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商売開始

「これを幾らで売るの?」


地上に戻ってきた二人は、荷物を馬車に移し、また宇宙船を偽装モードにしてトヨカナに戻っていく。そして、荷物を見て値付けを聞いているのがユーラン。


「いくらくらいがいいと思う?」

「一本10ルブルくらいかしら?」

「それって、どのくらい?」


貨幣単位は、銅貨一枚1コペカ、銀貨一枚1ルブルで、どうやら銅貨一枚が10円程度の感触のようだ。従って、銀貨一枚1000円、10ルブルといったら1万円である。ただ、これだけだと不便なので銅貨20枚分の重量を持つ20コペカ塊という、貨幣と紙幣の合体のようなもの、20ルブル、100ルブル相当の銀塊も存在する。普通市場に出回っている貨幣は1ルブルがほとんど、たまに20ルブル塊を見る程度である。それより上の貨幣は1000ルブルという金貨がある。商人は都市国家間を行き来しているので、国家としてまとまっていないのに貨幣は共通で使用できるという、やや奇妙な状況がうまれている。ほとんど人のいないところまで治安を保つほどには軍事、警察力がないにも関わらず、人はそれなりに増えて物流の必然が生まれたのがそういう状況を生んでいる原因であろう。

1000ルブル金貨――約100万円――は今回ユーランが大規模に買い付けに行っていたが、そういう際に使われるので、案外流通している。

話を元に戻すと栄養ドリンク1本100円程度のものを10000円で売ろうというのだから、ぼったくりも甚だしいが、輸送費を考えれば無理な話でもないのかもしれない。それに、あまり安く売ると、他の業者と競合することもあるので、それほど流通させないことを考えれば適切な価格設定なのかもしれない。その辺は、やはりユーラン、商売人である。


「じゃあ、そうしよう」


ということで、決めた値段が


地球界の名前異世界での名称価格参考:日本円

リパバタンBライトポーション10ルブル10000円

ユンクェールコーテーポーション20ルブル20000円

水質改善錠清めの水50コペカ/錠500円

パブロフゴールド万能薬5ルブル/錠5000円


水質改善錠は、この地の衛生環境改善のため、比較的安く供している。それでも、食事2回分程度なので、決して安いものではない。使い方は簡単。川の水を溜めている甕に錠剤を入れれば、殺菌されるというもの。そうすると病気になることが減るといううたい文句で販売することにしている。病気になると高価な薬を買うこともあるから、それに比べれば圧倒的に安い。衛生環境向上のため、これは故意に安めの設定にしているのだが、さて売れるであろうか?

 二人の住んでいるのは明らかに住居なので、親の店の軒先を借りて商売を始めるユーラン。


「エイトムのポーション入荷しましたぁ!薬も色々ありまーす!ギルド商会で売ってまーす!!」


と、ユーランが宣伝しながら店に歩いていくと、あちらこちらからわらわらと人が集まってきてユーランの後ろから付いていく。あまりの人の多さにユーランは宣伝を取りやめ、足早に店に向かい、そこで値段を公表する。


「ライトポーション10ルブル、ポーション20ルブル、清めの水50コペカ、万能薬5ルブル!!」

「なあ、エルノタのおっさんが飲んだのはどれだ?」

「ああ、あれは作るのが大変なんで今回はないの。でも、このポーションやライトポーションだと同じような効果があるよ」

「そうか!」

「効果は弱いけどね」

「……そうか」


人々は、20ルブルかぁ、ちょっと高いなぁというようなことを言いながら、商品を眺めている。


「空き瓶は一つ1ルブルで回収するわ。あと、ポーションの他にも清めの水や万能薬もあるから、そっちも買って♪」

「それはどんな効果があるんだ?」

「清めの水はね、甕に入れておくと病気になりにくくなるの。万能薬は、万能薬ね」

「そうか……」


と言って、またポーションの方を見始める。やっぱり、ユーラン父の様子を聞いたら、全員興味を持つのがポーションになるのは当然。だが、効き目が弱いとなると……どうしたものか、と躊躇する。


「じゃあ、とりあえずライトポーション1個もらえるか?」


一人の客がライトポーションを購入する。


「毎度ありぃ!」


他の人は、とりあえず様子見。ということで、その日売れたのはそれ一本のみ。

だったのだが、その翌日……


「あ、あのライトポーション10本くれ!」


昨日一本購入した顧客が、またまた店にやってきて、こんどは10本まとめての購入である。何が起こったかは聞かなくても明らか。というわけで……


「ライトポーション、俺にも10本!!」

「お、俺はポーション5本!」


というように、ポーション600本は、それから半テンポ(約1時間)もかからない内に完売してしまったのだった。このポーションを売ったお金がエイトムの資金源となる。ちなみに、清めの水と万能薬はまだ全く売れていない。


「もう売り切れちゃったの!ごめんね。ポーションはエイトムが一生懸命作るから、次の入荷まで待ってね。

あ、あとね、エイトムが言ってたんだけどトヨノの森の方に行くと、こんな変な生き物がいることがあるんだって。

スライムっていうらしいけど。これをね、殺すとなにか銀色のコインみたいなのを落とすから、それを持ってきたら一つ1ルブルで買い取るから。それを使うと薬やポーションの効き目があがるんだって。わかった?」


一方で、例の中間子を集める方法についても指示があった。なんでも、例の中間子を取り込んで結晶状にする人造生物をつくったらしく、放っておけばその生物が空中の中間子をどんどんとりこんで体内に蓄積していくらしい。それを殺すと結晶化した中間子を入手できるというわけだ。その対価としてポーションや、そのた地球界の技術を少し供給するという関係を、知らず知らずのうちに築こうという計画だ。まずは、スライムの種の散布、及び中間子結晶体を買い取るための資金調達は順調に始まった。計画全体がうまくいくだろうか……。


 ここで、二人の新婚生活の様子をみてみよう。ユーランは結構大きな店の娘で、今までやってきたことは商売の手伝い。買い付けに行くくらいだからその技量は十分なのだが、それがほとんど全て。炊事洗濯掃除全てだめ。新婚早々から家政婦を雇う必要が生じてしまう。なので、親のところにいる家政婦をパートタイムで雇って、その辺の家事をやってもらう。まあ、借りているのは小さな家だから、ほとんど食事作り(親のところで作ったものをおすそ分けしてもらう)とたまの洗濯、水運び(川から飲み水を汲んでくる)くらいしか仕事はないのだが。料理は素朴ではあるが味はエイトムにとっても普通。味覚が同じようなのでエイトムも安心する。


「ま、普通じゃない?」


料理を誉めてもユーランを誉めたことにはならないので、率直に自分の感想を述べるエイトムである。トヨカナの傍には岩塩があって、塩には全く不自由しない。この塩がトヨカナの主な収入源となっている。逆に、そんな土地、即ち塩分が多く乾燥している気候なので農産物は期待できない。そういう環境なのでギルド商会のように都市間で各地産品を流通させるという人々が必要になったのであろう。トヨカナは乾燥気候だがトヨノの森は多少雨が降る。距離にして20km程度の僅かな差なのだが、その間山があるわけでもないのに急激に気候が変わっている。トヨノの森の反対側からやってくる雲がちょうどこの辺で雨を降らしきってしまうことが原因だろうが、不思議な気候区分に感じられる。

料理はこのように特に問題ないのだが、若干不満があるのが設備、特に水周り。設備は当然現地仕様なので……


「エイトムの家のお風呂が恋しいわ……」


と、エイトムの風呂を思うユーランである。それも当然、水は川から汲んでくるので、ほとんど飲食専用の貴重品なのである。入浴といったらたらいに水を張って入るのだが、飲食に比べれば大量に水を消費するので、入浴は節(1ヶ月強)に1回あるかないか。エイトムの風呂のようにお湯が一瞬で入るなんていうのは夢のような世界なのだ。


「あれは……いいよね」


それには同意するエイトム。だから、7~10日に一回、連絡や物資の授受のため着陸船に向かうのだが、その都度二人は入浴を満喫してくるのである。


「ねえ、あれをこっちにもってくることはできないの?」

「無理だね。着陸船をおくのにある程度場所が必要だから、街中にそんな場所を確保できないから」

「それじゃあ、あっちに住むっていうのは?」

「たしかに、ポーション作りのために必要だからっていう理由はつけられないこともないけど……商売もあるからねぇ。もうちょっとあそこに住まなくてはならない強い必然性がないと」

「そうよねえ」


しばらくは、風呂無しの生活を続けるしかないようである。それでも、10日に1回は風呂に入っているので、他の人々よりは遥かに清潔なのであるが。

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