お楽しみ
昔、母に連れられて赤坂か広尾あたりのブティックに行ったことがある。
あまりに昔のことで場所もよく覚えていないが、何かの建物の二階か三階にある瀟洒なお店だった。
店から高速道路を通る車を見ていたことを覚えている。
よく晴れた日で、太陽の光を反射して車がキラキラと光っていた。
なんで車なんか見ていたのかというと、他にやることがなかったからだ。
母親の買い物につき合わされて男の子が楽しむことは難しい。
多分、俺はぐずったかぶうたれたかしたのではないだろうか。
母がブティックに俺を連れ回したのはあの一回きりだ。
母は一度で懲りたに違いない。
買い物を楽しまない俺に。
あの日、母は何を期待して俺を連れ出したのか。
子どもと買い物に行くのを楽しみにしていたのではないだろうか。
死んだ母にもう親孝行はできない。
俺はどうすべきだったのだろう。
母と一緒に買い物を楽しむべきだっただろうか。
女性が買い物を楽しむと知ったのはあれからずっと後のことだ。
そして身をもってそれを知る機会は、今の今までなかった。
好きな外套を買うと伝えられたロクサーヌは、嬉々として品を選んでいる。
店の外套を全部ひっくり返す勢いだ。
というか、文字通り全部ひっくり返すだろう。
平台の外套を左から一着一着取り出して、こと細かに見ていっていた。
広げて全体を確認し、自分の腕に当てて似合うかどうか考え、襟やすそなどの細かい部分もチェックする。
例外は存在しない。
その赤茶けたのは見るからに駄目だろう、という外套まできっちりと広げて見定めていた。
あ、たたんでしまった。
やっぱ駄目だったんだ。
あれは一目見て色が変だもんなあ。
いちいち確認するなよと。
言いたいのはやまやまだが、もちろん言わない。
店番の商人も何も言わなかった。
下手に声をかけられないようだ。
ロクサーヌの場合、「どういったものをお探しですか」とか声をかけても、「全部見せて」と言われそうだ。
お。何か言うか。
「こちらなどお勧めでございますが」
「……うーん」
撃沈した。
商人が見せた外套はロクサーヌのお気に召さなかったらしい。
まあ店員が勧めるのは少しでも高くて売れ残っているやつだろうしな。
ロクサーヌ偉い。
外套を買う権利をやろう。
商人はすごすごと他の客のところへ移動する。
好きなのを買っていいと俺が言ったのを聞いただろうし、一着売れれば御の字だろう。
俺はロクサーヌが全部の外套をひっくり返すのをただ見つめた。
母に対してどんな失態を犯したのか、記憶もないし自覚もしていないが、過ちは繰り返さない。
文句は言わずに見守る。
美人だし可愛いので見るだけでも暇はつぶせる。
その成果か、最後の方は「これどうですか」と聞いてくるようになった。
うん。ファッションセンスのない俺にその質問はタブーだ。
適当にやりすごす文言を必死に考え、「それもいいね」などとお茶を濁す。
俺に見せる品は気に入ったものだろうから、否定する言葉は駄目だ。
それくらいは分かる。
というか、それくらいしか分からん。
店に置いてある外套を全部確認した後、ロクサーヌは候補を二つにまで絞ったようだ。
途中から左腕に抱えた外套と、最後の方に見つけた外套。
どちらも似たようなエンジ系の色だ。
「どっちがいいと思いますか」
二つをさんざん見比べた後、ロクサーヌが振り返った。
両方の腕に外套を乗せている。
俺に聞いてくるということは多分、ロクサーヌの中では六:四以上くらいの割合で答えが出ているのだろう。
そっちを選んでやれば終了だ。
ここで失敗したらすべてが水の泡である。
安い方で、などという発言が地雷なのは分かる。
安い方でいいと思うけどね。
左腕に乗っている外套は、途中からずっと持っていた。
気に入ったのでキープしていたのだろう。
それがヒントだとすれば、こっちが正解だ。
高速道路を見ていた俺はヒントに気がつけなかった。
今日はそうではない。
「こっちの方がまったりとしてシックでたおやかな落ち着きのあるいい色合いだな」
自信を持って、左腕の外套を薦める。
理由は適当。
後付けアリアリだ。
というか、まったりとした色合いってなんだ?
自分で言っててよく分からん。
甘からず、辛からず、美味からず。
「そうですか? こっちの方は、縫製なんかはいいんですが、色はちょっと重めかなと思っていました」
「う、うむ」
ありゃ。
色は向こうの方がよかったらしい。
「でもそうですね。言われてみれば、落ち着きのあるいい色かもしれません。分かりました。こっちでよろしいですか」
「分かった。他に、何か必要なものはあるか」
なんとか納得してくれたらしい。
ロクサーヌから外套を受け取る。
「いえ。あの、これ以上は」
「せっかくだし、何か一着買っておくか?」
「ですが……」
「遠慮することはない。今日は記念となる特別な日だしな」
顔を近づけて小声でささやいた。
ロクサーヌを買った記念の日。
というか、二着買わないと三割引が効かないのだよ。
「あの……それでは、肌着を買ってもよろしいですか」
「分かった」
「はい。ありがとうございます」
うなずいてみせると、ロクサーヌが衣類を選び始めた。
この間俺が買ったようなかぼちゃパンツだ。
男女で別ということはないのだろう。
何の色気もないし。
もっとも、色気がないのは現代人の目で見るからかもしれない。
ロクサーヌは、外套と違って広げたりせずに選んでいる。
肌着だけに、恥ずかしい感覚があるのではないだろうか。
「一枚で大丈夫か」
広げなかったので比較的早く選び終えたロクサーヌに問う。
奴隷商館から持ってきたケースにはメイド服しか入っていなかった。
彼女自身の持ち物というのはほとんどないのだろう。
「え。あ、あの、でも」
「もう一枚買っとけ。三つでいくらになる」
有無をいわさず申し付け、店番の商人を呼んだ。
「あ、ありがとうございます」
「おありがとうございます。三点で、そうですね、クロークを気に入っていただけたようですし、二千八百五十六ナールとさせていただきましょう」
ロクサーヌが取り出した同じ色のかぼちゃパンツを含め、三点買う。
金を支払うと、外套をロクサーヌに持たせ、肌着は後ろからロクサーヌのリュックサックに入れた。
「宿へ帰るか」
「はい」
日はすでに傾きかけている。
たいした買い物でもないのに結構長くかかってしまった。
これからは買い物に時間がかかることを覚悟した方がいいだろう。
「よう。お帰り」
ベイル亭に戻り、鍵を受け取る。
「いったん部屋に行って荷物を置いてくる。夕食はその後で。食事が終わったら、お湯を二つとカンテラを頼む」
「お湯二つにカンテラ一つだな。三十五ナールでいい」
お金を払うと階段を五階まで上り、部屋に帰った。
部屋に入ると、ロクサーヌは外套をだいじそうにクローゼットにしまう。
「ありがとうございました」
「いいからいいから」
俺としては、買い物の間に逃げなかったことだけでもありがたい。
リュックサックのものをしまうロクサーヌに近づき、頭をなでた。
うん。嫌がられてはいないみたいだ。
さっきまではあった怯えもない。
「まだ日もあるので手入れをいたします。装備品を出してください」
なでられたままロクサーヌが告げる。
「今日買ったばっかりだし、いいんじゃないかな」
「いけません」
ロクサーヌが突如俺をにらんだ。
目が力強い。
「そ、そうだよな、やっぱり」
手入れにはうるさいようだ。
ロクサーヌがオリーブオイルの小ビンを取り出した。
「あ、あの……」
ロクサーヌはこっちを振り向いて、ためらいがちにうつむく。
また突然、雰囲気が元に戻った。
「何?」
「肌着を買っていただいたので、今私が着ているのを手入れ用のボロ布にしたいと思います」
「うん。いいんじゃない」
「……ご主人様はどうぞ食事にいかれてください」
「食事が先、というわけにもいかないか」
食事を済ますころには日も暮れるだろう。
手入れは食事の前にやっておいてもらった方がいい。
カンテラの油は一時間分しかない。
できれば灯りの下でしっぽりと楽しみたい。
「ですので」
「大丈夫。下で一緒に食べよう」
「よろしいのですか? 宿屋の食堂は高いと思います。私だけならどこか安いところで食べてきますが」
遠慮しているのか、一緒に食事するのは嫌なのか。
「もう食事つきの値段で払ったしな。一緒の食事は嫌かもしれないが」
「嫌だなんて、とんでもありません」
「じゃ、そういうことで」
銅の剣を机に置く。
「……で、では、あの、失礼いたします」
ロクサーヌがいきなりズボンを脱ぎ始めた。
何ごとか、と思ったが、そうか。
これから手入れをする、手入れをするのに着ている肌着を使う、となれば、脱ぐしかないわな。
「あー、悪い。気にするな」
軽く手を振った。
俺が気にしろよ、という感じではあるが。
眼福なので見させてもらう。
だぼだぼのチュニックがあるので、実際にはよく見えなかった。
お尻は見えたし可愛かったけど、一番見たい部分は。
かぶりつきで見るわけにもいかないし。
あ、尻尾だ。尻尾。
ロクサーヌは横を向いてしまったので、尻尾はよく見えた。
髪と同じ栗毛色のふさふさの毛。
やっぱり尻尾があるのか。
後で触らしてもらおう。
ロクサーヌは素早く着替えをすませる。
本当にあっという間だった。
もっと見たかったがしょうがない。文句を言うわけにもいかない。
イスに座ると、ロクサーヌの表情が真剣なものに変わる。
怖いくらいの面持ちで、装備品を手入れし始めた。
布に少量の油をつけ、磨いていく。
「こうして手入れをしておけば、いつまでも新品の状態です」
「手入れしないと性能が落ちるとか、あるのか」
「使う者が気分よく使えなければ、性能は発揮できません」
なるほど。気持ちの問題か。
今日のところはデュランダルは手入れしてもらわなくていいだろう。
手入れの後、食堂に下りた。一緒に夕食を取る。
二人がけのテーブルの対面ではなく床にロクサーヌが座ろうとしたこと以外は、何ごともなく無事に食べ終えた。
食べ終えるころには日も沈んだ。
再び部屋に戻ると、宿屋の男がお湯と火のついたカンテラを持ってくる。
男はそれを置くとすぐに出て行った。
「背中を拭いてくれるか」
二人っきりになったので、すぐに行動を開始する。
冷静に。かつ大胆に。
下手に恥ずかしがると、かえってロクサーヌも緊張するだろう。
まず俺が裸になる。
トランクスも脱ぎ捨てた。
人間、生まれてきたときは誰しも裸なのだ。
カンテラを机の上に載せ、たらいを部屋の中ほどに引き寄せる。
「はい。ご主人様」
裸になった俺の背中を、後ろからロクサーヌが手ぬぐいで拭いた。
ここまでのところは成功だ。
手ぬぐいをお湯に浸して絞り、前は自分で拭く。
「これって、使えるか」
買ってきたコイチの実の小袋を取り出し、ロクサーヌに見せた。
後ろを振り向いたので、前にぶら下がっているモノまでがロクサーヌの方を向く。
いや、問題ない、はずだ。多分。
「人の体を洗うことはあまりないと思います」
ロクサーヌにも見えたはずだが、大げさには反応しなかった。
それはそれで寂しい気もする。
我が息子は元気もそれなりだ。
さっきトイレに行ったとき暴発してしまったので。
「うーん。そうなのか」
「たいていはお湯で体を拭いて終わりです」
「お風呂……に入ることは」
大丈夫だ。翻訳された。
「王侯貴族なら」
結構大変なようだ。
俺の場合、魔法を使えば水も火も用意できる。風呂はそのうちなんとかなるのではないだろうか。
「これはどうやって使う?」
「房楊枝は水場の近くでないと」
続いてシュクレの枝を見せる。
口をすすぐのに水がいるのだろう。
これは明日でいいか。
体を拭き終え、かぼちゃパンツをはいた。
「じゃあ、次はロクサーヌね」
なるだけ平静に、こともなげに告げる。
なんでもないことのように。ただ順番が回ってきただけのように。
「……は、はい」
「うん」
ロクサーヌが小さな声を絞り出した。
チュニックに手をかける。
さすがに見ているわけにもいかないので、たらいの方を向き、手ぬぐいを絞りなおした。
「あ、あの……私は狼人族なので毛深いかもしれません。ごめんなさい」
「へえ。そうなの」
かけられたロクサーヌの言葉に振り返る。
ちょうどロクサーヌがチュニックを脱いだところだった。
カンテラの弱い光の中、ロクサーヌの身体が幻想的に浮かぶ。
服と腕の隙間からは暴力的なおっぱいが。
あ、あれは暴力です。
飛び道具です。反則です。
ロクサーヌの前面に実り豊かな最終兵器がこぼれ出ていた。
大きい。
そして柔らかそう。
見るものすべてを幸福にする最終兵器がそこにあった。
「実は背中が」
ロクサーヌは俺の視線に胸を隠し、身体をよじって背中を向ける。
隠すことはないのに。残念。
ロクサーヌの背中を見ると、背中全体を髪の毛が覆って……。
あれ? 髪じゃなくて、毛なのか。
手ぬぐいを持って近づくと、背中から毛が生えていた。
毛が腰まであるが、身体から離れていない。
頭から伸ばしているわけではなかった。
髪を伸ばしているのではなく、頭から背中、腰まで、ずうっと毛が生えている。
腰まであるベリーショート。
一言でいえば、そういうヘアースタイルだ。
ロクサーヌがズボンと肌着も脱ぐ。
毛の生えている部分の終端から、尻尾が伸びていた。
毛があるのは尻尾までで、お尻には生えていない。
お尻はすべすべとしておいしそうだ。
俺は手ぬぐいを持たない方の右手でロクサーヌの背中の毛をなでた。
毛はしとやかで柔らかく、俺の手を優しく受け止める。
「ふさふさして柔らかいし、俺は好きだ」
「あ、ありがとうございます」
手ぬぐいで背中の毛を拭いた。
身体のラインに沿って、上から下になでおろす。
「うむ。何の問題もない」
「あ、あの。ご主人様に拭いていただくわけには」
「大丈夫。この方が早いし」
背中から覗き込むと、胸に巨大な山脈も見えた。
聖なる頂、二つの霊峰が。
ロクサーヌも手ぬぐいで自分の身体を拭いているので、常時隠すことはできない。
拝みたい。
いや、拝ませていただきます。
南無、ロクサーヌ。
ビバ、ロクサーヌ。
拝むだけでは物足りない。
あがめなければ。
抱きつくように後ろから前へ手を回した。
隆起を確かめつつ、聖なるふくらみを清める。
「あっ……」
「何?」
「い、いえ……」
何か言おうとしたロクサーヌを気合で黙らせた。
神々しいコニーデは弾力のある手ごたえを返してくる。
素晴らしい。
確かな重量感を享受しつつ、丁寧に磨き上げた。
一箇所の漏れもないように、丘陵のすべてを優しく拭き清める。
ゆっくりと、注意深く、丹念に。
柔らかい。
手ぬぐい越しとはいえ、重みを味わい、弾力を堪能する。
大きい。
手のひらに収まりきらないボリュームである。
「最高だ」
「……」
明らかにロクサーヌが自分で拭くよりも時間がかかっているが、この際たいした問題ではない。
なにしろあまりに雄大なのだ。
人が踏み入ったら出てこられないほどに。
たっぷりと時間をかけて拭き清め、俺はようやくロクサーヌを解放した。
「えっと。尻尾って拭いても大丈夫?」
「はい。あ、いえ、自分でやります」
「いいからいいから」
思わず時間を喰ってしまったことをごまかすため、次に移行する。
ロクサーヌの尾を拭いた。
尻尾はふさふさとした毛の塊だ。
芯のようなものはなく、毛だけが集まっている。筆先みたいな感じか。
イヌミミのふわふわ感もたまらないが、完全に毛だけという尻尾のふさふさ感もいい。
優しく俺の腕に絡まり、かつさらさらと流れるような感触がある。
「あ、ありがとうございます」
「尻尾って、動かせるのか」
「難しいですね。こういう風にしないと」
ロクサーヌはそう言って腰を揺すった。
尻尾が左右に振れる。
いや。尻尾を動かしているのではない。明らかに腰を動かしている。
ロクサーヌの腰が情熱的に揺れた。
見方によってはセクシー。
見方によらなくてもセクシーか。
いいものを見させてもらった。
「うーん。なるほど」
「あと、嬉しいことがあると、無意識のうちにピクピクと動きます」
「そっか。じゃあ、ロクサーヌの尻尾がなるべく動くようにしないとね」
ロクサーヌの耳元にささやきかける。
耳元といっても普通の耳元ではなく頭の横だ。
「は、はい……。あの、よろしくお願いします」
あ。尻尾がちょっと揺れた。
その後、可愛らしいお尻とたおやかな足も拭く。
役得だ。
「さてと。じゃあちょっと実験してみるか」
「実験、ですか?」
「うん。ベッドの上でうずくまって、頭をこっちに出して」
ロクサーヌに指示した。
頭を洗えるかどうかのテストだ。
前からやってみたかった。
鏡がないので分からないが、俺の頭は今、ベットベトのギットギトじゃないだろうか。
なにしろ十日以上頭を洗っていない。
濡れタオルで拭くだけでは限界があるだろう。
この世界では普通かもしれないが、どうにも気持ちが悪い。
たらいを持ち上げ、イスの上に置いた。
ベッドと比べるとやはりたらいの方がちょっと高い。あおむけでは難しいだろう。
「これでよろしいですか」
「たらいに頭をつけるくらいの勢いで」
「はい」
ロクサーヌが頭をたらいの上に伸ばす。
お湯をすくってロクサーヌの頭にかけた。
指ですきながら、髪をもみ洗う。
何度も繰り返しお湯をかけた。
耳にもお湯をかけ、丁寧に洗う。
「じゃあ、頭起こして」
一通り全部洗った後、濡れていない手ぬぐいを頭に乗せた。
手ぬぐいで押さえながら、頭を起こさせる。
やや乱暴にワシャワシャと髪をすき、水分をぬぐい取った。
「ありがとうございます」
「うむ。二人なら頭洗えそうだな」
「ご主人様の頭もお洗いしましょうか?」
「そうだな。頼む」
手ぬぐいをロクサーヌの肩に置き、場所を入れ替わる。
「たらいを交換しましょうか」
「いや、このままでいい。もう一個の方は、靴下とか洗うから」
たらいに頭を突っ込んで、洗ってもらった。
ロクサーヌの細い指で髪をもみ洗いしてもらう。
いい気分だ。
お湯につけただけだが、さっぱりした。
手ぬぐいで拭いてもらう。
目を開けると、そこにパラダイスが。
かぼちゃパンツをはいただけのロクサーヌが、正面から俺の髪を拭いてくれていた。
両手は俺の頭の上に伸ばしている。
すると無防備な胸元が。が。が。
「それでは洗濯しますね」
視線が分かったのかどうか、ロクサーヌはすぐに離れてしまった。
残念だ。
いや。
ロクサーヌは裸のままたらいの横にしゃがんで靴下を洗っている。
するとロクサーヌの動きにあわせて胸も揺れるわけで。
パ、パラダイス。
「コイチの実は使わないのか」
「あれは外套やお気に入りの上着などを洗うためのものです。毎日洗うものに使っていたら、すぐに布が駄目になってしまいます」
「そうなのか」
たらいをイスから下ろしながら訊いた。
せっかく買ったのに結構使えないんじゃ。
「これは、なんかすごいです」
靴下の次にトランクスを洗ったロクサーヌはゴムに引っかかっている。
手で引っ張って、反応を楽しんでいた。
「こっちにはない?」
「見たことないです」
「そうなのか」
ゴムは珍しいようだ。
かぼちゃパンツが紐で結ぶようになっているのも当然か。
ロクサーヌが洗い物をクローゼットに干す。
いよいよ全部の作業が終了か。
「えっと。この服を着ますね」
ロクサーヌがメイド服を取り出した。
「あー。いや、着なくていい」
「えっ、でも」
「商館で何か言われたか?」
「これを着ると喜ぶだろうと」
奴隷商人はロクサーヌに何を吹き込んでくれたのだろうか。
確かに喜ぶ。喜ぶが。
「それを着るのはまたでいい」
「はい……」
ロクサーヌが小さくうなずき、メイド服をクローゼットに戻す。
そして、無言でベッドに近づいてきた。
近づいたロクサーヌの手をつかみ、ベッドに引きずり込む。
ベッドに倒れ込んだロクサーヌに抱きついた。
ロクサーヌはされるがままになっている。
両手でがっちりとホールドし、豊かなふくらみを胸板で押し潰した。
顔を近づけると、ロクサーヌは意を決したように瞳を閉じる。
その唇に口づけした。
柔らかな唇に触れる。
しばらく、そのまま俺の口を押しつけた。
もっと強引にいきたいが、我慢する。
最初から舌を入れるのは駄目だとか聞いたことがあるような気がする。
「これから、夜寝る前と朝起きたときはキスをして挨拶すること」
「……はい」
「じゃもう一回」
一度放し、またすぐにむさぼりつく。
今度はちょっと強引にいってみた。
舌も忍び込ませる。
ロクサーヌは素直に受け入れてくれるようだ。
舌と舌を絡ませた。
ロクサーヌの舌を味わいながら、かぼちゃパンツを脱ぐ。
それからロクサーヌのパンツに手をかけた。