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貴族と庶民【14】


 ◆


 あの頃のおいらは、まだ世の道理を知らない七歳のガキだった。


『あたしはエミリア。フレスノール・エミリアよ。よろしくね』


 普通、御貴族様といえば庶民に話しかけられたり言葉を交わしたりすることは同等の階級であることを意味し、家名の恥だとして忌み嫌うものだ。それなのにエミリアお嬢様はそんなことを微塵も気にすることなく、そればかりか堂々と話しかけ、おいらに手を差し伸べてきたのである。

 彼女はまるで太陽のようだった。彼女の中に身分はなく、誰にでもわけ隔てなく平等に接する。太陽だってそうだ。誰の頭上にも明るく輝くものだ。

 フリルのついた綺麗なドレスに白い帽子。肩ほどに伸びた金色の髪をふわりと揺らして、彼女はいつもあどけない笑顔でおいらに話しかけてきた。

 そんな彼女の魅力に、いつしかおいらは惹かれていった。許されぬ恋だと知りながらも、その想いは歳を重ねるごとに募っていったのである。

 願わくば──ずっと傍で、彼女の笑顔を見ていたい。

 きっかけを作ろうと必死で、おいらは役人の目を盗んでは彼女の屋敷に忍び込み、彼女を屋敷から連れ出した。

 なるべく安全な道、安全な場所を選びながら、おいらは彼女に庶民の色んな遊びを教えた。

 特に彼女が夢中になったのは泥遊びだった。下町を浮浪する仲間たちと一緒に街外れの沼地に行って、そこで泥を投げ合って遊んだ。

 泥だらけになった彼女は変わらぬ笑顔でおいらに言ってくる。


『また明日もここで遊ぼうね、ティム』


 そんなことを繰り返して、もう八年になる。


【いいかい、ティム。絶対に御貴族様と関わるんじゃないよ】


 生前、母ちゃんがおいらに遺した最後の言葉。母ちゃんは病気で死んだけど、父ちゃんはおいらが小さい頃に貴族に関わって殺された。


《彼女ハ貴族ダ。身分ガ違ウ》


 そう。おいらと彼女では身分が違う。おいらは庶民で彼女は貴族のご令嬢。身を弁えなければならないのはおいらの方だ。世間はずっと温かく見守ってはくれない。仲間も役人の仕打ちを受けたし、おいらも痛い目にあった。成長するにつれ、身分という壁がおいらの前をだんだんと高く阻んでいき、そして見えない道理となりしだいに恐れを抱くようになっていった。

 庶民は貴族に逆らえない。

 彼らに逆らうほどの権力も知識もない。

 学問は貴族のみに許された神聖なモノ。

 裁判も役人も警察も世間ごとみんな、貴族の言いなりに動いていく。

 全ては金と権力だ。

 正義の味方なんて空想じみた存在は信じていない。


《力が欲しいのかい?》


《欲シイ》


 それさえあれば。


《じゃぁ僕が君の味方になってあげる》


《コレデ彼女ヲ奪エル》


 これでずっとエミリアお嬢様と一緒に居られる。

 そう、これからもずっと……。

 

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