げつけ、そして霧の魔女が現れる。全てがその瞬間を待っているかのように思えた。


 柱時計の音が聞こえてくる。

 するとどこから投げられたか、足元の床に一本の短剣が突き刺さる。


 クルドがその短剣へと視線を落とした時に、全てを悟って目を見開いた。

(そうか! そういうことだったのか!)

 再び視線を前へと向けた時、あの時と同じように霧の魔女はクルドの目前に姿を現していた。

(二度も同じ手を食らってたまるかよ)

 魔女が高音波な奇怪声を上げると同時、クルドも魔術を構成させて迎え撃つ。

 波動を魔術で緩和し、場に踏みとどまって息つく間もなくすぐに次なる攻撃を仕掛ける。

 手に短剣を出現させると、そのままそれを霧の魔女に向けて投げつけた。

 油断した魔女の体に短剣は深々と突き刺さり、魔女は断末魔を上げて短剣ごと霧散していった。


 魔女が完全に消えてクルドが緊張を解いたその直後。


 ふいにカタン、と。 


 何かが落ちた物音を耳にし、クルドは壁際へと目を向けた。

 壁にいくつも飾られた絵画。

 その内の一つが壁から外れ、床に落ちていた。

 クルドはため息を吐く。

 落ちた絵画へと近づき、それを拾い上げて。そして──

 クルドは眉間にシワを刻んで訝った。

 その絵画の中心には、クルドが刺した短剣が深々と突き立っていたからだ。



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