売れっ子小説家の仕事部屋
花肌椎略歴
1965年東京生まれ。早稲田大学在学中に「頭から湯気」で作家デビュー。
岡山県の農家に七年間滞在して書いた「こえだめなんてクソくらえ」が100万部突破。
代表作に「イチかバチか木琴か」「はにかんだ鼻かんだ神保町」「俺、マジ、やべぇ」
などがある。
都内の某マンションの一室にて。売れっ子作家の、花肌椎と、編集者の富山がいる。
富山「先生!次号の読み切り小説の広告を掲載しないといけないんですけど」
花肌「今、手いっぱいだ、執筆が間に合わないよ」
富山「せめて、あらすじだけでも」
花肌「とにかく、なんでもいいから俺が書きそうな感じの予告篇書いといてくれよ」
富山「実は先生、そんなこともあろうかと、書いてみたのがあるんです」
花肌「本当か!そりゃあ助かる!どんな広告だ?」
富山「はい、先生の最新作はですね、
大冒険スペクタクル!地中海で大騒ぎ!三泊四日!おなじみの眼鏡二人が大暴れ!
とまぁこんな予告篇で」
花肌「まてまてまて!どんな話なんだよ!」
富山「とってもワクワクします!」
花肌「漠然すぎるよ!誰なんだよ、おなじみの眼鏡二人って!」
富山「なんかオトボケな感じの」
花肌「分からないよ!大体、この二人は一体何者なんだよ?」
富山「きっと、泥棒ですね」
花肌「泥棒?えー、泥棒の出てくる話、書いたことないよ~ていうか、まてまて、泥棒です!ってなんでそうはっきり」
富山「なんか、シリーズ第2弾の予告にそれらしきヒントが」
花肌「えっ!?なに、第2弾って?」
富山「ええ、再来月号の読み切りの分です」
花肌「ええーもう決めたの!」
富山「はい、編集部はもう、先生の手をわずらわせないように、早め早めに」
花肌「早すぎるよ、えっ、ちなみにどんな予告篇なの?」
富山「はい、神出鬼没!お前さん!噂をそこまで鵜呑みにかい!?ドジな二人が今夜も万引きでドロン!シリーズ最大のピンチ!」
花肌「全然意味分からないよ!泥棒っていうから、もっとルパンみたいなのかと思ってたら、
万引きかよ!」
富山「庶民的で!」
花肌「やかましいよ!しかもシリーズ2作目にしてもう最大のピンチなのかよ!」
富山「いやいや、ピンチはまだまだこれからですよ」
花肌「おいっ、まさか第3弾も決まってるんじゃあ」
富山「ええ、というか、もう第5弾まで」
花肌「なに!ほんとかよ!予告篇、あとどうなってんだよ」
富山「はい、第3弾が、たこ焼き屋のおっさんが容疑者に!バスタオルでぐるぐる巻き!おい!誰かつまようじを知らねぇか!?またまた女々しい二人が祇園祭で探偵きどり!シリーズ最高傑作!
続きまして、第4弾が、灼熱のコンクリートジャングルで「なんだよてめぇこの野郎!」
不安定な二人が今度はハワイでカーチェイス!
りんごとみかんがはじけ飛ぶ!シリーズ最高のアクション!
そして、第5弾が、完全に包囲されたビルで下着ドロが逃げ回る!狂ったニューヨークシティ24時!
さぁまかせろ!わりかし出来る二人が爆弾の解除につぐ解除!
シリーズ最悪の絶体絶命!割れた眼鏡の破片がどしゃぶりのニューヨーク!
以上です!先生の代表作になるんじゃないかと!さあ書いて下さい!」
花肌「もう、お腹いっぱいだよ!」
終