来訪者
さて、必死に現地語の習得をしているエイトム。かれこれ2週間くらい学習しただろうか?
その日も勉強をしていると、珍しくアラームがなる。
「何か来る。……人か?何人も走っているみたいだけど」
屋外監視モニターを見たエイトムがつぶやいている。街道より奥まった場所にいるので、こんなところに人が来ることは未だかつてなかったのだ。
アラームがなるより遡ること数十分。街道を馬車のような乗り物と、それを護衛するように数名の人間がやはり馬のような動物に乗って走っていた。彼等の使っている動物は、四つ足で大きさは超大型の馬くらい、見た目はロバっぽく耳が妙に大きい、色は茶色、そういう動物である。この地の馬代わりの動物らしいので、とりあえず馬と命名することにする。
その馬車の中での出来事。
「なんなの、あの糞オヤジ!こっちが下手にでてりゃ図に乗りやがって!こっちだって商売なんだからね、何でもあんたの言うこと聞くなんていうわけないのよ!おとといきやがれ!今度私の前にその面出したら、タマ潰して魚の餌にしてくれるわ!
だいたい、あんたのところ、今回買い付けに行った中じゃ一番小口なのよ!それを、なに?品質がいいから、今回はこの値段でねぇと売れネェだなんて。あれじゃどこも買ってくれないわよ!いい気味だわ!
ああ、それにしてもむしゃくしゃする!おぜうさん、そんな性格だから、いつになっても嫁に行けないんじゃねぇの?ああ、もう諦めてるからどうでもいいのか!なんていいやがって!私だってね、その気になればすぐ結婚できるんだから!」
若い女性がぷりぷりと文句を言っている。内容から判断すると、どうやら彼女は別の街に商売に行ったのだが、相手との交渉にうまくいかず怒っているようだ。だが、怒っている真の原因は、後半の台詞にあるような気がしないでもない。
と、馬車が突然ペースを落とし、止まってしまう。彼女は扉を開けて、御者に声をかける。
「なんなの?何もないならさっさと行って!」
だが、御者や護衛は下種な嗤いを浮かべながら彼女の元へとやってきて、こう言うのだった。
「お嬢さん、すまんがあっちの馬車に移ってもらえんかな?」
「何でよ!」
「お嬢さんは、ここであいつらに襲われる、俺らはお嬢さんを守ろうと必死に戦ったが、ぼこぼこにやられてお嬢さんを奪われてしまう、そういうことになってるんでさ」
絶句する女性。
「いやね、お嬢さん、顔はまあまあだから、牝奴隷にしてそのきつい性格を調教して服従させたいって、俺らにたんまり金をくれる人がいてな。
仕方なく、その人の指示に従ったわけなんでさぁ。
酔狂な人もいるもんだよな。俺ならごめんだがね。
俺たちもわりいとは思ってんですよ。お嬢さんには金もらって雇われてるわけだから。
でもね、お嬢さんには値切られたし、値切る前の額の100倍も金出すって言われちゃあ、俺たちの気持ちも動いちゃって。
ま、安心して下せえ。綺麗な体のままでっていうのが条件だから、俺らも素直に従ってくれたら、お嬢さんに危害を加えるようなことはしねえから。
それに、お嬢さんもでっけぇ城に住めるからいいんじゃねえの?地下牢かもしれねえがな。ハハハッ。
というわけで、あっちの馬車に移ってくれるとありがてえんだが」
女性は暫し思案した後、
「分かったわ」
といって馬車を降りる。馬車を降りて周りをみると、確かにもう一台馬車が止まっていて、そこにも男が5人ほどいる。合わせて10人の男から逃げ切れるか。そもそも逃げたところで助けてくれる人がいるか。一瞬そんなことを思案する女性であるが、何もしないよりは逃げられる可能性に賭ける。もう一台止まっている馬車の方におとなしく歩いていく振りをするが、一転傍の男の顔に隠し持っていたナイフで切りつけ、そのまま森に逃げ込んでいく。
「くそっ!テメェ!おい、捕まえろ!!」
「おう!」
が、この女性、案外足が速かった。口も悪いし、性格もきつそうだし、お転婆娘と言うのがぴったりなのだろう、
「こっちくんな!ママのおっぱいでも吸って家で寝てな!」
と、悪態をつきながら必死に逃げている。
切りつけられた男は、右目を押さえているが、かなりの出血で失明する可能性が高そうだ。怒りの余り、女に何か危害を加えないと許せないという気持ちになったのだろう。
「かまわねえ!やっちまえ!」
と、女を犯すよう部下たちに発破をかける。
「え?でも約束が……」
「ケツの穴ならかまわねえだろう!」
「そうっすね!」
男達は嬉々として女を追いかけ始める。先ほどより昂奮しているので男たちの足も速くなり、時々女に追いついている。が、すぐには押し倒すことをせずに、ナイフで女の服を切り刻んでは弄んでいる。
「おらおら、もっと速くにげねえと、やっちまうぜぇ」
「くっ……この変態野郎!!」
「あははははっ!」
女の服はずたずたになり、もうほとんど裸で走っているような状態である。うずくまって泣いてしまいたいのを必死に堪えてひたすら助かることを信じて走っている。
「さ~て、そろそろ楽しませてもらおうか」
「さわるな!糞野郎!!」
というところに、雷のような大きな音と共に謎の人物が登場する。
『あーー、かよわいーー、じょせいおーー、いぢめるのわーー、いけないーー』
突然現れた人間が、なんとも妙な言葉遣いで自分たちの前に立ちはだかる。女も一瞬大きな音に驚いて立ち止まったが、すぐにその男、即ちエイトムの後ろに隠れてしまう。
「なんだ、てめえ?!なーにがいけないーだ!怪我したくなかったら、その女、こっちによこせ!」
エイトムの前には男が10人ほど立っている。人間と思われる男もいるが、ゴリラっぽい男、犬っぽい男、色々である。エイトムは、最初に話す人間が強姦魔ってどうよ?とは思いつつも、どうやら意思は通じたらしいと安堵する。
『いますぐーー、たちさればーー、きがいわーー、くわえないい』
「なんだ、こいつ?頭おかしいのか?殺しちまえ!」
エイトムはやっぱりそうなるよな……と溜息をつきながら、
「仕方ない。この辺に照射」
と自分の前方を指差し、独り言のようにつぶやく。と、突然ものすごい光が現れ、辺りが一瞬で焼け野原に変わってしまった。
「な、何をした?!!」
残った男が狼狽しながら聞くが、エイトムはそれを無視して
『いますぐーー、たちさればーー、きがいわーー、くわえないい』
と、もう一度同じ台詞を吐き出す。
「覚えてろ!」
男たちは陳腐な台詞を残して逃げ去っていった。
エイトムのやったことは、最初におおきな音を出すため、着陸船から放電を起こすこと。まさに雷である。それから母船に指示を出すこと。現地の人の安全よりは、まず身の安全を守る必要があるから、常時多少の武器は携えているが、大規模な武器は母船側にある。武器と言っても本来の目的は敵の攻撃でなく、回避不可の小惑星を吹き飛ばすというような場合に使うエネルギー照射装置、要するにレーザー砲であるが、それを今地上に向けて使用したのだ。エイトムの指示に従い、高エネルギーを指示のあった場所に照射、そこにあった全てのものはあまりの高温に蒸発してしまった。
接触法では基本現地人との接触を過度に行わないことが基本であるが、人道的な場合は認められることになっている。そして、現地人を殺傷する場合は、証拠を残さないというのが基本なので、殺すならば男達は跡形もなく蒸発させられてしまったのだろうが、今回はそんな必要もないと威嚇射撃に留めている。盗賊たちも雷を呼ぶか何かをしたとしか思わないだろうから、確かにすごい人間だとは思われるかもしれないが異星人とは思われないであろう。
何を以って人道的と言うかは難しいところではあるが、とりあえず女性が大勢の男たちに襲われている状況は人道的に見て女性を助けるべきという見方をして問題ないだろう。男達を全員殺すという選択肢もあったのだが、殺戮マニアでもない一般会社員のエイトムはまず威嚇して様子をみたのである。男たちも逃げるという選択をして正解だった。更に襲い掛かったら間違いなく消されていたのだから。
国家間の紛争、戦争状態のような大規模な事例の場合は、一方が虐殺されているという状況でも、さすがに関与すると影響が大きすぎるので、不干渉が原則である。どの辺から不干渉、どの範囲なら干渉可能かというのは難しいところだが、当事者判断がまず第一となる。あとで司法が関与する場合もないこともないが、やはりその場にいた人間の判断は、余程無理がなければそれなりに尊重される。
『だいじょーぶー…ですかぁ』
男たちを撤退させたエイトムは女性の方を振り向き、そう尋ねる。このとき初めて女性の姿かたちをじっくりと眺めたが、それはエイトム基準で理想的な美女であった。年は20前後か。絹糸のような金髪に抜けるような白い肌、海のように深い青の瞳、形のよい唇に、それから西瓜!のような大きな胸。どこをとってもエイトムの理想そのものだった。その女性が今、目の前にほとんど裸で立っている。
「あ、ありがと、助けてくれて……」
女性はそれだけいうとへなへなと座りこんでしまう。やはり恐怖だったのだろう。その後、安心して気が緩んだのか、シャーと音をたてながら彼女の足許が濡れていく。
「み、見ないで……見ないで………」
女性はそういうが、エイトムは液体を排出している女性の股間に目が釘付けになっている。音が消えると、今度は女性はうっ、うっ……と泣き出してしまう。その姿にエイトムは思わず女性を抱きしめてしまっていた。女性は暫く泣いていたが、そのうちエイトムに抱かれながら、気が抜けて気を失ったのか、安心して眠ったのか、とにかく意識を手放してしまった。
ヒロインを最初に出すかどうか迷ったのですが、出したほうが展開が早いのでここで登場してもらう事にしました。ヒロイン無しで苦労してギルドを作ると言うのも魅力的だったのですが。