表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/11

第3話 夢

夢を見た。

いや、もっと正確に言うなら私は夢を見ている。


そこはたぶん夜で、室内をオレンジ色の小さな蝋燭の灯りが照らしていた。


―――人がいた。


豪華な部屋の真ん中で、ベットに座り込む黒髪の男が手に持った剣を眺めている。

白銀に輝く刃は男の漆黒の瞳を映し出す。

男のまるで旅にでも出るような質素な恰好は、贅をつくした部屋の中で一つだけ異物のように馴染まない。

どれくらい経ったろう、目を伏せると彼は鞘に剣を仕舞い、灯りを手元に手繰り寄せる。


蝋燭に息を吹きかけると、それはほんのわずかに勢いを増したあと煙をくゆらせ消えた。

立ち上がった彼の髪が、小さく揺れ闇に溶け込んだ。


男は堂々とした足取りで、部屋の隅の鏡の前に立つ。

それは古めかしい宝石のはめ込まれた鏡。不思議なことにその鏡には何も映っていない。

男は鏡の中に三つ、四つほど何かを放り込む。

私は あ、と反射的に目を瞑ったが、予想していた硬い物同士がぶつかる音はなく。

そこには何も映さない鏡だけが変わらず佇んでいる。


最後に皮の手帳をふところから取り出し、男は窓辺へ歩みだす。背にわずかばかりの荷を背負って。

彼は出窓の脇に手帳を置き……そして力強く窓を開いた。


男の歩みを留めるように風は室内へ勢いよく吹き込む。

しかし部屋に背を向ける男の背に迷いはない。

星さえごく僅かな、新月の空がカーテンの隙間から覗いていた。


吹き荒れる風が、窓辺に置かれた手帳にぶつかり、容赦なく手帳のページをめくる。

穏やかな風景の広がる前方を男は睨み付けた。まるでその奥に何かがあるように。

最後に手帳を持ち上げると、彼は鏡へそれを投げ込む。

皮の表紙に金字の書かれたそれは、音も立てずに鏡の中に消えていく。


次に思わず目を瞑るような強い風が吹いたとき、そこにはもう誰もいなかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ