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惑星オサムテ

 さて、地表面にやってきたエイトム。地面に来たからといってすぐに現地人と接触を図るわけではない。それ以前にやらなくてはならないことが生活基盤の確立。


「えーっと……偽装モードに入るには……」


と、着陸船のマニュアルを見ながらなにやら操作をしているエイトム。

着陸船は人類が最初に月に着陸したときに使ったような小さなものでなく、その中で1ヶ月はある程度過ごせる空間を備えているから、小屋くらいの大きさがある。

それが金属光沢をしているのだから、外見が違和感だらけで、すぐに発見されてしまう。

そうならないために周囲の景色に溶け込むよう、場合によっては水中、地中に潜ったりして着陸船が発見されないようにするのが最初のステップである。

マニュアルによると、最初にすべきは着陸船を設置する場所を決めること。

これは、人間が判断するしかないので、着陸船のハッチを開けて外に出る。


「一応病原菌、ウィルスなどが蔓延しているようなことはなさそうだったから、大丈夫だと思うけど……緊張するな」


と、いいながらハッチを開ける。ピーという警告音を発してハッチがするすると開いていき、気圧差の関係でシューという音と共に外に機内の空気が漏れていく。扉から体を出し、新鮮な空気を胸に吸い込む。


「すぅ……はぁ……すぅ……はぁ……異世界の空気かぁ。特に違和感はないな。異世界の空気を吸った第一人者!やったね。

じゃ、降りるか。外に出る前には、儀式をして。

『これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である

   ルイ・アームストロング』

それじゃあ、降りよう。………普通に地面だな。草だらけの。

草の種類は……分からない。地球の草を見たって分からないから、異世界の草はもっと分からない。

まあ、あとで送っておこう。で、それはいいから設置場所ね、設置場所。

うーーん、偽装のための材料が多くあるところとか書いてあったけど……」


ちなみに、ある時代に明らかな知識、事実も年の経過と共に忘れ去られていくということはよくあることである。エイトムの記憶している情報もそうだ。アームストロングという人間はいたが、その台詞を言ったのはニールである。ルイではない。

そして着陸船を離れてあたりを歩き回る。もちろん、肉食性の動物に襲われた場合に備えて、レーザー銃は所持しているが、今着ている宇宙服自体、見た目ちょっと厚手の服程度であるが相当の耐久度があるから、命を失うようなことはまずないと思われるが、それでも用心に越したことはないであろう。この服、宇宙服であるからには、当然宇宙に出ても問題ない気密性はあるし、加えて数mm程度の微小なスペースデブリがぶつかっても穴が開かないよう、相当な強度が確保されているのだから、獣が噛んだ位、ナイフで刺されたくらいではびくともしない。というより、弾丸が当たったって平気である。そんなものよりスペースデブリの方が遥かに危険であるのだから。

少し歩き回ると湖のそばに岩だらけの場所があり、更にすこし崖になったところに浅い洞窟というより窪みがある。上から巨大な岩が落っこちてきて潰される心配もなさそうだし、湖の水位が急激に上昇して、溺れてしまうこともないだろう。そもそも、水に沈んだところで、宇宙船なので気密性は問題ない。取水口、排水口も取り付けやすそう。ということで、


「ここにしよう」


と、仮の住処の場所を決めたエイトムであった。その後はほとんど着陸船の機能が偽装行動をおこなうため、エイトムは細かい調整をするのみで、ほとんどする作業がない。そして4時間もするとあたりにあった石、岩で周りを固めた着陸船が出来上がったのだった。光学迷彩という方法もあるが、それでは実際に触られた場合に存在を知られてしまうので、地中や水中に潜らないのであればその場にある材料で周りを覆うというのが一番確実な偽装とされている。

 さて、偽装の最中、エイトムの仕事はほとんどないといったが、唯一重要な仕事がある。それは虫取り。掃除機のような採集装置を持って色々な虫を集める。それを何に使うかと言うと、地上探査用マイクロロボットのモデルにするのだ。体長5mm以上で、幾らでもいるような虫が望ましい。蚊の様に胴体が細いものでなく、てんとうむしの様に胴体が太っているほうが作りやすい。あと、空を飛ぶ虫の方が情報収集がやりやすい。そして、集まった虫の中から真っ黒で小さな甲虫を選んでマイクロロボットのサンプルとする。

サンプルを装置に入れると、あとは同型のマイクロロボットを大量生産してくれる。とりあえず1000ヶ(匹?)のマイクロロボットを作ると、運搬用の箱に入れ、最寄の街に運ぶ。といっても、いきなり人間がそこに行くと、問題が生ずることがあるので、近くの街道まで行ってそこに置き、あとはプログラムされた通りに箱が街の傍まで移動する。要するに車の付いている箱が街道を通って街の傍まで走っていくのだ。空を飛んだほうが、道路の状況に左右されずに到達できるため到達の確実性は高いものの、どうしても大掛かりな装置になってしまうので、自走式の箱を用いることが多い。街についたらマイクロロボットが箱から放たれ、辺りの情報を送信する。さすがにマイクロロボットの電波出力は弱いので、一旦運搬用の箱が受信し、それから大出力で着陸船に信号を送る。つまり、マイクロロボット運搬装置は、運搬と信号中継の2つの役割を持っているのだ。


 2日後、1000匹のマイクロロボットを作り終えた装置から、それらを運搬用の箱に移し変え、それを最寄の街道まで運んでいく。時刻は昼の少し前。地球換算で10時くらいである。


「今までの観測結果からすると、この街道を人が通るのは朝か夕刻。だからこの時間は人通りがほとんどないはず。だいたい、人通り自体それほど多いわけではないから、人がいれば隠れればいい。

着陸船から街道までは2kmくらい。この箱は20kgはあるからちょっとしんどいけど、背負っていけば何とかなる。途中に崖があるわけでもないので、運動と思って運ぶことにする。

着陸船と街道の間は木々が鬱蒼としているので、街道から着陸船のところは直接見えない。頻繁に街道と着陸船との間を行き来するならもう少し楽に移動できる方法を考えたほうがいいのかもしれないが、そうすると着陸船が発見される可能性が高まるので、まあ移動は面倒だけど足で動くのが一番確実」


と、誰が聞くわけでもないのに話しながら街道に向かっている。だいたい、ずっと一人だと寂しくなるので、こうして独り言でもしたくなるものだ。


「で、街道に到着。舗装もなにもされていない土の道なので、途中で運搬箱が止まってしまわないか心配だけど、モーターの力を信じて、行けーー!!」


と、運搬箱のスイッチを入れる。運搬箱も着陸船同様偽装してあって、動き出した運搬箱を客観的に見ると、石が走っているようで不気味である。時速3km程度で動く能力があるので、7~8時間後には街に到着するはずである。それからすぐにマイクロロボットを展開するので、辿り着ければ今日中に鮮明な映像や音声が入ってくるはずだ。


と、考えながら元来た道を着陸船に戻るエイトムであった。


 さて、ここで着陸船の中の様子を説明しておこう。着陸船自体の居住空間は2m×3m程度の居住空間+シャワー、トイレである。シャワー、トイレは合わせて半畳といったところで、やたらと狭い。その他着陸船としては動力系、機構系、制御系、格納室、汚水処理などの環境設備などがある。着陸船自体は直径6m、高さ3mほどの円筒形で、下1/3は全て動力系、残った上2/3を居住空間1/4、機構、制御系、環境設備など合わせて1/4強、格納室半分弱で分けている。居住部分が少ないが、旅客用でないのでそうなってしまうのは仕方ないであろう。

着陸船内で寝るときは収納可能なベッドを引き出してそこに寝る。それほど広くはないが、一人の仮住まいと割り切れば何とか耐えられる。母船はもっと大きいが、着陸船はぎりぎり人間がそこに閉じこもっても1ヶ月は耐えられる程度の空間しかない。このため、偽装をする際に資材を使って着陸船に接続してもう少し大き目の小屋をつくってあり、約10畳ほどの部屋と、合わせて6畳程度の水周り、入浴設備、台所を備えてある。台所は備えてはいるものの簡易食品で済ますしかない生活では温める程度しか出番がない。

いずれにせよ、着陸船外にある程度の広さの居住空間を備え、着陸船にくらべ、かなり快適になっている。普段生活するときはこちらで、着陸船側は物置、兼仕事場だ。まあ、それほどものが多いわけではないので、着陸船側もそれなりに整然としているのだが。だいたい、未知の星で買い物が出来るはずもなく、もともと着陸船にあった物資が部屋の中にある全てであるから、雑然とするほど荷物が増えるはずもないのである。部屋の中での唯一の贅沢はベッド。トリプルベッドほどもあるベッドを組み立てて優雅に寝ている。他に何もすることがないので、新たな惑星の探査のときにベッドくらいは贅沢しようという人は結構多いのだ。風呂を贅沢にする人もいるが、エイトムの用意した風呂は2人入れる程度の普通サイズである。巨大なベッドを置いても、他に何もものがないので部屋の中は閑散としている。だが、買い物が出来ない程度の環境は恵まれているほうである。この星のように外に出られる場合は以上のようにある程度快適な居住空間が確保できるが、大気がとても生存に適さないような星の場合は、地表に降りても着陸船内に閉じこもるしかないということもよくあり、その場合は着陸船で耐え続けるしかないのである。

動力は核融合炉。かなり小型で、それほど大出力ではないものの、一人が生活したり、ショートワープをするには十分である。それほど大出力でないといっても、核分裂を利用した原子力発電所よりは1000倍以上の出力があるのだが。


 昼下がり。予定通りマイクロロボット運搬箱は街に着いたようで、早速街の様子が入ってくる。


「えーーっと……ファンタジー?仮装大会?」


エイトムがそう怪訝に思うのも当然である。そこには、エイトムと同じような人間も映っているが、明らかに動物を擬人化したような人間(?)、エルフやドワーフと言うのがいるのならこういう格好か?というような耳の長い人間や妙に体つきの頑丈な人種、その他地球人類とは趣の異なる姿の人間っぽい姿の生命体が多数映っていたのだ。どうやら仮装大会ではない証拠として、身長が1m程度の小人がいることや飛んでいる人間(?)がいることである。小人は人間の子供ではそうは仮装できないだろうという姿であるし、空を飛ぶというのは仮装しただけではありえないから、どうやらそういう生物っぽい。


「観光客がたくさんやってきそう……」


ファンタジーな世界であれば、夢見る人々が多いから、こんなリアルなファンタジーの世界があったら、来たいと言う人が多くいるに違いない。


「魔法もあったりして」


と、笑うエイトムである。

服は極簡単な縫製で革や布を合わせただけの単純なものがほとんど。地球で産業革命が起こるより、更に数百年前、古代から中世と呼ばれていた時代の服ににているのだろうか?現地人と接触する場合は、服も違和感ないものにしなくてはならないので、こういう情報も重要である。

現地人の姿が人間と全く異なる時には特殊なマスクを作る必要があるが、ここではエイトム同様人間型の生物もすくなくないので、というよりたくさんいるので、服さえ違和感なければエイトムも街に溶け込むことができるであろう。

それから、大事なのが言語。マイクロロボットが送ってくる膨大な言語情報と、そのときの周りの状況などを全部コンピュータにつっこむと、言語パターンを解析して初級の会話ができる情報を調べ上げてくれる。だいたいその辺で話している人々の会話にそんな複雑なものは無いのだから、初級レベルしか調べられないのは必然である。解析と言うからには、既存の知識で判断しているので、実は全く違いました!ということがありえないでもないが、今のところうまく機能している。

その後はひたすらエイトムの勉強の時間。


《私はエイトムです》

『わたすぃ…は…エイトム…でしゅ……』

《これはなんですか?》

『こるぇわ……なんでしゅくゎ?』

《宿屋はどこですか?》

『やどぅやわ…どこでしゅくゎ?』


ディスプレイにエイトムの理解できる言葉が表示され、それに従った音声が流れてくる。単語の練習もあるが、今は会話練習だ。単語練習の場合、同等の言葉がない場合には写真が表示されることもある。その地特有の動物、植物、料理などは翻訳が不可能だから、写真で表示されたほうが分かりやすい。現地人が聞いたら噴飯物の会話練習であろうが、エイトムは必死、かつ大真面目である。なんといっても一人で現地人とコンタクトを取らなくてはならないので、言葉は重要である。

言葉が不自由な理由は、昔薬を研究する師匠と一緒に山に住んでいたが、師匠も亡くなりそれから何年も山で一人で暮らしていたため、話すことがなく、結果言葉が不自由になったということにする予定である。


《あなたは狼人ですね》

『あぬぁたわ…おうくゎみぶぃと…でしゅね』


それから、言語を解析して分かったことは、どうやら獣と人間の合体のような姿の人間(?)は獣人といって、それほど稀な存在でもないらしいということ。知性を持つ生物間で生殖活動が行われるのは、普通のことらしい。


《パンはいくらですか?》

『ぱん…わ…いくら…でしゅくゎ?』


通貨があること、及びその様子も何となく分かってきた。お金の単位はルブルというらしい。補助通貨にコペカというのもあるようだ。数字は10進数。地球と同じで分かりやすい。数字が12進数とか7進数とか言われた日には、当分10進換算しないとならず、訳が分からなくなりそうだが、どうもどの人種も指は10本なので、広く10進数が使われているように見える。

調査範囲では貨幣しか使われていない。銅、銀などの鉱物を利用しているようなので、基本的に物の価値と貨幣価値が同等となっているのであろう。銀貨が1ルブル、銅貨が1コペカで、1ルブル=100コペカのようである。観測結果では銀本位制のようでもある。どうも、それより高い価値の硬貨もあるようだが、街中で見ることは全くなかった。

料理も色々あるが、さすがにこれは見ただけでは味は不明。あまり高級なものはないようで、煮込んだもの、いためたもの、焼いたもの、そういったものが料理としてあるようだ。パンっぽいもの(翻訳機の表示がパンになっているのはこれ)もあるので、小麦があるのだろう。

ちなみに、10進数は徹底していて、基本的に何でも10進数。一日は10テンポ(テンポは時間の単位)、1テンポは100ミヌトと言っているようである。従って、正午は5テンポ。一日が23.5時間なので、1テンポ2時間強、1ミヌト1.4分となるようだ。これについては、換算が面倒になりそう。とはいうものの、規定はあるものの正確な時計がないので、生活で使われるのはほとんどテンポまで。地球時間の午後一時だと5テンポよりちょっとあと、その程度の時間の精度でしかないので、あまり気にする必要はないのかもしれない。だが、これでは分かりづらいので原則地球換算の値を表記することとする。

年はさすがに公転周期で決まっていて、観測結果から一年381日としているに違いない。衛星が多数あるため、衛星の動きを基準とした月というものはないが、一年を10等分して節というものを準備しているようだ。今は花の節らしい。地球で言うと4月くらいか?

長さもメートル法とは全く異なる基準を用いているようだが、これは詳細不明。重さについてもよく分からない。

このように、異世界情報を急速に覚えていくエイトムなのであった。

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