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おかわり

前回のあらすじ:装備品を騙し取られるかと心配したが杞憂だった

「そうなのか」

「はい。少々時間はかかるやもしれませんが、慈悲深い皇帝陛下のことゆえ、きっとなんらかの思し召しをいただけることでしょう。またのご下賜があるかもしれません」


 駿馬のエナメルハイヒールブーツは無事皇帝の下に届いたようだ。

 ありがたい。

 しかし、このセバスチャンの発言にはなんと返したらいいんだ?


 期待せずに待つ、は不敬だろうし、楽しみにして待つ、は調子に乗りすぎだろうし。

 待たないのは、そもそも論外だろうし。

 尊王的な正解は、お返しを期待して献上したわけではない、だろうが、それはかっこうつけすぎのような気がする。

 お返しはほしい。


 まあ最初はただのストッキングだったんだよな。

 そう考えると、別に期待するほどでもないか。

 しかし、皇帝から贈られていなければ、空きのスキルスロットがたくさんついたやつを自力で買えた。

 かえって、ないほうがよかったということだ。


 つまり、悪いのは皇帝だ。

 こっちは嫌々献上した。

 泣く泣く献上したのだ。

 そのことをどうか諸君らも思い出していただきたい。


「そうか」


 実際にはこんなことしか言えなかったが。

 まあいいだろう。


「これからも時々は顔を見せていただけるようにお願いします」

「分かった」


 皇帝からの下賜があった場合にいつまでも放置しておくことはできないのだろう。

 だから時々やって来いと。

 余計な用事が増えてしまった。

 やはり悪いのは皇帝か。


 まあ今までだって売店のチェックに時々は来ていた。

 たいして変わりがないとはいえるだろう。

 売店のチェック。

 いつまでアレが残っているか見守るだけの簡単なお仕事です。

 やはり悪いのは。


 うっかり尊きお方を誹謗してはどんなことになるかも分からないので、早めに退散することにする。

 尊きお方がたとえどんなに変態でも。

 王様の耳はロバの耳。

 不敬罪とかあるんだろうか。


 さっさとワープで家に戻った。

 この鬱憤は魔物相手に晴らす。

 クーラタル迷宮の三十八階層でボスを相手に連戦だ。

 相手は、複数いないと実力を発揮できないコーラスコーラル。


「やった、です」


 ミリアがびしばしと無効化していってくれる。

 気持ちいいくらいだ。

 まあ合唱そのものは、俺の雷魔法で麻痺させても防ぐことができるはずだが。

 はず、というのは、片方が歌っていて片方が麻痺しているという状況はまだ発生したことがないから。


 麻痺したら反撃を恐れずに滅多打ちできるので、ミリアがすぐに石化してくれる。

 麻痺は解けることもあるが、ボス戦に限ると今まで麻痺状態から回復したボスはほとんどいなかったと思う。

 ボス戦は二匹しか出てこないし、現れる場所も近いし。

 気づかないほどの短い時間だけ麻痺していたボスがいた可能性は別にして。


 遠くからやってきて近い方から順に石化していく必要のある雑魚戦では、遠方で最初にしびれた魔物の麻痺は普通に解ける。

 近づいてきた魔物を放っておいて挟み撃ちされるのも嫌だし。

 それはしょうがない。

 ボスはその分石化や麻痺に弱いとはいえるだろう。


 ボスのコーラスコーラルが合唱に成功したことは今までない。

 それくらいすぐにミリアが石化してくれる。

 現状ここのボスはコーラスできないコーラルだ。


 それでいいのか、コーラスコーラル。

 がんばれ、コーラスコーラル。

 敵を粉砕しろ、コーラスコーラル。

 俺たち以外の敵を。


 その敵が残した装備品は、俺たちにおいしくいただかせてもらいたい。

 つまり、俺たちの前にボス部屋に入るパーティーにつらく当たってほしい。

 コーラスコーラルの奮起に期待しよう。

 迷宮の興廃この一戦にあり、各員一層奮励努力せよ。


「よし。じゃあまたもう一周」


 Z旗を掲げ、ボス部屋を出た。


 いや、いかんな。

 他人の不幸を期待してはいけない。

 競争相手が失敗して自分が有利になることを期待してはいけない。

 人を呪わば穴二つ。


 危ない危ない。

 迷宮の闇に落ちるところだった。

 安易な道に走るのはやめた方がいい。

 装備品くらいは自分たちの力でなんとかすべきだろう。

 皇帝の力に頼ろうとしたら、かえって空きのスキルスロットがたくさんついたエナメルのハイヒールブーツを手に入れ損ねてしまったばかりだ。


 気を引き締める。

 一度三十九階層に出て、三十八階層のボス部屋近くの小部屋にワープで移動し、ボス部屋を目指した。

 途中出てくる雑魚敵を蹴散らしながら。

 これで一周だ。


 そうしてまたボス部屋に戻ってきたが、その間に誰か他のパーティーが入ってなかった場合、さっき奮起を期待したコーラスコーラルが待ちかまえているのではないだろうか。

 危ない。

 やはり人を呪わば穴二つだ。

 自分に返ってくる可能性があった。


「どうかしました?」


 ちょっとびびってしまった俺をロクサーヌがいぶかしむ。

 促されて、ボス部屋に向かった。

 まあ、こっちが勝手に奮起を期待したぐらいでボスが奮起するわけではなかろう。

 問題はない。


 ボスは、普通は待ちかまえているのではなく、こっちが中に入ってから出現するしな。

 人の多いクーラタルの迷宮だから誰かが入った可能性も結構ある。


「俺たちが三十九階層に抜けてから、誰か入っただろうか」

「分かりませんね。うーん。おかしなところはないと思いますが」


 どうせ分からないなら、否定せずに肯定してくれてもいいのではないだろうか。

 いや、だめか。

 ロクサーヌは、人が入って隠れているとかわなを仕掛けたとか、そういう心配を俺がしたと思っているのだろう。

 だから否定した。

 俺がかけたのろいのことなど知る由もない。


「いや。大丈夫だ。よし、やろう」


 お馬鹿な内心を悟られないよう、空元気を出してボス部屋に足を踏み入れる。

 中に、ボスが待ちかまえていたり、装備品が散らばっていたりはしていなかった。

 まあそうだよな。

 実際にそんな事態に直面したことはほとんどなかったし。


 煙が集まってボスが現れるが、特に変わったところも見られない。

 ない。

 ないよな。


「やった、です」


 などと注視している暇もなく、一匹無力化されてしまった。

 ありゃりゃ。

 今回はとりわけ早い。

 のろいとか奮起とか、全然なかった。


 もうここまでくると、これがコーラスコーラルの運命というものだろう。

 コーラスコーラルはこのように扉をたたくに違いない。

 歓喜の歌はうたえない。

 英雄には勝てないので、どこかの田園ででも暮らしていくしかない。


 これがコーラスコーラルの生きる道だ。

 三十三階層上では浮かぶ瀬もあるだろう。

 俺たちが行ったときに来てほしくはないが。


 残った一匹も、ロクサーヌが相手をしている以上、脅威にはなりようもない。

 当たらない攻撃を繰り返すだけだ。

 無駄無駄無駄。


 そうこうしているうちに、全員から袋叩きにあい、ミリアによって石化された。

 今回のボス戦も何事もなく終了だ。

 後は、動かなくなった魔物にとどめを刺す。

 坦々と魔法を打ち続ければいい。


 石化すると魔法耐性が下がる関係で、一匹ずつ順次に煙と消えていった。

 そして一匹ずつ、アイテムを残して消えて……ん?


「あ」

「モンスターカードですね」


 ボスが消えると、モンスターカードが残った。

 ロクサーヌが拾って持ってきてくれる。

 確かにモンスターカードだ。

 鑑定するとサンゴのモンスターカードと出た。


「サンゴのモンスターカードは石化だったよな。これでさらに戦力が整うな」

「はい。そうですね」


 セリーに確認して、こぶしを握る。

 これでパーティーを強化できるだろう。

 現状、うちのパーティーはミリアの石化頼みで戦っているのだし。

 石化する手が増えれば戦いやすくなるはずだ。


 いや。ミリアが活躍しているのはミリアが暗殺者だからか。

 状態異常確率アップのスキルがないと、そこまでの恩恵はないかもしれない。

 まああるかもしれない。

 少なくともないよりはマシだろう。


「しかし、モンスターカードなら、ボスからドロップしたのは惜しかったか」


 サンゴのモンスターカードは、コラーゲンコーラルでもコラージュコーラルでもコーラスコーラルでもドロップする、はずだ。

 それなのにボスのコーラスコーラルから出てしまったことは惜しい。

 ボスのほうがよいものをドロップするのだから。

 雑魚でも落とすなら雑魚が落とせばよかった。


「基本的には、上の階層へ行くほど、また階層に普通に現れる魔物よりボスのほうがモンスターカードは残しやすいとされています」


 ボスのほうが出しやすいからボスから出て当然ということか。

 別に惜しいわけではなかった。

 セリーの言葉を聞いて考え直す。

 よくドロップしてくれたと感謝しよう。


「まあなんにせよ出たことはありがたいな」

「そうですね」


 問題は、誰に使わせるか、ということか。

 俺とルティナは魔法メインだから除外、セリーも詠唱中断をがんばってほしいから除くとすると、ミリアはすでに持っているから、残りはロクサーヌとベスタになる。

 どちらにすべきか。


 いや。俺もありか?

 俺なら複数ジョブを持てるから、暗殺者になれる。

 簡単に除外せず、もうちょっと深く考えよう。


 俺の武器に石化のスキルをつけるメリットは、俺なら暗殺者になれることだ。

 暗殺者の状態異常確率アップが雷魔法にまで効果があれば、さらによい。

 槍を使って後ろから攻撃できる点もいい。


 ただし、暗殺者になれるからといって、なる余裕があるかどうか。

 冒険者、英雄、遊び人、魔道士、神官、博徒に加えて魔法使いと暗殺者までは、さすがに厳しい。

 エイトスジョブまで持てないことはないが。

 本当は五個か六個までに抑えておきたいくらいなのだ。


 これらの中でまず、冒険者、魔道士、遊び人は必須である。

 英雄も優先順位は高めで必要だろう。

 回復手段を捨てる手があるかどうか。

 できれば回復魔法を使える神官か僧侶のどっちかも欲しい。


 後は、俺が暗殺者をつけて石化攻撃をするのと、博徒をつけてミリアに石化攻撃させるのと、どっちの効果が高いか。

 いや。俺が石化攻撃を持たないとなると、もう一人誰かが石化手段を持つことになるからミリアたち複数人に石化攻撃をさせることになるか。

 それに加えて、俺が暗殺者をつけて石化攻撃をする場合と魔法使いをつけて魔法攻撃をする場合とでトータルの戦闘時間がどうなるか、という難問がある。


 こういったのは試してみなければ分からないが、試してみるには石化の武器を作る必要があるわけで、事前にテストすることはできない。

 状況によって変わりかねないし。

 例えば、二人が一匹の魔物に集中できるなら、俺は博徒で支援したほうがいいだろう。

 そんなシチュエーションがどこまであるかは別にして。


 もう一つ悪い点は、俺は魔法メインで戦うから、槍を使うのはどうしても後回しになるし、使う回数も減る。

 特に、魔法を使うと初手がそっちになって最初から石化攻撃ができないのはでかい。

 一秒でも早く石化できれば戦闘はそれだけ楽になる。

 初手から石化攻撃できる人を優先すべきだろう。


 次にロクサーヌ。

 ロクサーヌは前衛だから、武器に石化のスキルをつける恩恵は大きい。

 デメリットも、特にはない。


 ただし、デメリットではないが、優先すべきでない理由はある。

 俺たちのパーティーで魔物と対峙して一番安全なのはロクサーヌだ。

 ロクサーヌには最後まで戦っていてほしい。

 最後まで、と言うのはちょっと響きが悪いが、ロクサーヌが強敵を相手取っている間に周りから片づけていくのがうちのパーティーの基本戦略だろう。


 きっと本人もそれを希望するに違いない。

 うっかり石化の武器を渡して戦闘時間が短くなってしまったりして、すぐにもっと上の階層へ行きましょうなどとやられては目も当てられん。

 ロクサーヌは現状の戦闘ではまだまだ危機感を覚えていないだろうし。


 いや。そう見せていないだけで、本当は必死に戦っているという可能性も。

 それはないな。

 ないだろう。

 ロクサーヌの強化はやはり後回しだ。


 次にセリー。

 槍を持っているから後ろから攻撃できるという点は魅力だ。

 問題は、詠唱中断をメインと考えると、むちゃな攻撃はできないという点にある。

 魔物が詠唱するかどうかを監視しつつ、攻撃を繰り出すのは大変だ。

 二匹くらいならなんとかなるかもしれないが。


 魔物が多いときにはできればたくさんカバーしてほしい。

 そして、魔物が多いときこそ石化で数を減らしてほしいわけで。

 やはりセリーは後回しだろう。


 ミリアは、もう持ってるから当然はずすとなると。

 次はベスタ。

 メリットは、前衛なので石化攻撃に集中できる。

 いつでも、どこでも、何が相手でも。


 デメリットとして、石化二刀流の完成は次のサンゴのモンスターカードまでお預けで、しかも次のサンゴのモンスターカードを他の人に回せないという欠点まである。

 まあ、片手でけん制し、片手で石化攻撃ということができないわけではないか。

 それなら、二本めを後回しにするという手もある。


 次にルティナ。

 やはり魔法メインではあるが、俺よりも石化攻撃に傾注しても問題はない。

 問題点としては、後列から石化攻撃させるなら槍を持たせたい。

 もう一つ聖槍を手に入れるまではお預けか。


 今回サンゴのモンスターカードを使うのは、ベスタの武器が本命候補だろう。

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― 新着の感想 ―
一番バフ量が大きい勇者がっ
ストーリーが少しも進んでないw
[気になる点] 慈悲深い皇帝陛下のこと とセバスチャンが個人情報を漏らしていますが会の規約を破っているのでは? ミチオも知らない体でいるはずなので何らかのアクションなり、心で中で何かつぶやくのではと思…
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