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クラムチャウダー

 

 ミリアを迎えてからというもの、朝の目覚めがいい。

 何かこう、すっきりと目覚める。

 思うに、心地よい疲労と倦怠感の中で眠りに入るのがよいのではないだろうか。

 ぐっすりと深く眠れ、さわやかにリフレッシュした感じだ。


 ロクサーヌとセリー二人のときには疲れを感じることはなかった。

 ミリアも加わって三人になってからは、ほどよい疲れと充足感とがある。

 余裕がなくなったわけではない。

 いざとなれば色魔もある。

 自分の精力にちょっとビックリだ。


 最後にミリアとキスをして、起床した。

 ぎこちなさの残る堅い口づけだが、これはこれでいいだろう。

 ロクサーヌのように濃厚に舌を絡ませてくるキスもいいし、セリーのようにゆっくりと舌を動かして優しく愛撫してくるようなキスもいい。

 三人三様の味を楽しめる。


 着替えて、ハルバーの十二階層へ飛んだ。


「昨日一日で少しは慣れただろう。今日はミリアも少し前に出て戦え。決して無理はしなくていい。ゆっくり戦えるようになればいいから」


 銅の槍を持たせたまま、ミリアを前に出す。

 海女もLv10まで成長した。

 二桁になったのだ。いろいろ試してみてもいいだろう。


 前線に三人が並ぶ。

 真ん中にロクサーヌ。セリーとミリアが左と右に陣取った。

 その布陣で魔物を迎え撃つ。


 ハルバーの十二階層は風魔法四発でどの魔物も倒せる。

 あまり長期の戦闘にはならない。

 ミリアが攻撃を受けても連続で攻撃される前に倒せるだろう。


 少し狩をして様子を見た。

 大丈夫そうか。

 ミリアはなかなか攻撃を受けなかった。


 結局今日最初に魔物の攻撃を喰らったのは俺だ。

 デュランダルで戦っているときにグラスビーの体当たりを浴びてしまった。

 デュランダルを出すときは乱戦になって戦闘時間も延びるから仕方がない。

 と言い訳をしておこう。


 ミリアにかけているメッキは常時必要だ。

 錬金術師ははずせない。

 他のスキルとのかねあいもあるので、代わりに戦士を封印している。

 グラスビーをラッシュなしで通常攻撃四発で倒すから時間がかかる。


 グラスビーはいつのまにかデュランダルを四振りで倒せるようになった。

 ミリアの海女のレベルが大きく上がったからだろう。


 最初は通常攻撃五回かかっていたものが、時折四回で倒せるようになり、数え間違いかと思っているうちに、安定して四発で倒せるようになった。

 強くなったのは一足飛びにではない。

 何段階にも分けて強くなった。

 とすれば、関係がありそうなのはミリアの海女のレベルだ。


 海女の効果には腕力小上昇がある。

 ジョブが持っている効果はパーティーメンバーに対して効くらしい。

 海女の腕力小上昇がパーティーメンバーの俺に間違いなく効いており、上昇値はレベル依存になっている、と考えるのが妥当だろう。

 他のパーティーメンバーのレベルが高ければ、一人だけレベルの低い者が混じっていても戦えるということだな。


 確定実験も行った。

 ちょっと怖いが、ミリアのジョブを村人Lv5に切り替える。

 ミリアには見学するように伝え、グラスビーを通常攻撃五回で屠った。

 やはり通常攻撃四回で倒せるのはミリアの海女のおかげだ。


 ちなみに、デュランダルで戦うときは、俺とロクサーヌが前。

 ミリアは後ろから槍で突かせている。

 セリーは魔物の数によって前だったり後ろだったり。


 比較すればミリアより俺の方が前で戦っている時間が長い。

 俺が先に魔物の攻撃を喰らってしまうのもしょうがないといえるだろう。

 一番長く常に最前線で戦っている人のことは考えないとして。


 そのロクサーヌも今朝は攻撃をもらった。

 真ん中にいると攻撃される機会も増えるようだ。

 つまり、デュランダルを出したとき真ん中に位置することがある俺が攻撃を浴びるのは仕方がない。


 仕方ない。

 仕方ないことなのだ。

 攻撃を受けることを……強いられているんだ。


 ニートアントからはまたしても攻撃を喰らってしまった。

 お返しにニートアントにデュランダルを浴びせ、屠る。

 グラスビーとミノやニートアントが一緒に出てきたときには、ニートアントから倒すようにしている。

 ニートアントには毒攻撃があるし、通常攻撃二回で倒せる。


 だからニートアントを相手にしているときはまだ魔物の数が多い。

 多いので攻撃を喰らってもしょうがない。

 一対一ならそうそう攻撃を受けることはない。

 と思いたい。


 ニートアントが倒れるのを視界に入れながら、グラスビーに襲いかかった。

 倒れたアリが煙となって消える。


 あ。

 煙が消えると、毒針ではなく白いカードが残った。

 モンスターカードだ。



モンスターカード アリ



 アリのモンスターカードか。

 横目で確認して、グラスビー二匹を屠る。

 グラスビーの攻撃は受けていない。

 二匹ともロクサーヌへの対応に忙しく、俺には見向きもしなかっただけだが。


 セリーからモンスターカードを受け取った。


「セリー、アリのモンスターカードは何のスキルになる?」

「防具につけると毒防御か毒耐性、武器につけると毒付与か毒牙のスキルになります」

「毒関連か。コボルトのモンスターカードは今ウサギのモンスターカードと一緒に使う分を待っている状況だからきついな。単独で使うか」

「防具につければいいと思います。毒防御でもそれなりに毒状態に陥ることを防げるようです。もっとよい装備品が手に入ればある程度の値段で転売できるでしょう」


 防具につけるのか。

 魔物の攻撃を受けることは俺が一番多いので、防具につけるなら俺の装備品につけるのがいいだろう。

 毒状態になったことがあるのも俺だけだ。


「防具か。革の帽子にでもつけるか。あるいは硬革のグローブでも購入するべきか」

「転売することを考えるなら、なるべくよい装備品につけた方が差益が大きくなると思います」


 そうなのか。

 というか、そういうことは防水の皮ミトンを作る前に教えてほしかった。

 皮のミトンじゃなくて、もっといい装備品に融合したのに。


 多分、あのときのセリーには成功させる自信がなかったのだろう。

 よい装備品につけた方がいいのは必ず成功する場合だ。

 失敗する可能性があるなら自分で作り直せる装備品か安い装備品がいい。


 よい装備品につけろと提案してくるのは自信がついたからか。

 一度も失敗することなく連続で成功させているしな。

 自信がついたことを悪いとはいえないだろう。


 狩を終えて、クーラタルの冒険者ギルドに出る。

 防具屋が開くにはまだ早い。

 魚屋に行った。

 ミリアも横にぴったりとついてくる。


 何かの魚を興味深そうににらんでいた。

 あの魚は悪くない品なんだろうか。

 とはいえ、それ以上は何もしないし、何も言わない。


 明日の夕食を魚にすると宣言してある。

 それで十分なんだろう。

 この手は使えるな。


「ハマグリを売ってるか」

「はい。もちろんです」

「とりあえず二つくれ」


 探索者のじいさんに話して、ハマグリを受け取った。

 貝殻はない。

 剥き身になっている。

 鑑定してみると、蛤と出た。


 受け取ってアイテムボックスに入れる。

 確かにドロップアイテムのようだ。

 アイテムボックスにちゃんと入る。


 しかしちっちゃいな。

 いや、小さいというか大きくないというか。


「こちらになります」

「もう二つもらえるか」

「はい」


 別にシジミほど小さいわけではない。

 ハマグリとしてはこんなものかもしれない。

 所詮はハマグリだ。

 この大きさでは一人一個はないとしょうがないだろう。


「いつもありがとうございます。蛤四個で、八百九十六ナールにサービスさせていただきます」


 商人に金を払った。

 結構高い。

 野菜や卵が数ナールしかしないことを考えれば、かなりの高額だ。


 ドロップアイテムだからしょうがないのだろうが。

 コボルトソルトより安かったら誰も売らん。


 同じ食材アイテムでも肉や魚は切り分ければ何人分にもなる。

 一個一人前も怪しい蛤は相当に高価といっていいだろう。

 確かに休日専用にもなるはずだ。


「よろしいのですか」


 魚屋から離れると、ロクサーヌが訊いてきた。


「今朝はこれで俺がスープを作るから、他にもう一品か二品くらい頼む」

「はい。かしこまりました」


 ロクサーヌが何かミリアに話すと、ミリアが目を開いて俺を見てくる。

 どうもロクサーヌの翻訳は安心できん。

 パンと野菜を買って、家に帰った。


 まずは蛤をワインを入れた水で軽く煮る。

 殻があれば口を開くまでだが、剥き身では煮る時間が分からない。

 長く煮すぎると硬くなるだろうから、ざっと煮るに留める。


 野菜とハムを細かく切って炒め、ホワイトルーも作った。

 蛤を四つ切にして煮汁に戻し、炒めたハム野菜とホワイトルーを投入する。

 沸騰する直前まで温めれば、クラムチャウダーの出来上がりだ。

 火から降ろして鍋ごと食卓に運ぶ。


「××××××××××」

「ミリアは蛤を食べるのは初めてだそうです」


 それで俺のことを見てきたのか。

 これで俺だけが蛤をよそったら大顰蹙だな。


「スープのお代わりはあるけど、蛤はこれだけな」


 そんな意地悪はせず、蛤を四個ずつ入れてスープをよそった。

 スープが失敗していても顰蹙だ。

 あまり失敗する要素はないので、大丈夫だと思うが。

 スープからはなんともいえないいい香りが立ちのぼっている。


 確認のためにいち早く手をつけた。

 おおっ。

 旨い。

 大丈夫だ。


 スープに蛤の濃い出汁が出ている。

 蛤そのものも、適度な歯ごたえがあって濃厚な味がした。


 これは旨い。

 さすがに高いだけのことはある。

 なんでこんなに旨いんだ?


 しかもこの香りはなんだ。

 おのれ、この雄山の味覚と嗅覚を試そうというのか。


「ご主人様、これは美味しいです」

「今まで食べた蛤の中で一番かもしれません」

「おいしい、です」


 三人にも好評のようだ。

 女将を呼ばすにすんだ。


 これからもときどき作りたいが、贅沢に慣れるのはよくない。

 困ったものである。


 朝食後、一人で防具屋に出向いた。

 硬革のグローブと硬革の帽子を購入する。

 硬革のカチューシャというのもあるが、これはどちらかといえば女性向けの装備品だろう。

 ロクサーヌもいないのですぐに選んだ。


 家に帰って硬革の帽子とアリのモンスターカードをセリーに渡す。

 セリーは一つ深呼吸をした後、こともなげにモンスターカード融合を行った。



防毒の硬革帽子 頭装備

スキル 毒防御 空き



「おお。できたな」

「やりましたね、セリー」

「すごい、です」


 ミリアが身を乗り出してくる。

 そういえばミリアが来てからモンスターカード融合を行ったのは初めてか。


「さすがはセリーだ」

「××××××××××」

「このパーティーの人たちはみんなすごいと言っています。ミリアもがんばるそうです」


 ミリアが心服したような表情でセリーのことを見た。

 感心してがんばってくれるなら、それでいいだろう。

 俺たちのパーティーの中で本当にすごいのはロクサーヌだけだけどな。



加賀道夫 男 17歳

探索者Lv37 英雄Lv34 魔法使いLv36 錬金術師Lv31 僧侶Lv35

装備 ひもろぎのロッド 防毒の硬革帽子 革の鎧 硬革のグローブ 革の靴 身代わりのミサンガ


ロクサーヌ ♀ 16歳

獣戦士Lv26

装備 シミター 鉄の盾 革の帽子 硬革のジャケット 革のグローブ 革の靴 身代わりのミサンガ


セリー ♀ 16歳

鍛冶師Lv24

装備 鋼鉄の槍 革の帽子 チェインメイル 防水の皮ミトン 革の靴


ミリア ♀ 15歳

海女Lv12

装備 銅の槍 革の帽子 チェインメイル 革のグローブ 革の靴



 装備を整えて、ハルバーの十二階層に入る。

 毒防御の効果をテストするわけにはいかないので、普通に狩を行った。

 毒を喰らうまでわざと攻撃を受けるとか。

 嫌すぎる。


 もっとも、パーティーメンバーの誰かが毒を受けたときに口移しで毒消し丸を飲ませる準備は万端だ。

 いつでもバッチこいである。

 そういうときに限って、俺以外は誰も攻撃を喰らったりしないわけだが。


 ミリアが攻撃を受けたのは、翌朝のことだった。

 グラスビー四匹を相手にしているときに、攻撃を受けた。

 四発めのブリーズストームでグラスビーをまとめて屠る。

 それから手当てを四回かけ、メッキをした。


「大丈夫か」

「はい」


 ある程度の衝撃は受けたようだが、顔面蒼白というほどではない。

 大丈夫そうか。

 海女もLv15まで成長している。


「ではそろそろいいだろう。木の盾を渡すから、ロクサーヌと並んで一番前で戦え。最初はあまり無理をすることはない。ロクサーヌも頼むな」

「かしこまりました」


 ロクサーヌが翻訳する。

 うなずいたミリアに木の盾を渡し、銅の槍を受け取った。

 ミリアが腰からダガーを抜く。


 次にロクサーヌが案内したところには、グラスビー三匹とミノ一匹がいた。


「ミリア、魔物が来るまでは一歩下がれ」


 一発めのブリーズストームを放ち、ミリアを下がらせる。


「来ます」


 ロクサーヌの声がして、グラスビーが針を飛ばしてきた。

 遠距離攻撃はロクサーヌに受けさせるのがいい。

 ロクサーヌが盾で遠距離攻撃を受けた後に、二発めの風魔法を撃つ。

 さらに三発めのブリーズストームを放つと、セリーとミリアが前に出た。


 遠距離攻撃を放ったグラスビーは遅れている。

 ロクサーヌとセリーの前にグラスビーが、ミリアの前にミノが来た。

 これでちょうど一対一だ。

 セリーがグラスビーに槍を突き込む。


 ロクサーヌがシミターで斬りつけ、ミリアもダガーを振った。

 ミノの突進をミリアが木の盾でいなす。

 四発めのブリーズストームを撃った。

 ハチが落ち、牛が倒れる。


 ミリアもちゃんと前線で戦えるようだ。

 後は慣れていけば大丈夫だろう。

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