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目に見えるモノ【3】


 ◆


「これじゃ、しばらく魔女裁判はお休みね」

 窓際のベッドの上で半身を起こしたクルドに、キャシーは作りたてのスープを運んだ。

 大通りに面した場所に建てられた社員寮の一角、その一室で。

 右足に包帯を巻いたクルドは反抗的な態度でそっぽを向き、キャシーに言葉を返した。

「うるせぇ。余計なお世話だ」

「あの屋根、あなたが修理した場所だったんですってね。墓穴を掘るなんて言葉があるけど、ほんっと何してんの?」

「掘ったんじゃない。手抜き修理だったんだ」

「こんな詐欺めいた真似、通報受けたのが私じゃなかったらまた牢屋行きだったわよ?」

「そーいやお前、貴族課から地域保安官に流されたんだってな」

「誰に聞いたの? それ」

「ラウルだ」

 キャシーが影で拳を握り締めるて小さく舌打ちする。

「あの情報通、ほんと牢屋にぶち込んでやりたいわ」

「やめとけ。アイツを追えば追うほど左遷されていくだけだぞ」

「まったくもう。二人そろって運が良いというか何と言うか」

 クルドは自分に指を向けて言い返した。

「俺のこと言っているのか?」

「そうよ。しかも足だけ骨折ってところが無駄にしぶといわね」

「オイ。無駄にってどういう意味だ?」

「いっそうのこと、全身ポッキリいっちゃえば良かったのに」

「お前、俺に何か恨みでもあるのか?」

 腰に手を当ててキャシー。怒りに顔をつり上がらせ、

「当然でしょ。今まで散々私に迷惑かけておいて反省も感謝の一つもないわけ? もしあんたが幼馴染みじゃなかったらとっくに縁を切っているところよ」

 はい、どうぞ。とキャシーは皿とスプーンをクルドの前に差し出した。

 クルドは黙ってそれを受け取る。

「あ、スプーンくらい使えるわよね?」

「獣か? 俺は」

「だってあなたが物を使って食べている姿、見た事ないもの」

「見ていないだけだ」

 ふてくされつつ、クルドはスープをすくうとそのまま口の中に入れた。

「…………」

 表情を変えることなく真顔で感想を述べる。

「相変わらずの味だな。野菜スープなのかポテロフなのかいまいちよくわからん」

「野菜スープよ」

「野菜の味がしないな」

「どうせパンとコーヒーしか口にしてないんだから野菜の味なんてわからないでしょ?」

「まぁな」

 影でぼそりとキャシー。

「もう少し牛スジを煮込めば良かったかしら」

「オイ。野菜の味が殺されているぞ、それ」

 ツッコむクルドに、キャシーはふふと笑った。

「懐かしいでしょ?」

 首を傾げ微笑してクルド。

「いや、相変わらずだ」

「二年ぶりに作ってみたんだけど」

「二年と三ヶ月ぶりだ」

「よく覚えていたわね」

「あの時はちょうど、マナが死んだ日だったからな」

「……」

 キャシーはクルドの傍に腰を静かに下ろした。

「まだ気にしているの? あの子のこと」

「まぁな。俺が殺したようなもんだ」

「病気で死んじゃったんですもの。誰が悪いわけでもないわ」

 クルドはスープに視線を落としたまま、ため息を吐いた。

「……そうだな。その方がまだ良かったのかもしれん」

「え?」

「いや、なんでもない」

 互いに視線を合わせないままキャシーは言葉を続けてくる。

「ねぇクルド」

「なんだ」

「魔女のこと、何か手伝うことある?」

 しばらくの沈黙を置いた後、クルドは答える。

「お前はもう魔女に関わるな」

「そう。わかったわ……」

 呟いて、キャシーはすっとその場から腰を上げた。

「私、ちょっと夕食の買い出しに行ってくるわね」


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