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第4話 ジェニファーちゃんは友達です

ジジイが言うには、私は勇者として国を救うために召喚された、…らしい。


とはいっても、夜中こっそり確かめてみたところ特殊能力は目覚めたりしてないし、力も変わってない。

与えられた部屋の中の無駄に古めかしく豪華な鏡を覗いてみても、変わらず平々凡々な私が映っているだけだ。

少し茶けた肩にかかるぐらいの黒髪、それより少し暗い色の瞳。ひょろりと伸びた背に、体つきは良く言えばスレンダーで、悪く言うと肉付きの悪い貧相なもの。

女だとばれなかったのも、私はこちらの人には十五ぐらいの少年に見えるらしい。その事実に気づいたときは思わず遠い目をしてしまった。

もちろんプロ(って言うのもおかしな気がするけど)は違うのだろうが、変装の素人の男が女や少女に化けようとすればどう頑張っても違和感がでる。

けれども、女が少年に化けようとするのはそれほど難しくない。特に私は顔にすら女らしい曲線が少ないのと骨が太いのでなおさらだったろう。

しかし疑われなかった一番大きな理由は、こちらの人は男も女もみんな髪を伸ばしているからだ。

ジジイがこぼした情報によれば、これぐらいの短い髪は下級階級の少年ぐらいしか居ないらしい。

助かったと安心すべきか、だれも私の性別に違和感を持たないことを嘆げくべきか……すごく微妙な気分である。



……話を戻そう、そう勇者についてだ。

ともかく私に新たな能力はついていない。

ためしに腹筋をしても15回目で軽く息が切れ、腕立てなんて20回でダウンした。そして翌日の筋肉痛。小学生の方がまだ元気だろう。

ジジイがホントのことを言ってるかどうか、とっても怪しいところだ。

もしかしたら特殊能力が命の危機とかで目覚めたりするのかもしれないが、そんな危ない賭けはしたくない。

ジジイも『具体的になにから救えばいいのか?』や『いつ帰れるのか?』いう質問をはぐらかすばかり。それがますます疑いに拍車をかけた。あのヒゲ絶対何か隠してる。


しっかし情報収集しようにも、こんな制限のある生活じゃ碌に城の中も探索できないのが現実だ。

どうしようかと頭を悩ませる私に、チャンスは意外とすぐ訪れた。


「へっ?他国に会談に行くんですか?!」

「おや、うれしそうですな」

「いやいや悲しいです、とっても。さびしくて泣いちゃいそうっ」

「…ほお」

「お土産たのしみにしてますね」

「そうですな、『お爺ちゃん気をつけて行ってきてね(はぁと)』と言えたなら考えますぞ」

「『おじいちゃんそれだからいまだに未婚なんだよ(はぁと)』。食べ物がいいです」

「ほっほほ、こいつぅ」

「きゃあ、おじいさんったらこ・わ・いー」


ちなみに最後のは裏声です。それにしてもこの爺、ノリノリである。

孫と祖父のように和やかな会話をくりひろげ、軽く攻撃魔法を放つジジイから私は全力で逃走した。


……それにしても、他国へ行くことをわざわざ私に教えたのは牽制だろうか。

どちらにせよ守るつもりは欠片もないが、表面だけは良い子にしておこう。



迎えた当日、ワクワクしながら探索の最終準備をする。

奴は魔法がつかえるようなので、私の部屋を覗かれてる場合を考え、ジェニファーちゃん(服とシーツで作った等身大人形もどき)を部屋のベットに寝かせておいた。

もしかしたら私自身をジジイが見張ってる可能性もあるし、ジジイが会談をしている時間を使って情報収集にあたる。

ちなみにその情報はいい人そうな侍女さんの前で「自分、よく考えたらお爺さんしか喋ってくれる人いないんですよね。今ごろあの人なにをしてるんだろう…」と、項垂れるとあっさり教えてもらえた。一緒に糖蜜パイもくれたので一人で食べた。おいしかった。なにか大切なものを失った気がした。二度とこの手は使いたくない。私自身へのダメージがでかすぎる。


最悪、部屋から出たらばれる、とかいう魔法だった場合は諦めよう。

部屋のトイレが詰まったとか言えばなんとかなるはず。…女としてはどうかと思うが。


残り短い時間を有効に使うべく、私は部屋の外へと足を踏みだした。


**


「で、今度の勇者さまはどうなんだよ?」


お城の中をスパイ映画さながらコソコソ歩いてた時、ふと耳をかすめた言葉に私は硬直した。

『勇者』って私だよね?

どこか引っ掛かる違和感を抱えたまま、そおっと扉に近づく。

扉の僅かな隙間から中を覗くと、チビとゴツイ短髪の二人組の男がカードゲームに興じていた。


「ありゃあ駄目だね。聞けば少女に夜枷をさせてるようじゃないか。ただの変態野郎だ」


違うわボケ。誰が変態野郎だ。

男たちの間に割り込みたくなる衝動をぐっと押さえる。

なんつー言い掛かりだ。

少女達の手配もあのクソジジイが勝手にしたし、そもそも大事な部分が無いのにどうやって突っ込めと。だいたい夜枷とかって、そういうことを考え付く奴が一番変態だとおもうの。つまりジジイな。

あいつの無駄にフサフサな髪の毛バーコード型にハゲればいいのに。

私がジジイの毛根を呪う間にも、男たちは勝手なことをいいつつ盛り上がっている。


「へえ、ガキみたいな顔をしてやるじゃないか今度のは」

「とんだエロガキさ」



鼻で笑いながら短髪がチビの手持ち札からカードを抜き取る。

抜き取ったカードを見てに眉を寄せる短髪を眺めながら、私はアレ?とまた違和感に引っ掛かりを覚えた。


あいつ今なんて言った?

……『ガキ』じゃない、早すぎる。『エロガキ』でもない、ここはここでイラッときたがもう少し後。『今度のは』、そうだここだ。

『今度の』?

つまり以前にも私以外の勇者がいたってことか?いや、もしかしたら今もいるのかもしれない。

ゾクリとした痺れが全身を襲う。もちろん寒気的な意味で。

……その人たちはどうなったんだろう。


「にしても初代様がいなくなってから苦労するぜ」

「まったくだ。どこにいったのやら」

「…そういやさ、噂で聞いたんだがとんでもない事になってるらしい」

「へえ、なんだよ気になるな」

「聞いて驚くなよ、……じつは今、あの方は反乱軍に行るんだと」

「反乱軍っ…?!どういう事だ!」

「お、おい!声がでけえ」


手からカードを落とし大声を上げた短髪を、チビの男が慌てて制する。


「…わりぃ。それからどうなったんだ?」

「どうもこうも、風の噂だよ。ただこの噂アタリだと思うぜ」

「……それがほんとなら、ずいぶん大層なことになってるな」

「ああ、王がここんところ必死で勇者を召還してたのは、たぶんその所為だろ」

「それじゃあ今回の勇者様が初代様にそこそこ似ていて助かったなあ」

「とはいっても色と性別だけじゃねぇか」

「それだけ合ってれば上等さ」


短髪が肩をすくめた。チビがとったカードを見てうげっと嫌そうな顔をした。


「まあこの前のは大変だったしな」

「なにせ出てきたのが髪色も違う女だろ?」

「王様はご乱心」

「ありゃあ可哀相だったな」

「今回は男でほんとよかったよ」

「手癖はちぃと悪いが」


ハハハと談笑する男たちを見て私の背筋に冷たい汗が流れた。


詳しいことはよくわからないが、これだけはわかる。悠長なことを言っている場合じゃない。

今すぐにでもこの城から脱出しなければ。

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