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スライム

スライム


 さて、入荷したポーションはあっという間に売り切れて、手許には9000ルブル、約900万円の資金が入ってきて、いきなり金持ちになったエイトム達。とはいっても、これは中間子を買い付けるための資金になるので、まるまる儲けと言うわけではない。スライム1ヶにつき1ルブルで購入すると宣言しているので、スライム9000匹の資金が手許にあるということになる。これを多いと見るか少ないと見るかは微妙なところだが、当面は問題ないだろう。

スライムの元はあちらこちらにばら撒いて、いま旺盛に中間子を体内に取り込み、結晶化し、体を大きくしているはずなので、程なく中間子結晶体を換金に来る客が現れると思われる。ばら撒いたスライムの元は9000匹分以上あるから、今後も継続して収入を得なくてはならない。ポーションを準備するのは簡単だが、客には今大量生産するための機械を作ったり、材料を集めているから、もう少し待ってという説明をしているので、いきなり大量にポーションを仕入れるわけにもいかず、なかなか悩ましい状況が続く。中間子結晶体から得た利益で支払いできれば全く問題ないのだが、通貨が異なるのでそれは出来ない相談である。宇宙航海するレベルの経済で、国もまとまっていない都市国家レベルの地域と交流するのは何かと難しいのだ。

 それからも週に一回、前回と同程度の数のポーションを売っては、手持ち資金を地道に増やし続けるエイトム、ユーランのところに、いよいよ中間子結晶体を持ち込んでくる人が現れた。


「なあ、ユーランよ。この間言ってたスライムっての、見かけたんで、ぶったたいて殺したらこれ落っことしたんだが、これを1ルブルで買ってくれるのか?」


と、客が持ってきたのは銀色の金属光沢を持つ物質。


「ちょっと待って」


そういいながら、中間子結晶体判別装置を客に見られないようにかざすユーラン。


「……ああ、これで間違いないわ。じゃあ、はい、1ルブル」

「おぉ!何か、随分得した気分だな」

「これからも持ってきてね!」

「おう、任せろ!!」

「あと、これがあるとポーションも作りやすいんだって。どんどん入荷するからいっぱい買って、夜もばこばこ頑張って♪」

「わははは!」


ちなみに、店にいるのはユーランのみ。相変わらず品のない会話をしている。エイトムはポーションを必死に作っているという設定になっていて、着陸船に行っているので店にはいない。


 スライム退治はそれから増えるかと思われたが、意外にあまり中間子結晶体、略してクリスタルを持ってくる人が増えなかった。日に数件、多くて20件ほど。資金はあるが、地球界に送るものが少なく、困っている。もっとも、中間子結晶体(便宜上結晶と命名しているが、ほとんど金属のようである)を受け取った地球界では、衝撃が走っていて、ほんの数個の中間子結晶体でも十分効果はあるようではあるが。


「案外スライム退治がすすまないわね」

「そうだな……」


という現実に直面するエイトムとユーラン。


「あのさ、買取を3個につき、ライトポーション1本、5個でポーション1本っていう風に、物との交換にしたら?」

「あ、それいいかも」


人々の関心はポーションに向いている。流石に初日の爆発的な売り上げはないものの、恒常的に売り上げを伸ばしている。なので、ポーションとの交換なら人々の関心を集めるに違いないとの戦略である。


「聞いてーー!!今日からね、スライムのクリスタルとポーションの交換を始めまーす!」

「そりゃどんなんだ?」

「スライムのクリスタルを3つ持ってきたらライトポーション1本、5つ持ってきたらポーション1本と交換よ!」

「そうか!」

「そりゃいいかもな……」

「……で、そのスライムってどんなんだ?」

「え?スライム?……」


ユーラン自身スライムを見たことがなく、返事に困っていると、実際にスライムを倒した人が説明を始める。


「スライムってな、森にいてうにょうにょうごいている黄緑のぶよぶよの生き物だ。大きさは案外でかくてこんなもんだな」


といって、手を1mくらいに広げる。


「見た目通り体が弱くって、棒でやたらめったらぶってると、そのうち体が粉々になって何か銀色の塊を落っことすんだ」

「ふーん、そうなのか」

「危険はないのか?」

「ほとんどないんじゃねぇ?ま、あれに頭突っ込んで息出来なくなったら死ぬかもしれねえけど、普通は大丈夫だろ。子供はやらねえほうがいいかもな」

「そうか」

「魔獣なんかはあらわれねえか?」

「街の傍ならいねぇだろ」

「そうだな。それだけがちょっと心配だが」


結構関心をもたれたようだ。ただ、スライムの生息地が今のところ森に限られるので、仕事を放り出してスライム退治と言うわけにはいかないようで、すぐには持込が増えなかった。だが、次の休みの日……


「お?お前もスライム退治か?」

「ああ、ポーションがかかってるからな」

「あれはいいものだ!」


街の男どもがぞろぞろと森に向かって歩いている。もちろん、休日を利用してのスライム退治である。運動にもなって丁度いいかもしれない。夫婦で向かっている人々も多い。その日、クリスタルは5000個も集まった。こうして、中間子集めは順調に始まったのだが……


「もっとたくさん出来ないか?だって」


中間子結晶体は材料の革命であった。今までのどんな材料よりも、遥かに軽量、遥かに強靭なので、例えば宇宙船に使えば大幅な性能アップが見込まれる。建物の構造材にも使える。その他小型のヴィークルにも使えるし、何にでも使える夢の材料だったのだ。おかげで李下楽研究所は空前の好景気に沸いている。中間子結晶体はかなり展性に富み、1cm3程度の材料が100m2程度に広がるのだが、用途がありすぎて、あればあるだけ良いと言うことになる。


「そう言われてもねえ。この間の休みは街中の人がスライム退治に行っていた雰囲気よ」

「だよね。もっと人を増やさないと……」

「……他の街の人に頼む?」

「出来るの?」

「うーーん……お父さんに相談してみる」


ということで、二人そろってエルノタ(ユーラン父)の許を訪れる。


「なるほど、他の街でも同じような商いをやりたいが、いい方法がないかと」

「そうなの、お父さん。あのクリスタルがあると、ポーション作りも捗るから、もっと大々的にやりたいんだけど」

「そうか」


そこで、思案顔になるエルノタ。商売人のエルフと言うのもありなのだろう。


「ところで、エイトム君。あのポーションはどのくらい準備できるのだ?」

「はい……クリスタルが手に入ればかなりの量を準備できると思います」

「具体的には一日に均してどのくらい?」

「そうですね……」


ここでエイトムも考える。その気になれば1億本でも出来るだろうが、そうは言えないだろう。一応個人で作ることになっているのだから。


「日に1000本か2000本くらいが今のところ限界かと思います」

「そうか。……ところで、前から疑問だったのだが、あの量のポーション、どうやって作っているのだ?個人で作るにしてはやたらと数が多いと思うのだが」


これはなかなか辛い質問だが、一応こう答えることにしておいた。


「はい、師匠との約束で詳細は説明できませんが、特殊な装置があって、それがポーションを作っていきます。私も詳細は分からないのですが、師匠が一生を奉げた魔法術が使われているようです。そこにあのクリスタルを加えると効率よくポーションが出来てくるのです」


ぎろっと疑いの目を向けるエルノタであるが、それ以上は追求することはなかった。


「あと、もう一つ。他の人に頼むとして、原価は幾らにする?君は売り上げのうちどれだけ欲しい?」


正直、全然もらわなくてもいいのだが、そういうわけにもいかない。


「どうする?」


と、ここは自分より商売に長けているユーランに聞いてみる。


「6割頂戴。4割は持っていっていいわ」

「輸送込みでユーランの取り分3割」

「うっ……5割頂戴よ」

「3割5分。これ以上の譲歩はないな」

「うぅぅ……いいわ、それで」

「よし、分かった。それじゃ、お前の兄弟姉妹に方々の街に行ってもらう。ポーション類を売る条件は基本この街と同じだが、多少の裁量は認める。売り上げ、及びクリスタルはユーランとエイトム君に渡す。クリスタルは1つで2ルブル。これでいいな?」

「うっ……クリスタル、少し安くしてよ」

「しっかりしてるな。誤魔化せると思ったのに。よし、1つで1ルブル20コペカ。一つあたり1ルブル支払う必要があるから、我々の手数料は20コペカだけだ。これならいいだろう」

「ええ、いいわ」

「はい、それでお願いします」


こうして、ギルド商会が各地に支店を作ることになった。これが後に冒険者ギルドと呼ばれるものの前身となる。


一方でエイトムは人知れずあちらこちらにスライムの元をばら撒いていく。最も静かに空を飛ぶことができる飛行船型の無人散布機を送ってもらい、夜間上空からスライムの元を撒いていくのである。スライムを用いた中間子回収は徐々に軌道に乗ってきた。

まずは定番スライムの登場です。実はあれは中間子収集装置だったのです!!

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