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目に見えるモノ【4】


 ◆


 赤く染まった陽が山の向こうに沈もうとしていた。

 街中に晩課の鐘が鳴り響く。

 それを耳にしながら、エミリアは自分の家の屋根上に座り込み、風景を眺めていた。

 屋敷からはエミリアを呼ぶ声が聞こえてくる。どうやら複数の使用人たちと母親が彼女を捜して慌しく屋敷内を走り回っているようだ。

 エミリアは返事をすることなく、ただずっと無言で風景を眺め続けていた。

 そよそよ、と。

 弱い風が話しかけるようにしてエミリアの肌を撫でていった。

 エミリアはくすっと笑ってその風にささやく。

「そうだよね。そろそろ戻らないといけないよね」

 その場から立ち上がり、屋根の隅ぎりぎりまで普通に歩いていく。

 一旦足を止めて、エミリアはそっと目を閉じて風を感じるように両腕を大きく広げた。

 足の真下に現れる白い光の魔法陣。

 エミリアの姿はかすんで消えていった。


『ダメ!』


 ──え?

 頭の中に直接響いてきた自分の声に、エミリアはハッと目を見開いた。

 瞬間、体が宙でぴたりと静止する。

 そして。

 エミリアは背中から噴水の中へと落下した。

 しばらくして噴水からずぶ濡れになったエミリアが姿を現す。

 噴水の中をじゃばじゃばと歩き、外へと出る。

「…………」

 ぽたぽたと服裾や髪から滴り落ちる雫に、エミリアはうんざりとため息を吐いた。

「また失敗しちゃった。お母様に今度は何て言い訳しようかしら」


 そんな時だった。


「お嬢様」

「え? ティム?」

 背後から聞こえてきた声に、エミリアは驚いて振り返る。

 しかし、そこには誰の姿もなかった。

(気のせいかしら?)

 不思議に小首を傾げ、エミリアは正面へと顔を戻した。

「お嬢様」

「きゃっ!」

 突然目の前に現れたティムに、エミリアは短く悲鳴を上げて身を竦ませた。

 ティムが上機嫌に微笑む。

 見知った人物であることにエミリアは安堵し、胸を撫で下ろす。

「ティム。もう、驚かさないでよね」

 手を差し出してティムは言う。

「迎えに来たよ、お嬢様」

「今更遅いわよ。何時だと思っているの?」

「昼間は役人の目があるだろう? だから今迎えに来たんだ。抜け出すなら夜がいい」

 ティムはエミリアの手を掴むと、どこかへ連れ出そうとした。

 引かれるがままに歩き出したエミリアだったがすぐにその場に立ち止まる。

「ねぇ待って。夜の下町が危ないって言ったのはティムよ?」

「大丈夫。僕が守ってあげる」

 そう言って無理やりエミリアをどこかに連れ出そうとする。

 いつもと様子の違うティムにエミリアは嫌な予感を覚えて掴まれた手を振り払った。怪訝に顔をしかめて、

「あなた本当にティムなの? なんだか少し様子が変よ?」

 ティムは穏やかに微笑んで、

「たしかに変かもしれない。でもそれは、君を早くあの場所に連れて行きたいせいだと思う」

「あの場所……?」

「秘密の場所を見つけたんだ。君が言っていた『何も気にすることなく自由に過ごせる楽園』を」

 そう言って再びエミリアの手を掴んだ。

「行こう、エミリア。案内するよ。二人だけの秘密の場所へ」



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