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目に見えるモノ【5】


 ◆


 月夜の仄かな光が差し込む薄暗い部屋の中を、キャシーは明かりも付けずにその部屋へと入り、問いかけた。

「行くの?」

「あぁ」

 影は答える。

 キャシーはその影の足に目をやった。

「怪我は?」

「魔術で治癒を早めた。ロンには言うなよ」

「怒られるから?」

「怒られるどころか殺される。裁判以外での魔術の使用は禁止されているからな」

「厳しいのね」

「厳しいからこそ俺は人間のままでいられるんだ」

 影──クルドはキャシーへと振り向いた。

「色々と悪いな」

「いつものことでしょ。早く行きなさいよ」

「あぁ」

 微笑して片手を軽く挙げ、クルドは再び窓へと向き直った。

 手持ちの短剣を窓から放る。

 すると短剣は箒へと変化し、宙に浮いた。

 クルドは窓枠に片足を置くと、箒に飛び乗る手前で背中越しにキャシーへと言葉を残す。

「この恩はいつか返す」

 相手の返事を待つことなく箒に乗り、クルドは窓から夜空へと飛び立っていった。


「……」

 部屋に一人残されたキャシーはため息を吐いて肩を落とす。

 誰もいなくなった部屋、それでも相手が居るかのように、

「昔からいつもそう。返しもできないくせに強がって」

 小さく呟きを零して、キャシーは彼の寝ていたベッドへと歩み寄った。

 さきほどまで彼が寝ていた場所。

 その場所に手を置き、静かに腰を下ろしてそっと横になる。

 まだ少し、温かい。

 彼の温もりを肌で感じながら、どこか安心感と寂しさを覚える。

 キャシーはそのまま眠るように目を閉じた。

「ほんとポッキリいっちゃえば良かったのよ。そしたらもう少し長く、一緒に居られたのに……」


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