追加
「サンゴのモンスターカードをつけるのは、ベスタの武器でいいだろうか?」
提案してみた。
「はい。そうですね。ベスタに持たせるのがいいでしょう」
ロクサーヌは普通に賛成か。
やはり自分は最後まで激闘を楽しみたいと。
石化であっさり終わってしまうのはもったいないと。
そういうことだな。
「前衛に立つ人の武器につけるべきでしょうね。ロクサーヌさんがいいのなら、ベスタにするのがいいでしょう」
「がんばる、です」
「がんばりたいと思います」
「諸侯会議のためにも前衛の人の武器につけるのがいいでしょう」
ほかの四人にも異論はないようか。
まあ一番関係ありそうなロクサーヌがよしとした時点で、異論は出にくい。
「では、その方向で」
方向性だけ決めて、再びボス戦を繰り返した。
鳴けないサンゴを狩りまくる。
対処方法が確立しているので簡単に行える。
鳴かないサンゴはただのサンゴだ。
鳴くだけでたいしたもんだが。
まあ、サンゴなのに動き回った挙句こちらに敵意を持って攻撃してくるのだから、たいがいではあるよな。
その上、歌うとか。
歌わせないくらいは許してほしいところだ。
三十三階層ほど上で戦うことになっても。
散々に狩り倒して、本日の戦いを終えた。
「あ。メモが残っていますね」
買い物をして冒険者ギルドからワープで帰ってくると、すぐにロクサーヌが走り出す。
メモが残っていたようだ。
うちにメモを残していくような相手はルークしかいない。
ルークからメモということは俺たちの装備が充実する可能性があるわけで、ロクサーヌが目ざとく見つけるのはそのせいか。
コボルトか芋虫のモンスターカードであることがほとんどだけどな。
もっとも、全員に行き渡ったのに身代わりのミサンガをせっせと作っているのは、必要なときに帝国解放会ロッジの売店で売るためだ。
だからいずれは装備の充実につながる。
目の色を変えるのも間違っていない。
「で。なんだって?」
「サンゴのモンスターカードを落札したと書かれています」
コボルトや芋虫ではなかったが、サンゴかあ。
それは微妙だな。
「……そうか」
「一気に二刀流にできますね」
思わず微妙な表情をしてしまった俺と違い、セリーが美点を挙げた。
おお。
そういう見方もあるか。
「なるほど。どうせベスタ用に作るわけだからな。二本いっぺんに作れるか」
「いえ。一本ずつ作っていくべきかと」
セリーにたしなめられてしまった。
それはそうか。
最初にベスタの剣一本に石化をつけて、試してみればいい。
それで二刀流のほうがいいとなったらもう一本に石化のスキルをつければいいし、一本でも十分なら、別の人の武器に石化のスキルをつけることもできる。
「なるほど」
二回めのなるほどだ。
さすがはセリー。
これを奇貨としてベスタともう一人に石化のスキルがついた武器を渡すと、よいことがあるかもしれない。
「なんにせよ朗報ですね」
ロクサーヌもお喜びだ。
目ざとく見つけた甲斐があったというもの。
「そうだな。一本ずつ作っていけばいいなら、今一本作って、あとは明日でいいだろう。ルークのところには無理に取りに行かなくて明日でいい。そういう利点もある。さすがはセリーだ」
「ありがとうございます」
「よし。ベスタ、激情の鋼鉄剣を出してくれ」
「え?」
セリーが驚いている。
満足だ。
「分かりました」
ベスタが激情の鋼鉄剣をテーブルに置いた。
俺も、サンゴのモンスターカードとコボルトのモンスターカードをテーブルに置く。
「……二本あるのだからスキルのついてないほうの剣から試すというのは、駄目ですね」
「分かっているじゃないか」
「もう一つの石化を違う人の武器につける可能性があるならば、強力な剣からスキルをつけていくのが当然ですか」
本当に分かっていた。
完璧なまでにセリーが言ったとおりの理屈だ。
最初にベスタの片方の剣に石化のスキルをつけ、それで様子を見る。
やはり二刀流にするのがよいとなったら、もう一本の剣に石化をつければいいし、一本でも十分に運用できそうなら、ほかの人の武器に回す。
だから当然、いいほうの剣に石化をつけるべき。
「そういうことだな」
剣とモンスターカードをセリーのほうへ押しやった。
「分かりました」
セリーがおずおずと受け取る。
そして、大きくひと息はいてから、融合を開始した。
セリーの手元が光る。
光が収まっても剣があった。
「おお。成功だ。さすがセリーだ」
「よ、よかったです」
すでにスキルがついている武器への追加でのスキル付与はやはり緊張したのだろう。
空きスキルに余裕があるのだから、失敗することはない。
少なくとも、俺はそう信じているが。
「これでさらなる戦力強化が果たされたな。ルークのほうは、明日でもいいだろう」
攻撃力二倍に加えて石化添加のついた激情の鋼鉄剣をベスタに渡す。
結構な武器になっただろう。
デュランダルは別にして。
デュランダルには石化がついてないのが惜しいよな。
石化はデュランダルに合わないような気もするが。
じゃあどういうのが合うんだよ、と問われると困るが、石化は禍々しい感じがする。
呪いの剣とかに付与されてそうな。
まあHP吸収とMP吸収も呪いといえば呪いか。
新事実、デュランダルは闇の剣だった。
それなら石化があってもいい。
やっぱりないのは惜しい。
まあ、あったらあったで、使わないのか、という話になる。
それも面倒か。
ボーナスポイント的にも。
やはりデュランダルに石化は合わないだろう。
石化のついた激情の鋼鉄剣の効果は、翌日試すことになる。
「新たな装備が入ったので、ボス戦に行く前にしばらく検証したい」
「分かりました」
クーラタルの三十九階層で何度か戦った。
「やった、です」
ただし、ミリアとベスタの石化合戦、にはならず、ミリアが圧倒している。
暗殺者の状態異常確率アップが有効だってはっきり分かんだね。
ベスタが石化するのはミリアの半分以下だ。
ベスタも暗殺者にすべきか。
しかしそうすると二刀流が使えなくなる。
また、あまり石化に頼りすぎるのもよくない、ような気がする。
石化がまったく通用しない魔物が出てきたら一気にピンチになってしまう。
まあ石化に全面的に頼りきりではなく俺とルティナの魔法もあるが。
魔法だけでなく、俺がデュランダルを出す攻撃パターンもある。
こうしてみるとそれなりに分散はしているか。
いろいろな攻撃パターンを持つことで、いろいろな敵に対応できるようにしておくのがいいだろう。
石化が通用しない魔物くらいなら、実際いそうな気はするし。
敵として怖いのは、石化が効かない魔物、魔法に耐性のある魔物、デュランダルでもダメージを与えられない魔物か。
後、なにげに怖いのはロクサーヌが回避できない敵だ。
そんな敵が現れたら詰むような気がする。
一匹ならベスタをぶつけて耐久レースに持ち込むことになるだろうか。
しかし、石化が効かず、魔法でもデュランダルでもダメージを与えられず、ロクサーヌが回避できない攻撃をしてくる魔物がいたら、それはもう人類が詰んでいるだろう。
魔王とか、そういうレベルに違いない。
どうやって倒すというのか。
現実的には、この中のどれか一つを心配しておけば十分だろう。
あってせいぜい二つ。
それだって、杞憂になりかねない。
むやみに恐れることはかえって危険だ。
「ベスタ、ここまでのところ、激情の鋼鉄剣の使い具合はどうだ?」
「はい。今は右手で持って、なるべくこっちで攻撃するようにしています。魔物の攻撃を払うのに左側のみを使うようにするのが大変ですが、慣れれば大丈夫だと思います」
攻撃専用で使っているのか。
魔物の攻撃を剣で受けたときに石化することはないのだろうか。
魔物の体当たりを剣で受けたとき、それは魔物への攻撃になるだろうか。
なるだろう。
それならば、魔物の攻撃を受けたときに石化させることもあるのではないか。
まあ左手で受けている間に右手で二回攻撃するなら、そっち優先だろうけど。
そもそも、石化がいつ、どういうタイミングで起こるのかが分からないよな。
石化がいつ収束するのか、デコヒーレンスされるのかという問題だ。
シュレディンガーの猫がいつ死んだか分からないように、石化もいつ発生したか分からないかもしれない。
激情の鋼鉄剣を魔物に突き刺したらどうなるのか、とか。
継続ダメージになるのだろうか。
硬直のエストックなら突き刺せるよな。
折れるかもしれないのであまりそういうことはやってないみたいだが。
「慣れもあるかもしれないが、魔物の攻撃を受けたときにも石化が発動する可能性があるなら、二刀流の場合は剣に二本とも石化のスキルをつけたほうがいいのかもな」
「そうですね。二刀流と状態異常を引き起こす剣との相性がよいという話だったのも、そういう理由があるのかもしれません」
セリーが賛成してくれた。
「魔物の攻撃を受けた場合でも石化が発動するかどうか、確かめてみたほうがいいか?」
「別に普通に石化すると思いますが、発動した実績があれば安心ですね」
セリーの感覚では、普通に石化するらしい。
そうなんだろうか。
受けたときにも発動するなら、鎧につけて体当たりされたときに魔物が石化するようにできてもいいよな。
靴につけて魔物の上に飛び乗るとか。
グローブにもつけて殴る蹴るとか。
それで石化ダメージが入るなら暗殺者が最強すぎるような気がする。
ただ、魔物が殴りつけてきたのを剣で受ければ、当然魔物にダメージは入るだろう。
切れてるわけだし。
キレてないですよ、とはいかない。
ならば石化も同じか。
「ええと。しばらくはこっちの剣だけで受けるようにすればいいですか?」
「いや。どうなんだろうな。特に意識せず普通に戦ってみて、激情の鋼鉄剣で受けたときに石化することがあれば、教えてくれればいいんじゃないか」
「そうですね」
「分かりました。それでやってみようと思います」
サンゴのモンスターカードをルークから仕入れても、まだ使わなければいい。
一日二日様子を見るくらいはなんでもない。
セリーも賛成してくれたし、普通に戦えばいいだろう。
剣で受けたときには石化が発動しない場合に、いつまで様子を見ればいいかという問題も残るが。
まあそれはしょうがない。
「それよりも、ミリアのジョブである暗殺者がかなり有効っぽくないか」
「有効なのは間違いないでしょう」
セリーが賛同してくれるが、そうじゃないんだ。
違うジョブよりも有効、つまりぶっちゃけ、俺とルティナ以外は全員暗殺者にしてもいいくらいに有効、という話だ。
あまり別の人のジョブをけなすのもまずいだろうから、奥歯にもののはさまったような言い方になってしまうが。
別の人のジョブといっても、まあ俺が押し付けたわけだが。
ただ種族固有ジョブとかもあるしなあ。
真っ向から否定するのはやはりまずいかもしれない。
「前衛に暗殺者三人そろえるとか」
「それはどうでしょう。竜騎士がいるとパーティーが安定化するといいますし、ベスタの竜騎士はかなり役立っていると思います」
セリーは暗殺者三人に反対か。
まあ、竜騎士は体力特化だからな。
確かに役立ってはいそうだ。
これから被弾が増えれば、竜騎士の安定性はますます輝く。
上の階層へ進めば、被弾も増える。
ベスタのジョブは竜騎士のままがいいか。
ジョブ単体ではなく、パーティーメンバーに対してどういう効果を持っているかも見ていかなければならないということだな。
さすがセリーの意見だ。
「なるほど。セリーの言うとおりか」
「私なら、暗殺者になってもそれほど影響はないと思います」
ロクサーヌは回避メインだ。
それなのに回避士とかのジョブではないから、ジョブを変えても回避に影響はないかもしれない。
ロクサーヌなら一番動きの重いジョブにしても敵の攻撃をすいすいかわしそうだ。
重騎士とか。
あるのかないのか知らないが。
「ロクサーヌの巫女はいざというときに必要なジョブだからな」
「そうですね」
「そうですか」
万が一俺の回復が間に合わなくなったときの保険の意味もある。
転ばぬ先の杖。
石橋は叩いて壊す。
「というわけで、暗殺者を増やすとしたら、セリーになる」
そういうことだろう。
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