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前回のあらすじ:暗殺者を増やすならセリーがいいということになった

「私ですか?」


 暗殺者を増やすなら自分だと言われたセリーが驚いている。

 さては鍛冶師として必要だから安泰だと思っていたな。

 まあそうなんだけど。


「増やすならという話だ」


 実際のところ、どうなんだろう。

 鍛冶師をある程度育てたら、戦闘中は暗殺者にするということも可能だろうか。

 例えばベスタの場合なんかは、さっきも考えたようにロクサーヌが回避できない攻撃をしてくる魔物が出てきたらベスタを当てるという選択肢を取る可能性があるから、竜騎士であることに意味はある。


 鍛冶師はどうなんだろう。

 別に戦闘中に必須だったり選択肢が増えたりするようなジョブではないと思う。

 戦闘面だけに限れば、変える手もありだろう。

 腕力が上がるから物理攻撃力にはプラスになっているだろうが、暗殺者にすれば知力が上がるわけだし。


 問題は、鍛冶師もレベルを上げる必要はあるだろう、ということか。

 セリーは、経験を積みながら順番に作っていかなければ、みたいに言っているが、レベルを上げないと作れない装備品とかあるんじゃないだろうか。

 あるいは、検証していないしできてもいないが、レベルが上がったほうが空きのスキルスロットを持った装備品ができやすいとか。


 やはり鍛冶師のレベルも上げておきたい。

 そのためには鍛冶師で戦闘をこなしていかなければいけない。

 鍛冶師も暗殺者もとなると運用が大変ではあるよな。


 獲得経験値二十倍があればなんとかなるだろうか。

 やはりセリーを暗殺者にするのは難しいだろうか。

 戦闘が苦しくなって暗殺者を増やさなければどうにもならん、という状況ならいろいろ違うだろうが、そうでもないからな。


「ううむ。私が暗殺者ですか」

「いや、まあ、今すぐということではない」

「鍛冶師の経験を積みたいところですが、やぶさかではありません」


 まあセリーは獲得経験値二十倍のことは知らないしな。

 それでも、こちらの意をくんで暗殺者になってもいいと言ってくれるのだから、感謝すべきだろう。


「ありがとう。まあ今はそこまでの事態ではない」

「はい」

「ロクサーヌ、そろそろボス戦に行ってもいいだろう」

「分かりました。そこですね」


 そこにあるのかよ。

 ロクサーヌに続いて扉をくぐり抜けると、待機部屋だった。

 ボス戦を想定して、予めボス部屋の近くで狩をしていたようだ。

 つまり準備は万端だったと。


 ボス部屋へ行くどこかのパーティーとか、いなかったんだろうか。

 ロクサーヌがうまくさけていたのか。

 早朝だし階層も上のほうまで来たから、こんなものなのか。

 すぐにボス部屋への扉も開いたので、本当に人がいなかったのかもしれない。


 現れたのは牛型の魔物。

 ミノのボスのハチノスのボスのセンマイだ。

 ミノやハチノスに比べたら小さい。

 ベスタとは比ぶべくもない。


 もちろん、小さいが強い、多分。

 ボスだから強い、はず。

 牛若丸みたいな牛だ。

 どこの馬の骨なのか。


 二匹のボスはロクサーヌとベスタが相手をする。

 センマイの攻撃を華麗に回避するトレロ・マタドール、ロクサーヌ。

 ベスタに突撃するセンマイは、風車に突撃したドン・キホーテ。


「やった、です」

「やりました」


 身のほど知らずにも圧倒的強者に立ち向かおうとしたセンマイは、あっさりと一敗地にまみれた。

 ロクサーヌには攻撃が当たらないし、ベスタには攻撃が通用しないし。

 どう見ても無理だもん。

 後ろにいる弱い俺やルティナを狙おうとしないところが、魔物の限界だ。


 魔物だけに知恵が回りかねるのか。

 後衛を積極的に攻撃するような魔物はいないのか。

 弱い相手から狙ってくるような頭のいい魔物もいるかもしれない。

 魔法使いを専門で襲うような魔物がいたら、かなり厄介そうだよな。


 センマイは、もちろんそういう敵ではなかった。

 愚直にロクサーヌとベスタを狙い続ける限り、我がほうの勝利は動かない。

 ボス戦だけでいえば今のところ問題はなさそうだよな。

 センマイ戦を突破して、四十階層へ抜ける。


「四十階層の魔物はラピッドラビットですね」

「あれかあ」


 速いから嫌なんだよ。

 大丈夫だろうか。

 別に戦えないということはないだろうが。


「あまり数の多いところはなさそうですね。三十九階層へ戻ってボス戦をするのがよいと思います」

「分かった」


 ロクサーヌはロクサーヌでもはや魔物の数の多いところにしか連れて行こうとしない。

 まあ、三十三階層下のボスで戦ったことがあるから試しで戦う必要はないんだけど。

 お試しで一匹、とかいう状況では確かにない。

 そうして、再びボス戦を行い、四十階層へと出てくる。


「すぐ近くにいますね。ちょっと数は足りませんが。近いからいいでしょう」


 ロクサーヌが連れて行ったところに、ラピッドラビット一匹とハチノスが二匹いた。

 いや、十分だろ。

 別に物足りなくはない。

 数は足りないくらいがちょうどいい。


 まあ、試しに戦うラピッドラビットの数が少ないという意味だったのだろうが。

 きっとそうだろう。

 そういう意味で言ったに違いない。

 俺のロクサーヌがこんなに好戦的なわけがない。


 しかしラピッドラビットだって別に一匹で十分だよな。

 ボスとしては戦っているから、一匹とお試しで戦う意味はほぼないとはいえ。

 最初は一匹からでいい。

 足りないことなんて全然ない。

 危うくだまされるところだった。


 魔物の群れに雷魔法をくれてやると、そのラピッドラビットが脱落する。

 あ。一匹では駄目だった、かもしれない。

 そういうことか。

 そこまで考えていたかどうかは不明だが。


 ハチノス二匹が麻痺しているラピッドラビットをかわして前に出る。

 つまり、ラピッドラビットのほうが前にいた。

 ラピッドラビットは、攻撃時のスピードだけでなく巡航速度も速いようだ。

 厄介な魔物だ。


 やはり一匹からで正解だな。

 次の連続雷魔法で、ハチノス二匹も脱落した。

 ロクサーヌたちが麻痺しているハチノスに襲いかかる。


「やった、です」


 もはやこうなれば一方的だ。

 ミリアが二匹を立て続けに血祭りにあげた。

 血祭りというか、血も流れないようにしたわけだが。

 石化なので。


 こちら側の二匹が脱落したので、四人がラピッドラビットのほうへと走る。

 前から、ミリア、ベスタ、セリー、ロクサーヌの順だ。


「うむ」


 誰が走ってるかとかどういう順番かとかは、実はちゃんと布陣になっている。

 まず、ロクサーヌが遅れているのは、麻痺が解けたときに備えてロクサーヌが魔物の正面にいたから。

 ロクサーヌは常に防御の中心だ。


 後衛陣はロクサーヌの陰に隠れる。

 が、本当に真後ろに隠れると、突然ロクサーヌが避けた敵の魔法が飛んできたりするので危ない。

 素人にはお薦めできない。


 ルティナが走っていないのは、倒した後でこちら側に残ったドロップアイテムを収集するため、というのが大きい。

 向こうに残っているのが一匹だけだから、ということもある。

 向こうまで走って行って、一匹を全員で囲って、ルティナは杖で叩いて、ドロップアイテムを取るためだけに戻ってくる、というのは、ちょっとアレだよな。

 走り損だ。


 ただし、次にどこへ行くかはロクサーヌ次第。

 逆方向に戻る可能性もある。

 反対方向から魔物が襲ってくる可能性もないとはいえない。

 そうはいっても、ルティナ一人残るのは十分に合理的だろう。


 魔物を後ろから叩いていたミリアやベスタのほうが前にいるのは、当然だ。

 そして、後衛陣たるセリーもロクサーヌの前を走っている。

 魔物の後ろに回って、はさまれたらことだが、今回はミリアもベスタもいる。

 向こうには一匹しかいないのだし、より魔物に近いほうを陣取るのが正しいだろう。


 つまり、現在のフォーメーションは状況に応じた素晴らしい布陣になっている。

 それを各人がそれぞれしっかりと判断して形作っている。

 たいしたもんだ。

 我々のパーティーもここまで来たか。


 ロクサーヌによって鍛えられたからかもしれないが。

 でもそこまで細かい指示はなかったよなあ。

 俺に対してだけ指示していない可能性もあるが、あのロクサーヌが戦闘中にそんなことを気にするとは思えない。

 そういう、変な信頼感はある。


 四人が麻痺しているラピッドラビットを取り囲み、袋叩きにする。

 もちろん、正面はいざというときのためにロクサーヌだ。

 セリーとミリアとベスタは横や背後からべたべたと叩く。

 ベスタに至っては両側から叩き下ろしている。


 両手剣を左右両側、斜め上に振り上げ、はさみ込むように叩きつけた。

 モンゴリアンチョップみたいだ。

 しかもリズムよく繰り返す。

 何度も何度も。


「やった、です」


 しかし一足早く、ミリアが石化した。

 やはり暗殺者のほうが上なのか。

 ベスタの攻撃もバンバン入っていたが、それほどでもなかったらしい。

 いや。単純に同程度だったのか。


 ベスタは両刀でバンバン斬りつけていたが、石化のスキルがあるのは一本だ。

 もう片方はただの鋼鉄の剣である。

 それだと結局攻撃回数はミリアと変わらない。

 攻撃回数が変わらなければ、暗殺者が勝つ。


 なるほど。

 当然のことだ。

 やはりベスタが二刀流を使うなら両方に石化のスキルをつける必要があるか。

 剣二本なら攻撃回数が倍になって、暗殺者とタメを張れる。


 もっとも、次の石化武器をセリーに持たせた場合でも、ベスタとセリーが一回ずつ石化攻撃をすれば、ベスタが二刀流で石化攻撃をするのとトータルの攻撃回数は変わらない。

 先に石化したい魔物は限定されるから、ベスタ一人に重点を置いたほうがいいのか。

 あるいは、前衛のベスタはロクサーヌに次いで二番めの魔物の正面をケアせざるをえないから、遊撃的に動けるセリーに石化攻撃を持たせるほうがいいのか。

 全体攻撃魔法に備える必要があるセリーは自由に動きにくい場合も当然ある。


 雷魔法を使うので、魔物が麻痺で動けなくなることは多い。

 動けなくなればしゃにむに攻撃できる。

 そうなった場合にはベスタの石化二刀流は脅威だ。


 ベスタの二刀流が火を吹くぜ。

 俺でなく。

 まあ、まだ一本だけだから吹かないが。

 やはりここはベスタを二刀流にすべきか。


「悩ましいところだ」


 石化した魔物全部を煙にしたところで、つぶやく。


「ラピッドラビットくらいは楽勝です。悩ましい相手ではないと思いますが」


 ロクサーヌよ、そういうことじゃない。

 というか、今回のラピッドラビットはすぐに麻痺してそのまま石化されたから、楽勝かどうかはまだ分からないだろう。


「いや、そうではなくてな。もう一枚手に入る石化のスキルを誰の武器につければよいかが悩ましい。いっそのこと、もう何枚かサンゴのモンスターカードが残るまでコーラスコーラルを狩り続けるというのも手ではないか。おお。我ながら素晴らしいアイデア」


 グッドアイデアだ。

 モンスターカードを狩り取ることが、ではない。

 コーラスコーラルのいる三十八階層にこもるという意味で。


 モンスターカードが出るまで何日かかるか。

 何日では済まないかもしれない。

 その間、ずっと三十八階層に留まっていられる。


 さあやろう。

 すぐやろう。

 今やろう。


「カードが出るまでボス戦ですか」

「そんなになかなか残らないと思いますけど」


 ロクサーヌが受け入れの可能性を示唆しているのに、何故セリーが批判的なのか。

 残るまでこもるんだよ。

 むしろなかなか残らないことがいいまである。


「簡単には残らないかもしれないが、そこはしょうがない」

「普通に買えばいいのでは」

「いや。依頼すると面倒なんだ」


 高値でルークに頼むと一枚だけというわけにいかないわけで。

 こっちは百パーセント成功するわけで。

 それをルークに知られてはいけないわけで。

 解除するときがめんどくさいわけで。


「それならむしろ、四十四階層まで行ったほうがよくないですか?」

「え。なぜ?」


 セリーまでがイケイケなのか。


「四十五階層からは一層厳しくなると思います。それを考えれば、四十四階層でしばらく経験を積むのがいいのではないでしょうか。今の戦力でも四十四階層までならさほど問題なくいけるでしょう。そのときに、どこか四十四階層のボスがコーラスコーラルの迷宮を探して入ればいいと思います」


 おおっ。さすがセリー。

 合理的な判断。

 四十四階層で戦い続けて経験アップ。

 サンゴのモンスターカードでさらに戦力増強と。

『異世界迷宮でハーレムを』11巻が12/28日に発売されます。

よろしくお願いします。

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更新を心配している皆様におかれましては、小説版では順調に更新されているのでご安心ください。買えば続きを読めます。
 メモを取りながら読み進めてきた者です。  今の加賀道夫のジョブは、遊び人→冒険者→魔道士→勇者→神官→博徒、になります。この中で一番レベルの高い遊び人(最低でもLv48)がボーナスポイントを支えて…
魔結晶でのお金稼ぎはどうなってるんだろう。 最新小説では44階のボス周回してるから、かなり溜まってるはずなんですけど、
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